見出し画像

THE MODELなマーケターが見るKPIはリード獲得単価、商談獲得単価、受注単価

営業の仕組みづくりにまず成功したのは米国だった。東京と異なり、米国は広大だ。かつては、米国でもリード(見込み客)の獲得から受注までを営業が担当していたが、営業が製品を持ってまだ製品の存在さえ知らない顧客を求めて国中を飛び回るのはあまりに効率が悪い。
まず、リードの獲得という役割をマーケティング部が担うようになった。すると、マーケティングが持ってきたリードがゆるい、商談に結びつかないと営業が文句を言うようになる。
だから、マーケと営業の間にインサイドセールスという役割の部署がおかれた。リードを商談につなげるように製品やサービスの効用を知らせ、顧客の興味を喚起する役割だ。リード作りをマーケティングが、商談作りをインサイドセールスが、提案や契約を営業が担うようにした。

「分業」のメリット、デメリット

「THE MODEL」の本質は、生産性向上を目的とした営業プロセスの分業だと筆者は考えています。一方で、分業が目的化してしまい、逆に生産性が低下する事例はよく聞きます。これを四文字熟語で「本末転倒」と言います。

「分業」とは、(顧客目線で見て)発見から発注まで1本のプロセスを担っていた営業人員を、役割別に分割することを意味しています。

BtoBマーケティングの場合、以下のような感じでしょうか。

(分業前)「1本の線」で営業活動を描く
(分業後)分業により「複数の線」で営業活動を描く

組織によってプロセスの分割の仕方は様々あるでしょうが、大半は「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4本かと考えます。

もちろん、組織によっては「マーケティング」をさらに分割し、パーセプションを生むチーム、イベントを仕掛けるチーム、WEBサイトと広告による集客を行うチーム…と細かい役割を設けているかもしれません。

あくまで「生産性の向上」が目的ですから「こうしなきゃ駄目!」と決まった唯一無二の選択肢は無い…というのが筆者のスタンスです。

分業によるメリットは、1人1人が役割に特化することで、処理にかかる工数を短縮できることにあります。

例えば、以下の図のように「あいうえお」「12345」「ABCDE」をマス目に順に入力する場合、横から書くより縦に書く方が早いに決まっています。実際に測ってみると約1.5倍くらい違います。「生産性の向上」と「役割のシンプルさ(専門特化)」は、強い相関関係にあります。

文字の入力、横が早いか? 縦が早いか?

では、分業によるデメリットは、専門特化する故に部分最適化に陥ること…に見えますが、実は違います。筆者は、このデメリットを誤解してたあまりに何度も出血した経験があります。(血尿とかマジの出血です)

分かりやすく説明するために、ある工場における直列なM工程、I工程、F工程の処理件数推移で説明します。

M工程、I工程、F工程には、それぞれ人員が配置され平均的な処理件数/日が分かっています。単純化にするため「平均20件/日」としましょう。仮に100件処理するなら、必要な日にちは「7日間」です。

工程別に処理されて7日目に100件完成

しかし実際には、以下図のように工程でバラツキが必ず発生します。平均20件とは毎回必ず20件とは限りません。「平均」なのです。

M工程が気合と根性で5日間で終えたとしても、I工程の処理件数は前工程の処理量に依存するので、処理件数の振れ幅がさらに大きくなります。標準偏差が高まるのです。結果、5日目に前日まで処理を積み残した4件分の対応ができたけど、持ち越しが発生し6日間作業することになりました。

実際の工程はこんな感じ。5日目に後れを取り返すも上手くいかず。

すなわち分業によるデメリットは、工程別のマネジメントの難易度が飛躍的に跳ね上がることです。工程別にリソースマネジメントしても意味は無く、フローでマネジメントする必要があります。

しかし「THE MODEL」を導入している組織の大半が、今まで通り、予算や人などのリソースを分業された部署別に管理します。だから「処理にもっとも統計的バラツキのある部署」(図で言えばI工程)がボトルネックとなり、想定以下の生産能力しか発揮できず、予算未達に陥るのです。

実際には、「THE MODEL」を導入すると、フロー(流れ)をマネジメントする役割が比較的早期に必要になってきます。その役割を担うのは、事業責任者かもしれないし、いわゆるPMMかもしれません。

筆者は「THE MODEL」なBtoBマーケティングでは、もっとも最初の工程を担うマーケティング部門がやるべきだ…と考えています。なぜなら、工程の先頭に立っているからです。


マーケターが見るべき指標とは

デメリットは「悪」ではなく、単なる現実です。生産性(質)の拡大は点で押さえ、生産量の拡大は線で押さえ、異常を検知次第すぐにアラートを上げれば、そこまでデメリットにならないと感じています。

マーケティング部門がフローをマネジメントするなら、点と線、それぞれKPIに置き換えて考えると、何の指標を見るべきでしょうか。筆者はリード獲得単価、商談獲得単価、受注単価だと考えています。

「THE MODEL」なBtoBマーケティングでは、以下のようなフロー図が比較的有名かもしれません。

広告予算から受注数まで1本線で描けるのが特徴

筆者はファイナンス観点でフローを捉えた方が良い派です。結局、事業はファイナンスだからです。

ちなみにリード獲得単価、商談獲得単価、受注単価をKPIとして押さえると、広告宣伝費を軸にリード件数、商談設定率、商談実施件数、受注率、受注件数、ユニットエコノミクスも押さえることになります。

