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地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す④【ケーススタディ:フード業界編】

地方からユニコーン企業を創出することを考えるとき、新たな産業を創り出すのか、それとも既存の産業を発展延長させていくのかという2つの方向性が考えられる。ヨーゼフ・シュンペーター博士の理論を援用すると、新たな産業を生み出そうという方向性は変革型イノベーション(Radical Innovation)となり、既存の産業を発展延長させていく方向性は漸進的イノベーション(Incremental Innovation)と言えるだろう。

結論から言えば、地方創生のためには、どちらか一方に傾注するのではなく、バランス感覚を持って両方のイノベーションを活性化させていくことが望ましい。だが、実際は漸進的イノベーションのほうが発想や挑戦が容易であり、変革型イノベーションを志向し、新たな産業を創り出すことは困難だ。

それでは、地方都市から新産業を生み出すにはどのような方法があるのか?もちろん、AIや自動運転、再生医療などの最先端の科学技術を優位性とすることは難しいだろう。そこで、CBインサイトの公開しているユニコーン企業のリストから、既存のテクノロジーの掛け合わせで成功を収めている企業の多いフード業界に焦点を当てる。CBインサイトのリストには、フード業界に分類されている企業が5社(うち1社は、初回に挙げた「BrewDog」)ある。その中から、既存市場を打ち壊している代表的な3社を事例として選び、地方から新産業を生み出すことのヒントを探していきたい。


1. 中国最大級のB2B型フードオンラインマーケットプレイス「美菜」

フード業界のユニコーン企業の中で、最も評価額の大きな企業が中国の「美菜 (Meicai)」(約2800億円)である。北京で2014年6月に創設された美菜は、中国国内の農家と中小規模の飲食店をつなぐ、中国最大級のB2B型フードオンラインマーケットプレイスだ。

農家から供給される農作物と飲食店の需要をマッチングさせ、農家からまとめて直接調達できるプラットフォームを作ることで、中国の農作物のサプライチェーンに変革をもたらしている。従来の農作物のサプライチェーンは、卸売業者など、複数の中間業者が介するため、コストがかかり、効率性に乏しいことに着目して、飲食店がスマホアプリから調達したい食材を探し、オンラインで注文すると、18時間以内に注文した商品が指定場所に届くビジネスモデルを構築した。

このビジネスモデルを支えるのは、自前の物流システムである。物流拠点となる倉庫や配送体制を自社で保有することで、サプライチェーンを効率化し、新鮮な農作物を短時間で飲食店に届ける仕組みを構築することに成功した。


2. スターバックスを追い越すか!「Luckin Coffee」

フード業界の中国発ユニコーン企業は、もう1社ある。デリバリー&ピックアップ専門のコーヒーショップである「Luckin Coffee」だ。Luckin Coffee は2017年7月、廈門(アモイ)で設立され、1年に満たない期間で約1400店舗展開し、1,200万人以上の中国消費者にサービスを提供している。急成長を遂げている企業だ。中国のコーヒーショップ市場はスターバックスが圧倒的に強く、長らく一強状態にあるが、硬直した市場に風穴を開けようとしている。

Luckin Coffeeの特徴は、モバイル志向な若者やビジネスパーソンのライフスタイルに合わせた運営スタイルにある。利用者は、アプリで注文と決済を行い、デリバリーか、店頭でのピックアップかを選ぶ。その後、顧客はLuckin CoffeeのQRコードを読み込むことでコーヒーを受け取ることができる。モバイル化とキャッシュレス化の先進国となっている中国市場のニーズや若者の嗜好を見事にとらえ、いまどきの消費スタイルを確立している。


3. ファーストフードの既成概念を壊す「Sweet Green」

ファーストフードというと、多くの人が抱くイメージは「不健康な食文化」だろう。炭水化物と動物性脂質が過剰なジャンクフードだ。しかし、Sweet Greenはファーストフード店でありながら、「健康な食文化」を提供する。サラダのファーストフードチェーンだ。

2007年にワシントンDCの街角の小さな1店舗からスタートした同社は、10年間で全米に70店舗以上を展開するほど急成長を遂げている。スタートアップ企業らしく、アプリによる事前オーダーや、全店で「キャッシュレス」を導入するなど、最新テクノロジーの導入にも積極的に取り組んでいる。ヘルスコンシャス(健康に意識的)な米国の若者のライフスタイルに受け入れられ、時代の流れを上手く掴んでビジネスを展開している。

