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「出生数激減」などという煽り報道に踊らされず、問題の本質を見る目を持ちたい

いろんな数字を羅列していて、専門知識のない一般読者(もしくは書いている記者自身も知らないかもしれないが)は混乱するような書かれ方がされているので解説したい。

人口動態調査には、速報値と概数値と確定値と3つの数字が存在する。それぞれ発表の時期が違うことによるが、この3つの違いを理解しておかないと年間で違う3つの数字が混在し、どれが正しいのかわからなくなる。

1年に何回も「出生数が過去最低!」などという煽り報道を見かけると思うが、それは速報・概数・確定のそれぞれの数字が出るたびにメディアが煽りたがるからである。

当然ながら、経年推移をみるときには速報は速報、概数は概数、確定は確定で比較しないととんでもないことになる。とんでもないことになるのだが、一部メディアの報道や有識者でも平気でその間違いをおかしている場合があるので注意が必要だ。

さて、2021年の数字は、2022年3月1日現在、速報値しか出ていない。よって今の報道で出ている数字はすべて速報値である。しかし、この速報値は、毎年かなり確定値の段階で数字が変わる

なぜなら、たとえば出生でいえば、速報値は、日本における日本人及び外国人、並びに外国における日本人も含まれるし、前年以前発生のものまで含まれた数字であるのに対し、概数と確定値は日本在住の日本人だけのものになるためである。

2021年の出生数が84万2897人ということだが、実際に確定報に掲載される場合はそれが少し変わる。死亡も婚姻も離婚もすべてそうだ。

どれくらい違うのかを直近3年間で集計したのが以下である。

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ざっくりいえば、出生は速報値より確定値はマイナス4%弱、死亡はマイナス1%弱、婚姻は約2%台、離婚も2%弱というところだろうか。

厚労省では速報値に基づく概数推計というのも出していたが、今はその推計は出していない。なので、非常に簡単だが、過去2年間の速報と確定の五津平均に基づく2021年の年間確定値推計を個人的に出してみた。

それによれば、2021年の出生数は81万1866人となる。2021年のこの数字は、特に驚くべき数字ではない。なぜなら、すでに2017年時点での社人研の推計で出された数字の予想の範囲内だからだ。

そもそも人口動態は確度の高い推計が可能な統計である。ちなみに、1997年の推計と日の後の実績値を見てみれば、ほぼ推計通りに推移していることがわかる。

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推計にも3つあって、高位推計、中位推計、低位推計とあるが、高位推計はいい加減なものでどうでもいい。中位推計は割と現実に即しているが政治の願望が入っているので妥当性はない。低位推計というのが、割と官僚の本気の推計でこれこそがリアリティがある。事実、低位推計通りなのだから。

2017年にも将来推計が出ているが、これに基づいて実績推移をみるて、中位と低の中間地点で推移していることがわかる。むしろ、出生は低位推計より今までは善戦しているほうだと思う。

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善戦している最大の理由は、結婚した女性が産んでいる子どもの数の比率は1980年代から変わっていないからである。出生数の数が減っているのは、母親が産む子どもの数が減っているからではなく、そもそも子を生む母親の数自体が減っているからに他ならない。私はそれを「少母化」と呼んでいる。

「少子化をなんとかしなくちゃいけない」などという政治家がよくいるが、そう言ってる彼本人だってなんともならないことくらい知っている。何度もいうように、1990年代に第三次ベビーブームが来なかった時点で、今後出生数があがることは100%ないからだ。

それについてはこちらに書いた通りだ。

記事ではこんなコメントが紹介されているが…

第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「都心部の住宅価格が高騰するなか、共働き支援のために住居費への支援も不可欠だ」と追加対策が必要だと強調する。

枝葉末節の話でこんな対策が奏功することなどありえない。

長年の少子化対策が、出生した子どもに対する「子育て支援」に偏重してきた結果が如実に表れているのだと思う。 昨年コロナ禍での18歳以下子どもの給付金もそうですが、実はもっとも経済的に苦しい若年独身男女の経済的支援がほとんど無視されている。支援どころか消費税や社会保険負担増で苦しくなってさえいる。結婚すれば夫婦は平均2人の子どもを産みます。出生数が減るのは単純に婚姻数が減少しているからに他ならない。子育て支援は否定しないがそれは少子化対策にはならない。

1980年代までの皆婚時代は、お見合いや職場縁などの社会的お節介システムが機能していた。現在はまるで、若者に経済的犠牲を押し付け、「結婚は贅沢な消費であり、低所得者は諦めろ」というマイナスの社会的システムを機能させているかのようで、婚姻減出生減が進むのは当たり前

必要なのは、一過性のバラマキではなく、若者の雇用と所得の底上げと長期的な安心だろう。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。