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京都市はなぜ赤字?ー都市経営戦略をアップデートするには

(Photo by Montse Monmo on Unsplash)
「都市経営戦略」というのは、耳慣れない言葉かもしれない。多くの都市の財政が苦しくなる中で、コスト管理だけでなく、都市としての成長戦略を持つことが重要になり、京都市にも昨年の4月に都市経営戦略室ができている。


京都市の現状

次の記事では、京都市が「日本の都市特性評価2021」調査で4年連続1位を逃したものの、2位に選ばれたと報じられている。京都市は「文化・交流」で1位、「研究・開発」で2位。文化財の指定件数などハード面での評価が昨年に引き続き高かったほか、トップ大学数や論文投稿数が多く、高評価につながったという。

その一方で次の記事には、京都市が10年以内に企業の“破産”に当たる「財政再生団体」に転落するおそれがあることを報じている。実質的な借金の残高は8500億円だ。どうして、これほど文化資本の豊かな京都市が赤字で財政危機なのだろうか?

財政悪化にはさまざまな原因がある。もっとも大きいのが、万年赤字を垂れ流している市営地下鉄、そしてコロナ禍で赤字になった市営バスなど、市営モビリティの赤字補填だ。だが、京都市民からすると、オーバーツーリズムに戻さなければ黒字にならないのならば、構造的に問題なのではないかと思う。

次の記事によると、京都市民150万人のうち、10%にあたる15万人が70歳以上で「敬老乗車証制度」の対象者になるそうだ。ここからもう少し負担をいただくことで、ずいぶんと財政が好転するということのようだ。

京都市はまた、日本一の大学生の街でもある。15万人の大学生が京都で学んでいる。高齢者が多く、そして学生も多い京都市において、住民税を納める人の割合は約43.1%と、政令指定都市で最低だという。これが税収が伸びない大きな要因なのである。

そして、京都市は景観重視の条例により、高層ホテルやマンションを立てにくく、それゆえ固定資産税が伸びにくい構造になっている。もちろん、神社仏閣が多いことも京都市の特徴である。

都市経営の競争戦略を考える

では、京都市を一つの企業のように捉えて、競争戦略を考えてみたい。

競争戦略は、「競争」という言葉がついているので、他社といわゆる競争をしそうなのだが、競争戦略の父と呼ばれるマイケルポーターは、競争戦略には「独自性をめざす競争」が重要という。逆に「最善をめざす競争」をしてしまうと、コスト競争に陥り、みんな共倒れしてしまう。

優れた戦略は、「独自の価値提案」があり、それを実現するための「特別なバリューチェーン」を持っている。さらに、このバリューチェーンが全体にわたって「適合性(フィット)」がなければならない。フィットとは、バリューチェーンに属するあらゆる要素が、コンフリクトすることなく、お互いに価値を高め合っているということである。

これはもともと企業戦略の話ではあるが、それを都市経営に当てはめてみると、「京都市にしかない独自の価値提案」があり、これを行政だけでなく、京都市に関わるあらゆる企業やNPOを含めた、「特別なバリューチェーン」が存在し、それが「フィット」していることになる。

これまでの京都市の戦略を振り返ってみると、観光を中心に据えた成長戦略を描いていたわけだが、観光客を増やそうとするとホテルを増やして景観を崩すことになったり、オーバーツーリズムによって住民満足度が下がったりと、バリューチェーンのフィットがなく、優れた戦略を持っているとは言えなかった

京都企業の長期的視点を都市経営に活かす

京都企業の特徴として、次のような印象的な話を聞いたことがある。「京都企業の経営者は、自分の代で大きく成長させることよりも、自分の次の代、次の次の代に会社が潰れないことを考えて意思決定をする」と。これは、他の都市にはない強みであろう。

