新卒一括採用は悪くない、「変わらない」のが悪い
意外と歴史の古い一括採用
近年、長らく伝統とされてきた新卒一括採用を見直そうという動きが本格化している。それまでも見直そうという動きはあったものの、ファーストリテイリングの通年採用のように、一部の企業が取り組むだけと限定的だった。しかし、経団連が2018年に「就活ルール」を2021年卒以降を設けないと発表して以来、新卒採用の自由度が高まった。
現在は政府が「就活ルール」の順守を呼びかけているが、明らかに変化が起きている。特に大きなものが、インターシップからの採用だ。欧米のようにインターンシップから直接採用する企業は多くないが、インターンシップへの参加が採用に大きな影響を持つにいたった。
そのように、過去の制度として扱われがちな新卒一括採用だが、日経新聞のに面白い記事を見つけた。新卒採用の歴史を紐解いたもので、就活マニュアルは100年前から、一括採用は大正時代からあるという。
定期的な大量採用は効率が良い
人材獲得の生産性という目でみると、新卒一括採用は非常にコストパフォーマンスが高い。新人は育成前提だと割り切ることで、人材調達の難しい専門性が求められるポジションを既存人材の異動で賄い、スライドパズルのように空席を新卒の枠にまで持ってくる。そうして、新卒のポジションに溜まった空席を画一的な募集要項で大量に応募を集め、採用する。
人材調達の難しいポジションを異動や育成で補充できるのであれば、組織に適応して活躍できるかどうか不透明な中途採用を求めるよりも、新卒一括採用で充足したほうが不適応のリスクも少なく、コストも安い。高度な専門性を持った人材の採用は難易度が高いだけでなく、採用時の費用も大きなものとなる。
また、行政にとっても新卒一括採用は好ましい制度だ。定期的に新卒を大量採用することで、若年層の雇用を数多く生むことができる。欧米の他の先進諸国がどこも頭を悩ませるのが、若年層の失業率の高さだ。ポジションが空いたら、その都度、採用する仕組みでは毎年大量に学校を卒業する若年層の雇用を保証するには不安定だ。
加えて、ジョブ型では大学の専門性と職務がリンクする。つまり、新卒なら誰でも良いのではなく、新卒で任せたい専門知識を身に着けた学生ではないとポジションを埋めることができない。総合職というざっくりとした枠で採用ができる日本のシステムは、雇用の安定という面で非常に優れている。
新卒一括採用は限界か?
しかし、現実的には新卒一括採用を見直そうという企業が増えている。グローバリゼーションの流れで、日本独自の雇用慣行をグローバルスタンダードに合わせる必要がでている。
また、高度な専門性が求められるようになり、ジョブ型雇用の性格を強める企業が増えるなかで、日本も欧米と同様に学生時代の過ごし方と社会人としての活躍するフィールド(職務)との連携が求められるようになってきた。そうなると、一括採用ではなく、個別に採用したり、学生時代からインターンシップとして勤務することで見習い期間の前倒しが行われるのは時代の流れと言える。なにせ、そちらのほうが世界標準のため、合わせないとおいて行かれるだけだ。
一方で、新卒採用の重要性が下がったり、定期採用がなくなるかというとそうとも言えない。欧米で近年みられるのが、オンキャンパス・リクルーティングの増加だ。つまり、企業が大学に出向き、卒業前から内定を出して、卒業と同時に入社してもらう流れだ。
企業がいくら青田買いをしたがっても、大学のカリキュラムは変わらないし、卒業式を迎えないと入社させることができない。そのため、産業や業種で差異は出るものの、毎年、決まった時期に大学で採用活動が行われ、内定を出した後に半年から数か月のインターバルをもって、卒業後に入社してもらうという、新卒採用の定期性が生まれる。つまり、欧米の新卒採用が日本に似てくる。
日本の新卒採用が一気に欧米と同じように変わることは考えにくい。しかし、現在の欧米のオンキャンパス・リクルーティングの在り方と伝統的な日本の新卒一括採用の中間地点くらいに、新しい日本の新卒採用は落ち着くのではなかろうか。
問題は、伝統だと言って時代の変化に応じてアップデートされなかった「新卒一括採用」なのであって、うまく時代に合わせて変化させた「新卒採用」の在り方を手探りで見つけていく黎明期に今はあるといえる。