ファイナンス観点で見るKPI

無理やりPLの辻褄を合わせなくても良いと思いますが、アクセルを踏むべきか、ブレーキを踏むべきかはファイナンス観点の軸を起点に考えるべきではないでしょうか。生まれたばかりの事業でユニットエコノミクスを目指すのは無謀ですが、受注した顧客のLTVと受注単価は知っておくべきです。

ちなみにマーケティング部門が受注単価まで見るのは、広告とプロモーションだけの世界に閉じ籠らないためです。リード獲得単価が何万円だろうと、受注に至らなければマーケティングの成功とは言えません。

マーケティング部門が目指すべきはリード獲得単価の最適化ではなく、受注単価の最適化です。したがって、ある時期においては広告出稿を極限まで絞り込んで、アポ取りサービスにリソースを寄せ商談件数を最大化するなど、プロモーションの変数は複数確保しておくべきです。変数の多さが、マーケティング施策の自由度を高めます。

何より、受注までマネジメントするということは、フィールドセールス部門と連携し、適切なコミュニケーションを取り、協業し、想定する受注単価を上回っていれば何が原因か一緒に探ることまでを想定しています。

筆者の場合、商談実施~受注の工程に参画し、フィールドセールスのメンバーと協業して受注率数%台から20%台にまで上げた経験があります。大変でしたけど。いや、マジで。この時に血尿が出ましたわ。


月単位で見るか、施策単位で見るか

BtoBマーケティングが複雑になる要因は「検討期間」だと考えます。1か月~長いと半年以上かかる場合もあり、半年後に結局失注と分かって計画が破綻する…という経験をお持ちの方は少なからずいるでしょう。

1月に支払った広告宣伝費がリードとなり、2月~3月に商談となり、5月~6月に受注かどうか決まる。こうした月を跨いだビジネスを、どうやってマネジメントすれば良いでしょうか。

複雑になってくると、あるn月の受注件数の商談発生月別内訳が以下のようなミルフィーユ構造になって「商談獲得単価とは?」「受注単価とは?」と深く考えてしまいます。

受注件数の内訳をみると当月50%、前月20%、前々月15%、前々々月5%…と。頭痛い

そこで、月別だけでなく、チャネル別(なるべく施策別)に落とし込んで指標を見るのが良いと考えています。

例えばチャネル別であれば23年1月にFB広告にX万円のコストを支払い、リード獲得単価、商談獲得単価、受注単価が何万円だったかを把握します。1月に獲得したリードが翌月に商談となり、半年後に受注となっても「1月に発生したコストで生まれた商談、受注」として計算するのです。

そうすると「この施策で売上、利益が確保できているか」が見えてきます。もし月によって乱高下するなら3か月分移動平均で見ても良いでしょう。

チャネル別発生月起点の指標

この考え方に立てば、マーケティング施策でよく「この施策は集客メインなんです」と語られる大規模カンファレンスへの投資も「受注したか否か」で判断できます。

筆者の場合は「X万の投資でA件リード獲得した後、10か月でB件商談獲得して、C件受注したから投資対効果はYである」というロジックで申請承認を頂いておりました。

もっとも、このロジックは1点問題があります。それは、いわゆる「間接効果」の按配です。BtoBマーケティングは複数の施策を経て商談に至るのが一般的です。以下のような施策を経た場合、施策Aに商談1件とするべきでしょうか、それとも按分して0.3件とするべきでしょうか?

施策の間接効果はどう考える?

MA/SFAで商談管理をする場合、間接効果の按分が出来なくて非常に大変でございます。マジで楽に集計できる方法を実装してくれないかな~と思っています。

筆者の場合、アドエビスの間接効果機能を使うか、手動で計算するかの二択でした。そして按配(均等配分)の場合と初回のみの場合で商談獲得単価、受注単価を見ていました。

ただ、規模が大きくなると非常に大変なので(主に計算が)、いずれMMMでやりたいな…と考えております。BtoBマーケティングの施策効果をMMM起点で検証する事例はまだ無いと思うので、完成したら報告します。


数字を見るマーケティング

マーケティングとは顧客を起点に考える行為全般だと筆者は考えます。

そのために右脳と左脳を働かせて、インサイトを見つけ、クリエイティブとコピーに落とし込むことは何より重要だと考えています。

一方で、今回紹介したような、枠組みを作り、数字と組織をマネジメントする行為もマーケティングであると筆者は考えています。論理と数字を使って左脳的でありながら、全体の構図を描くのは右脳的でもあります。

余談ですが、こういう非常に泥臭い作業を、筆者は何年もやってきました。それはそれは泥水を啜るような苦しい体験でございました。

「松本さんって理論的だけど実践の経験が無さそう」と言われる機会も多いので、2023年は泥も出していこうと思います。

BtoBマーケティングと言えば、ソーシャル上では「マーケティング部門と営業部門が喧嘩して~」みたいな人間関係論も多いようです。そうだけど、そうじゃねえんだ。そこじゃねえんだ。

以上、お手数ですがよろしくお願いします。

1本書くのに、だいたい3〜5営業日くらいかかっています。良かったら缶コーヒー1本のサポートをお願いします。