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クリエイターの消費・オワコン化を予防するための試行錯誤

2021年の年の瀬、多方面のクリエイターから静かに熱い反響を巻き起こしたある記事がありました。大人気の発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの2021年振り返り記事です。

仕事の成果としてもわかりやすく上手くいったものはなく、地味なことをコツコツ積み上げながら三歩進んで二歩下がる、ならまだ良いのですが、ちょっと積み上げたと思ったらガラガラ崩れて二歩進んで三歩下がる、の試行錯誤の連続。

小倉ヒラクさん公式サイトより https://hirakuogura.com/?p=13436

以前能楽師の安田登さんから、世阿弥の「男時(おどき)」と「女時(めどき)」の話を聞きました。男時は勢いがあってどんどん前に進んで結果が出る時期、女時は不安で前に進めず結果も出ない時期。人生にはこの2つが交差しながら紡がれていく。常に勢いの良い時期だけを過ごすことはできないわけです。
世阿弥にならうならば、今年は迷いの時期。ならば開き直ってちゃんと負けよう!と秋口くらいに覚悟して、状況が改善されないことを前提にして、それでも自分のできることを淡々とやり続けた年末。ようやく来年以降への突破口が見えてきた(ような気がする)。

小倉ヒラクさん公式サイトより https://hirakuogura.com/?p=13436

わかる……めっちゃわかる……!!!

同じ時代を生きる人間としては共感することしきりだったのですが、
新年早々に下北沢BONUS TRACKに「祈りのインターフェース展」設営のため向かった際に、そんなヒラクさんと久しぶりにご対面。

その時にヒラクさんと何気なく繰り広げた「クリエイターは3年に一度ペースで新しい弾を仕込まないと、今は上手くいっていたとしても、じょじょに選手生命が枯渇するのでは?」という立ち話(立ち作戦会議?)が、今年の立ち回りを考える上で非常に参考になる、重要な概念だった気がします。

くぐり抜けてきた修羅場の数や今背負っているものの重さが私とヒラクさんでは違うので、自分の方からの言葉は大分軽くなる可能性もあるなと思いつつ、興味深い内容なので自分の方でも掘り下げてみたいと思います。

新しい球を仕込んでいく、3年サイクル

私見ですが、クリエイターとして生計を立てている人が一過性ではなく健康的に末永く生きのびていくためには、以下のような3年サイクル(人によって個人差はあると思いますが)が必要だと感じています。

  1. 新しいことに投資する年

  2. その投資を回収・換金する年

  3. 収穫物をうまく運用・育成しつつ、もう片足で次の新たな種を探す年

ひとつずつ、詳細をご説明します。

①新しいことに投資する年

全勢力かけて、フルスロットルで自分がいま形にすべきと思った新しいことを形にする攻めの年。
すぐにはお金にならないかもしれませんが(それどころか赤字で自分の財を食いつぶす可能性もありますが)ここで生み出した自分にとっての新機軸が、その後の自分のクリエイター生命を延命させてくれます。

自分にとっては、例えば2019年に制作した「仮想通貨奉納祭」などがこれにあたります。その説はご支援いただいた皆様、本当にありがとうございました……!!🙏🙇🏻


②先行投資を回収・換金する年

新しいことをやるためには自分の持ちうる限りの社会的・人的・資金的なリソースを投入する必要があることが多いですが
ずっとフルスロットルでの新しいことへの投資モードを毎年続けていると、資金がショートしたり、心身が消耗しきってしまいます。若い頃ならそれでも大丈夫かもしれないけど、三十路超えには厳しいものがある(特に、自分のような根性や体力のない人間には……)。

なので、新しいプロジェクトを名刺や広告代わりにし、収益になる案件をどんどん引っ張ってきて、手持ち資金を潤すフェーズも必要です。

このあたりの関係性は、インタラクション・デザイナーの奥田透也さんも言及されています。

「にわとりとたまご」なんですよね。実績がないと良い仕事が来ない、良い仕事が来ないと実績ができない……みたいな。だから、つくれる人は自分で発信して、実績化しちゃうのが一番良い戦略だと思います。そういう意味で、僕もグループ展など自分発信の活動はちゃんと続けていきたいです。

https://advanced.massmedian.co.jp/article/detail/id=670


③収穫物をうまく運用・育成しつつ、もう片足で次の新たな種を探す年

当時新しかったことも、やはり2〜3年もすると、世の中のトレンドとズレてきたり、新規性を失いはじめたりしてきます。
そのため、実績を運用して引き続き収益を得ながらも、もうひとつの軸足では次なる新しいプロジェクトの種を探していく必要があります。
このフェーズでは、堅実に収益をつくるために地に足をつけながらも、鳥のように様々な分野に知見を広げ、多くのヒントやインプットを得る必要があります(自分のケースだと、知見を広げるためのインタビュー連載を2018年に仕込んでいたりしました)

事業規模がもっと大きければ、もっと長いスパンで考えられるのでしょうが、ただ、個人クリエイターの場合は、数十年とかの長いサイクルで考えるのは厳しいので、年単位が妥当かなと(テックの巨人になると、先行投資の規模もでかくて凄い)。

新しいことがホームラン級にうまくいった時、その成果と功績で一生生きていけるような錯覚に陥りますが(実際、しばらくはうまくいくのですが)
しかしそういった成功体験には賞味期限があり、その実績をずっと生涯の印籠のように運用していくことは難しいです。

また次の山を探し、登らないといけない

ずっと過去の成功体験にすがっていたらその先に待ち受けるのは右肩下がりの未来、自分の旬のリソースを使い果たして簡単に「オワコン」と化してしまう。
そのため何か表現して生きている人は、小倉ヒラクさんの言う「"話聞いてもらえるおじさん"として己の古典芸能化」を避けるためにも、新しいことに常に(とは言わないまでも、定期的に)挑戦し続けないといけない。

