脱炭素は、計算式の枠を超えて、楽しいものになるか?
「脱炭素」という言葉を聞いたことがあるだろうか。カタカナ横文字で言えば、「カーボンニュートラル」というやつだ。省エネのようなものでもあり、再エネの話のようでもある。私たち一人ひとりが「脱炭素」をどう取り扱っていくべきか、少し考えてみたい。
企業のカーボンニュートラルの計算
カーボンニュートラルは、厳密な計算式で導かれる。炭素の排出量は計算できるので、それをどのくらい削減できるかが、まず問われる。
企業の脱炭素は分かりやすい。バリューチェーンで燃料を使ったり、物を移動させたりすれば、その分の炭素が排出される。これをできるだけ減らす努力を各企業がし始めている。でも、ゼロにすることはできないので、ニュートラルにしないといけない。ここがややこしい。
企業自らが植林してカーボンをマイナスにするという方法もあるが、それだけでは足りないだろう。そこで「クレジット」を買うことになる。クレジットは、誰かがどばっと植林したり、太陽光パネルをどばっと配置した時などに、そこで減らした分の炭素量をお金に換算して買えるようにしたものだ。イメージとしては、植林や自然エネルギーに取り組んだ人が、その減らした分を金に変えるわけだ。買った人は、クレジットを買って、自分の出した炭素分をリセットする。
これだけ考えると、市民の私たちにできることはあまりない。企業が炭素を減らして、最後にはクレジットを買うという話だ。消費者としてまたは株主として、脱炭素に後ろ向きな企業の商品や株を買わないということはできる。
自治体のカーボンニュートラルはどう計算されるのか
これが自治体になると、さらにややこしくなる。自治体の出す炭素というのは、地域の中で産業セクターが排出する炭素、つまり地域内の工場だったり、オフィスやホテル、商店など、また移動手段も含まれる。加えて、住民の出す炭素だが、これはほとんどが家で使うエネルギーだ。これらを削減する努力をしたうえで、それでも炭素排出はゼロにはできないので、それをマイナスにするのは林業事業者の存在と、再エネ事業者の存在になる。
私のよく知る京都市や相模原市などの政令指定都市は、少し前に山間地域の町を合併吸収して大きくなった。そうすると、林業の盛んな山も合併していることになる。それは、皮肉にもカーボンニュートラルを自治体が実現するうえで、たいへん大きな助けになるのだ。脱炭素実現のために自治体が山間部を吸収合併する、というロジックにも聞こえて、なんだか不思議なものだ。
いずれにしても、私たち市民が自治体の脱炭素に貢献するには、計算式上は、家で省エネするしかない。脱炭素の計算上のベストエフォートは、ゼロエネルギーハウスに建て替えることである。断熱バッチリにして、太陽光パネルを屋根につければ、それで十分である。
計算式に振り回されるな
地球温暖化を防ぐことは、とても重要なことだ。しかし、計算式だけを見て、「なんだガソリン車をやめてEVにして、家をゼロエネルギーハウスにすれば完璧か」と思い込んでしまってはいけない。
再エネは短期的にはカーボンニュートラルの計算式に入るが、多くの弊害がすでに予想されている。景観を損なう、森林の伐採が生態系を脅かす、治水や防水面の危険が高まるなど、一見環境に良さそうな再エネ開発は、環境破壊、景観や文化の破壊にもなりかねない。
脱炭素ライフスタイルへと変身しよう
次の記事は、地域企業が集まって、みんなで脱炭素につながるビジネスを盛り上げていこうという銀行の取り組みだ。耕作放棄地などで太陽光発電する計画を掲げるほか、食品残さを使った再エネ電力の研究や、廃品などを付加価値の高い品に変えるアップサイクルといったサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指すという。
必要なことは、「脱炭素の計算式に沿った行動をする」ことではなく、「脱炭素をきっかけにビジネスのやり方や市民としてのくらし方をイノベートする」ことではないだろうか。
脱炭素は、企業にとってはオープンイノベーションに取り組むチャンスであり、まちにとっては自然や文化の持続可能性を高めるチャンスであり、そして個人にとっては自分自身の人生を自然やコミュニティとつながり直すチャンスになる、そんなコンセプトにしたいものだ。
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