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稼げてないのに賃上げする?給与の原資を考えよう

春闘の賃上げに最低賃金底上げでも実感は?

国際的な物価の上昇と世界的な賃上げの流れから、長年、平均所得が停滞しているといわれてきた日本にも変化が起きそうだと期待されたのが2023年だ。日経新聞の記事にあるように、2023年の春季労使交渉による賃上げは30年ぶりの高さとなった。
しかし、実感として賃上げで生活が楽になったという感覚を持つ人は限られている。まず、物価の上昇に対して賃上げが追いついていない。また、役職定年や定年後再雇用で、50代以上の収入が激減する現実もある。最低賃金があがっても、社会保険や税金による負担を避けるための年収コントロールする非正規社員も依然としてある。

給与水準はなぜ上がるか?

1990年代までは、働けば働くほど給与水準が上がり、生活が豊かになった。それは、少し前の中国、現在のインドやASEAN諸国が体験している様子と似ている。気が付けば、日本の平均年収は韓国と台湾に抜かれ、部長級の給与水準はタイ以下だ。
なぜ急成長していた時代の日本やアジア諸国は給与があがるのに、日本は難しいのか。ユニコーン企業の数では負けているものの、グローバル企業の数も大企業の数も日本はそれらの国よりも多い。それどころか、欧州のほとんどの国よりも大企業の数は多い。にもかかわらず、日本は停滞している。
理由は単純だ。現金がないのだ。給与の原資は、企業が保有する現金であり、付加価値の高い事業をするほど現金がプールしやすい。売り上げ規模が大きくても、付加価値の低いビジネスモデルでは現金が集まらない。
会社が儲けた分のうち、どれだけ従業員に使用したかを示す指標として「労働分配率」がある。付加価値に占める人件費の割合で財務分析における生産性を表す。
労働政策研究・研修機構によると、2021年の日本の労働分配率(推定値)は50.1%だ。この水準は、カナダ(50.9%)、フランス(49.9%)に近しい。お隣の韓国は47.4%だ。つまり、付加価値に占める人件費の割合は他国と比べて低いわけではない。しかし、給与水準が低いということは、付加価値の低いビジネスモデルをしているということになる。
現在は、世界的な物価上昇や最低賃金の引き上げなど、外的要因でなんとか給与水準を上げようとしている。しかし、以前から日本の労働分配率が他国と比べて低くはないとすると、現在の賃上げは企業にとって人件費の増加で負担が大きくなっているともいえる。ワイドショー的に「日本企業は内部留保をため込んで従業員に還元していない」といった埋蔵金論は建設的ではない。
結局のところ、付加価値が大きな、新しいビジネスモデルへの転換が賃上げでは重要なのだ。付加価値が小さくても、失敗のリスクが少なく、安定したビジネスモデルにしがみついていると、じわじわと苦しくなるだけである。

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