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地方移住は自分の意志ではない移住者に冷たい【日経COMEMO_テーマ企画_遅刻組】

活気づく地方移住

コロナがきっかけで一気に加速したが、地方移住は近年の静かなトレンドとなっていた。地方都市の人口流出に比べれば微々たるもので、人口減少を食い止めるほどのインパクトはない。しかし、様々な理由で大都市から地方に移住してきた人々によって、活気づいた地方は多い。

今回は、日経COMEMOのテーマ企画「#ずっと都会で働きますか」と関連付けて考察していく。

例えば、大分県別府温泉の鉄輪は、長らく古いビジネスモデルからの脱却と担い手の世代交代が課題だった。地元大学生がカフェや土産物屋を出店しても長続きせず、就活のネタで終わっていた。こう言い切ってしまうのは、20年前に私が学生時代に散々不義理をした懺悔でもある。

しかし、2019年4月に、東京と大分の二拠点生活をする若者らによってOPENしたコワーキングスペース「a side -満寿屋-」は、今や鉄輪地区の活性化の拠点として中心的な役割を担っている。温泉を利用したワーケーションの拠点としてだけではなく、デザイナーや文筆家などのクリエイターの集まるコワーキングスペースとしても人気だ。

そして、コロナによって、地方移住は更に拍車がかかっている。東京近郊だと熱海がバブル並みの特需だという。まだ移住まで結びついていないようだが、斉藤栄市長は「過渡期を迎えたと前向きに考えたい」と受け止めている。

大分県では竹田市が、移住の問い合わせが急増し、対応に追われている。本年度は10月末までに98件と前年同期の1・5倍。市企画情報課は「地方暮らしの心地よさに目が向けられ、需要が高まった」と語る。

地方移住は女性のキャリアを潰すか

私が東京から大分に移住したのは2017年12月だ。ちょうど、その年の夏に知り合いの大分大学の教授に食事をしようと誘われ、応募しないかと声をかけられたのがきっかけだ。それからもうすぐ3年たつが、14年前の学生時代に住んでいたころと比べて随分と生活の便が良くなっていることに驚いた。

日経新聞の記事にあるように、普通に暮らす分には「何もあきらめない地方移住」ができるようにも思える。

その一方で、良いことばかりではない。特に、女性活躍に関する問題が大きい。具体的には、女性が活躍できる職場が極端に少ない。若手の大学教員が赴任するとき、家族同伴なことが多いが、働く場所がないために配偶者はキャリアを諦めるケースが多い。これは何も求人がないわけではなく、都会で培ってきた専門性やキャリアを継続できる職がないミスマッチが原因だ。

これが国際結婚でもしようものなら、職探しのハードルは一層跳ね上がる。地方移住で女性が生き生きと働きたいのであれば、フリーランスや起業でもしなければ無理ではないかと思うほどだ。

東京の会社で働きながら、地方で住むことができれば幸せかもしれない。しかし、運よくできたとしても、そのような生活が長続きするだろうか。また、そのような企業の絶対数は少ない。

地方移住は自分の意志で来ていない人に冷たい

そもそも、地方移住を推しつつ、多くの地方都市は既にいる転勤族という移住者に冷たい。

単身赴任できた若者は、地域社会からはじかれた状態で、家と職場を往復するだけの生活になりがちだ。これまで所属してきた組織には、縁もゆかりもない土地を数年ごとに移住するために都度発生する人間関係の構築に疲れ、パチンコだけが憩いという転勤族が何人もいた。

また、家族の転勤に付いてきた家族も同様だ。転勤族の子供がいじめのターゲットにされるというのは、昭和の時代から続く社会問題だ。そして、転勤によってキャリアをあきらめざる得ない配偶者の存在も軽視してはいけない。

移住促進と言いつつ、このような転勤族が幸せに暮らし、その土地のファンとなるように環境作りができている地方都市がどれほどあるだろうか。移住者や関係人口を増やしたいと思うのであれば、まずは毎年大量に発生する異動による転勤者の生活の幸福度を上げることに注力してみてはいかがだろうか?

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