これを活かすならば、京都は「世界で最も1000年企業の多い都市」をめざす都市経営戦略をとってはどうだろうか。産官学が一体となって、1000年先を見た経営を最も実現しやすい都市にするのだ。「1000年企業になりたければ京都に来て」と自信を持って言えるような都市経営にする。京都市(行政)と京都企業(現在の企業・NPO、未来の起業家を含む)が一体となって動く都市経営戦略を持つ。そして、あらゆる経営者に「自分の会社が1000年続くとしたら?」という問いを投げかけるのだ。

市民協働イノベーションエコシステムを育む

そして、京都市が1000年企業の力を活用して、「協働を資本」にしていくための重要な概念が、「市民協働イノベーションエコシステム」である。

その前提となる、「イノベーションエコシステム」という概念をご存知だろうか。「複数の企業や、様々な経済的・社会的要素間で相互作用し、イノベーションが連鎖的に生み出されていくネットワークや場」と定義される。通常は、イノベーションエコシステムというと、シリコンバレーなどのスタートアップ企業がたくさん生まれる都市を指すことが多い。

このイノベーションエコシステムを市民主導のイノベーションに拡張した概念として、私は「市民協働イノベーションエコシステム」を提唱している。市民協働イノベーションエコシステムは、「企業、大学、NPO・まちづくり団体、行政などが相互作用することで、イノベーション(社会課題への新たな解決策や行動、発想など)が連鎖的に生み出されていくネットワークや場」と定義できる。昨年度、私たちは京都市の市民協働イノベーションエコシステムを調査し、調査結果を京都市のWebサイトから発信した。

市民協働イノベーションエコシステムの効果は、企業(地域企業、大企業、中小企業、個人事業主等)、大学、NPO・まちづくり団体との間でイノベーションエコシステムを構築・活用することで、京都市の未来をつくるイノベーションが次々に起きるような状況を生み出すことである。

次図に示した通り、これまでの行政の市民協働は、行政が決めた計画や施策などを普及啓発するために使われることが多かった。そうなると「協働はコスト」となる。京都市のように財政が悪くなると、ここのコストは削られてしまいやすい。その一方で、市民協働イノベーションエコシステムの存在を前提として、自発的なコミュニティが生み出す地域活動を集め、都市全体にインパクトが出るように促進することを自治体が行えば、「協働は資本」となる。

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例えば「コンポスト」の取り組みは、市民発でスタートしやすいことで知られる。次の記事は、ごみの資源化の取り組みについて報じている。

コンポストは、生ゴミを家庭で土に戻し、それを有機農業に循環させていく仕組みだ。日本各地でこの仕組みが広がっている。このようなコミュニティから始まった取り組みを行政が仕組み化することで、ごみを減らしたり、有機農業や地産地消のネットワークを広げることができる。それによって、市民主導のカーボンニュートラルにつなげることができるのだ。

都市経営戦略をアップデートする

企業も都市も、本気で戦略を変えるのは、危機の時だ。京都市はこれまでも市民力を売りにしてきた。しかし、経済を支える観光産業と市民力は時には対立し、ジレンマを抱えていた。良い戦略を持つということは、「どんな人に観光に来てほしいか」を明確にすることである。

京都市が市民力と1000年企業を最大の資源として捉え直し、各地域で「市民協働の循環のまちづくり」を進めていくならば、伝統文化だけでなく、循環まちづくり自体が観光コンテンツになってくるだろう。それによって、京都市の市民力を高め、1000年企業を支援することが、京都の脱炭素を進めることになり、それを求めて持続可能性に魅力を感じる「責任ある旅行者」が京都に訪れるようになる。これこそが、京都市の都市経営戦略になるはずだ。

都市の未来を行政任せにする時代は終わった。都市経営戦略は、行政だけでなく、地域の企業、NPO、市民が主体的に活躍することで成立する。これは、行政の仕事を民間に任せるという発想とはまったく異なる。シビックプライドの高い地域企業、NPO、市民が行政と協力して、地域の未来をつくるイノベーションを戦略的に実現していく発想へとアップデートしていく必要があるだろう。

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