しかし、Sweet Greenの成長の原動力は、ユニークな商品展開やテクノロジーだけではない。積極的なコミュニティー作りが成功の鍵となっている。契機は2店舗目をオープンさせた時だ。1号店の成功を受け、2店舗目をオープンさせたものの、初日も2日目も、そして3日目もほとんど人が来なかった。PRチームを雇い、告知に力を入れたにも関わらずだ。しかも、1か月後には3店舗目のオープンも控えていた。

そこで、同社の創業者たちは、週末に大きなスピーカーとDJブースを設置し、「自分たちがかっこいい、良いと思う音楽」を大音量で店の前で流した。彼らが選んだ音楽を気に入り、徐々に客が客を呼び、すぐに30~40人が行列をなす店に成長したという。この経験から、Sweet Greenは開業して間もない段階で「その街角、そのエリアでいかに自分たちのコミュニティーを築けるか」という明確な事業指針を確立している。


4. フード業界のユニコーン企業にみる3つの特徴

これらのユニコーン企業は、フード業界に変革型のイノベーションを巻き起こし、成功を収めている。これらの企業には3つの特徴がある。

第1に、現代のライフスタイルに合わせた、独自のビジネスモデルを確立していることだ。ビジネス環境の変化スピードは早く、既存のビジネスモデルでは顧客のライフスタイルの変化に対応し切れているわけではない。その結果、「ファーストフードは健康に悪い」「農作物のサプライチェーンには中間業者が必要」「コーヒーショップはコミュニケーションを楽しむもの」といった、それまでの常識を打ち壊すことに成功している。

第2に、商品やサービスが優れているだけではなく、商品やサービスを利用する新たなライフスタイルをユーザーに提供していることだ。Sweet Greenがサラダを提供するファストフード店としてだけでは顧客に受け入れられず、コミュニティを作ることで成功したように、革新的なプロダクトやサービスはその価値がわかりにくい。そのため、Sweet Greenは音楽を活用することでコミュニティを作り、自分たちのビジネスが実現したい世界観を作り出している。ユーザーはサラダを楽しむだけではなく、Sweet Greenの創り出す新しいライフスタイルを楽しんでいる。

同様に、Luckin Coffeeの新たなコーヒーショップの在り方も、ユーザーに新たなライフスタイルを提案している。スターバックスは、コーヒーを通したコミュニケーションを重視し、我々に新しいライフスタイルを提案してきた。しかし、Luckin Coffeeの提案するライフスタイルはスターバックスの真逆だ。コーヒーを飲む場や店員との間にコミュニケーションは必要なく、その代わり「いつでも、どこでもコーヒーを楽しめる」「コーヒーを頼むのに行列に並ぶ必要がない」ことが売りだ。

第3に、テクノロジーを積極的に活用することだ。テクノロジーを積極的に活用すると言っても、シリコンバレーのように「まだ誰も開発に成功していない、新たなアルゴリズムを創り出すこと」のような先進性は必要ない。トレンドをしっかりと抑え、時代の流れに取り残されないことだ。Airbnbも、技術的には革新的なものはなく、既存のテクノロジーの組み合わせでアプリ開発が行われたという話は有名だ。ただ、ビジネスの先進性を確保するために、業界に大きな影響を及ぼすテクノロジーを取り入れ、ビジネスモデルをアップデートし続けることが肝要だ。


5. まとめ

フード業界は、起業のハードルが比較的低い業種だ。カフェや居酒屋など、現状でも数多くの飲食店が日本中で生まれては消えてを繰り返している。今回の事例で取り上げた Sweet Greenも、大学を卒業したばかりの若者が初めは小さな店舗からスタートしている。同様に、第1回で取り上げたBrewdogも、24歳の若者がかなり少額の資金からスタートしている。つまり、資金や人材を集めにくい地方都市でも事業を始めやすい。

既存の商慣習に捉われることなく、現代の人々が求めているライフスタイルからビジネスモデルを作り、ユーザーに対して魅力的なライフスタイルを提示する。このように、フードサービスによって新たなライフスタイルを作り上げ、ファンを増やしていくことが成功に導いている。

フード業界は可能性に溢れている。しかも、「食」のビジネスはマクドナルドやスターバックスのように、新たなライフスタイルが受け入れられることで全世界に広がっていくことができる大きな潜在能力を持つ。全世界の人々のライフスタイルを変革するような、企業が地方から出てくると期待している。

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大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。
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