以下、ヒラクさんのスパイシーな記事からの引用です。

「話聞いてもらえるおじさん」とは、業界である程度地位を築いた後に立場だけで無条件に他人に話を聞いてもらえるようになった結果、過去に売れた自著に書いてある鉄板エピソードを人前でひたすらリピートするだけのインスピレーション皆無状態になったおじさんを指します。

小倉ヒラクさん公式サイトより https://hirakuogura.com/?p=10304

しかるべきキャリアを積み、属する業界でそれなりの地位をゲットし、後輩に教え育てる立場になると「過去」への接し方が変わる。おじさんがキャリアを形成する過程において「過去」は「挑戦し乗り越えるもの」だったはずが、ある程度キャリアが形成されると「自分に利益をもたらすもの」になる。
すると過去の自分の武器であった「挑戦するメリット」が「失敗を犯すデメリット」に転化し、今の自分の武器である「型をなぞるメリット」とぶつかり合うことになる。このシーソーが「過去を守る」ほうに傾くと、悪い意味で己の「古典芸能化」が始まる(スゴい古典芸能は常に挑戦しているのだが)。

小倉ヒラクさん公式サイトより https://hirakuogura.com/?p=10304

自分のオワコン化・古典芸能化に抗うためにバタ足を続けるような泥臭い生き方が嫌だったら、組織内政治に勤しんで着実に昇給していくような賢い人生に切り替えていけばいいのですが、
いかんせんそういう生き方の才能がなく向いてなかった勢なので、腹をくくってクリエイターに課せられているこの厄介な業を背負っていかねばなりません。難儀な人生です。

新しい球を仕込みにくい(そのわりに変化が必要な)状況の現在

ただ、クリエイターは定期的に新しいことを仕掛けていかねばならない一方で、コロナ禍が長期化するなかで、いろんなクリエイターがいま少なからず枯渇感を感じているのかもしれないなと思っています(というか、自分自身がそう)。

世情が激動すぎてマトモに対応するだけで忙しいし(オミクロンによる突然の国境移動のロック対応とか、急なスケジュール変更とか……)、自由に移動・往来したり人と会ったりして新たなインプットを得ることにも制限がかかるから、どうしても新しいことへの創造性が枯渇する。
いま大型プロジェクトを仕掛けても、予期せぬ理由で中止になるかもしれないから、リスク分散の意味でも自分がリスクを取れる範囲の、小粒なプロジェクトが増えてしまう。
結果、器用貧乏になる。負のループ……!!!

この状況は今年も大きくは変わらなそうなので、対策を考えないとと思いました。これについてはまだ答えは出ていないのですが。
またヒラクさんとオンラインでお茶しつつ、作戦会議したいと思います。よろしくお願いいたします(下北沢に向かって念を飛ばしている)

発酵デパートメントおすすめ商品紹介コーナー(おまけ)

最後に。ヒラクさんが下北沢で運営されている発酵デパートメントですが、めくるめく未知なる味の旅が広がっており、グルメな人にもそうじゃない人にもぜひおすすめしたい知と発酵のジャングルです……!

自分は発酵や食についてそんなに詳しいわけでもないビギナーですが、発酵デパートメントで買ってみて感動した商品についてご紹介します。

酢の概念が崩壊する、心の酢

そもそも酢という物体があまり好きじゃなかったのですが、「心の酢」は酢の概念を買えてきました。なんなんだろう、このフルーティーで爽やかな酸味と旨味のある美しい液体は……!??これ、まじで酢なの!?

画像:発酵デパートメント公式ストアより

商品ページにも掲載されている「玉ねぎとスモークサーモンのマリネ」が、簡単な割にとても美味しいので、入手の際にはぜひ錬成してみてください。

キッコーゴ醤油

導入するだけで日々の料理が自動的に格上げされる、ヤバい醤油です。自分はなくなると禁断症状が出ます。

醤油が切れると薬物の売人の会話を繰り広げてしまうぐらい、日々の生活に欠かせない一軍の調味料です。


うまみの爆弾、塩麹

え、塩麹?なんに使うの?と思っていたのですが、料理上手な編集者の知人に強くオススメされて導入してみた塩麹。

塩分が必要な時に、塩の代わりに軽率にぶっこんでみたら、ものすごい凶悪にうまい汁が出来上がりました。

これらすべてが入った、定番詰め合わせセットもあります。素晴らしい。

あとはオンラインストアにはなかったのですが、土屋酒造さんの日本酒は、日本酒が苦手だった自分がはじめて心から美味しいと思い、日本酒をいろいろ飲み始めるきっかけになった日本酒でした。発酵デパートメントの店舗に行かれた際にはぜひ。日本酒好きにも日本酒嫌いにも飲んでほしい……!

どれも、値段が手頃なわりに、日々の暮らしのQOLをじわじわと底上げしてくれる製品ですので、オミクロンが猛威をふるい、在宅時間がふたたび増えている昨今、発酵ブツのテイスティングや錬成(調理)にいそしんではいかがでしょうか。自分もまとめているそばから、色々欲しくなってきた、、、


さて、最後は発酵ブツ紹介コーナーとなってしまいましたが、コロナ禍も消耗戦モードになり、新しい時代に向けて色んな人が新機軸を見いださないといけないご時世となりました。
大変だな〜〜、と思う一方で、楽しみな自分もおります。皆様もご健闘を祈ります&なかなか直接お会いできないご時世ですが、SNSやオンラインで作戦会議していきましょう・・・・!!!!

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市原えつこ(アーティスト)
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