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世界の「再現」から「再構成」へ 〜「メタバース×まち」のアート思考的可能性

ちわっす!メタバースクリエイターズ若宮っす!

今日は「メタバース×まち」の新しい可能性について書きたいと思います。


高浜町でメタバースアイデアソンをしてきました

先週土日、福井県で高浜町さんとメタバースクリエイターズのコラボ企画として、町民のみなさんとクリエイターによる「メタバースアイデアソン」を開催してきました。

最近VR界隈では「メタバースヨコスカ」が話題になっているように

自治体によるメタバース活用の事例がますます増えていますが、

今回の企画はメタバース上にワールドをつくるというだけではなく、町民を巻き込んだアイデアソンだというのが新しい点で、おそらく自治体の取り組みとして全国初の試みだったと思います。


メタバースについて自治体や企業から相談を受けることも多いのですが、メタバースでなにができるのか、どんなものをつくったらいいのかわからない、と企画段階で詰まってしまうケースもけっこうあります。そこでメタバースクリエイターズでは伴走しながらみなさん一緒に発想していただく、企業向けの「メタバースワークショップ」の提供をはじめたのですが、その第一号案件でもあります。


高浜町は、町役場の方もはじめ新しいことにチャレンジするマインドを持った町なのですが、「メタバースで何ができるかわからないけど、とりあえず町民と考えてみたい!」というお話から今回のアイデアソン開催になりました。普通は何をつくったらいいかわからない、となったらそこで止まることが多いのですが、いったんやってみる、というマインドが高浜町なのです。

ローカルtoグローバル。海外へ何を発信しつながりを創っていこう。
高浜町の魅力をみんなで考え、学び、発信していく!
速く発信するなら一人でもイイ。
遠くまで届けたいなら、みんなで!

当日は中学生から70代80代の方まで幅広い方に参加いただき、「高浜町の魅力が伝わるメタバースコンテンツを町のみんなで考えよう!」というテーマのもと様々なアイディアが生まれました。


アイデアソンの流れ

いきなりアイディアを出そう、といっても、メタバースに触れたことや聞いたこともあまりない、という方もまだまだ多いので、まず最初に1時間程度メタバースについてのレクチャーを行いました。

メタバースって何?という定義の話から始まり、グローバルなメタバースの現状やその楽しさ、可能性についてお話し、その後VRChatやRoblox、ZEPETO、spatialのデモも。

シニアの皆さんもVRもワークショップも積極的に楽しまれていました


メタバースについて少し具体的にイメージできるようになったら、チームに分かれて2時間のワークショップをし、案を出し合ってもらいます。
そしてそこで生まれたアイディアをクリエイターの「VR蕎麦屋元タナベ」さんが一晩でメタバース上に実装する荒業により実現し、翌日朝には具現化した案を町民のみなさんでVRで体験いただきました。

「メタバースワークショップ」といっても今回は初めての試みかつ皆さんメタバースに触れるのがほぼ始めてというのもあり、ヘッドセットをしてメタバースの「中」で議論したり、blenderなどで実際につくってもらう、とかはさすがにハードルが高すぎます。

なので、基本的には紙の上でワークショップを進行。まず高浜町の誇れる要素や、高浜町といえばこれ!というものをブレスト的にたくさん出してもらい、その後でメタバース上の高浜町のコンセプトを考え、手描きのイラストを交えてA2の用紙の上に表現してもらいました。

最後に各チームからアイディアをプレゼンテーション。参加者同士で投票して最優秀が決まりました。

ワークショップで出たアイディアは多岐にわたり、高浜町のDEEP HISTORYをフィーチャーして、馬頭観音像を美少年アバター化する、高浜のよいところを集めた「はひふへほ」型の建物を建てる、など色々なアイディアが出ました。

美少年アバターの馬頭観音
はひふへほ


この中学生チームが考えたアイディアが最も人気で優勝!メタバースに実現されました。

アイディアボードも設置


ただ「再現」するのではなく「再構成」する

アイデアソンをやってみて、メタバースと町の掛け算で広がる新しい可能性を感じました。メタバースを通じ、町を新しい視点から再認識し、新たな魅力を発見する体験です。

自治体のメタバース活用では、「バーチャル〇〇」など現実の街をデジタルツイン的にいかに忠実に再現するかが目指されることも多いと思います。もちろんそれもよいのですが、今回のアイデアソンでは起こっていたことはそうした「再現」ではありませんでした


時間的な制約もあり高浜町の全ての建物や要素を再現できるわけではなかったのもありますが、各チームが短時間でそれぞれキーワードを出しコンセプトを決める中で、物理的には同じ町であっても、チームごとに全く異なる特色のメタバースが生まれたのです。

よく考えてみると実は現実の世界認識でもそうなのですが、同じ高浜町に住んでいても、そのどんなところに魅力や愛着を感じるか、どんな風に町を捉えているか、というのは一人ひとり違います。

そうした「自分にとっての高浜町」を抽出し「再構成」することで、色々な高浜町が生まれたわけです。それは物理の高浜町とは異なりますが、ある意味では物理的な高浜町以上に自分にとってリアルであるとも言えます。

メタバースでは世界そのものをつくることが出来てしまうのですから、現実の世界をそのまま「再現」することにとどまる必要はありません。新しい捉え方で「再構成」することができるのです。

現実の町の大きさやロケーションをそのままトレースしなくてもいい。実際には青葉山の上にある中山寺というお寺を、海岸に配置することもできます。

砂浜に中山寺がある


印象派以降のアートや浮世絵は当時の「メタバース」?

これは例えばアートにおける印象派以降の絵画にも似ています。

西洋ではルネサンス期まで絵画は基本的に「再現」を目指してきました。「まるで本物のように」「現実世界のモノをその通りに」を目指してわざを磨き、遠近法において一つの技法的な完成をみます。

しかし、こうした客観的な「再現」に対し、印象派以降の芸術家は疑義を呈していきます。人が世界を認識する以上、ひとつの客観的な世界があるのではなく、人それぞれなはず。こうして芸術は自分らしい「世界の捉え方」を提示していくようになります。

たとえばセザンヌはこんな言葉を残しています。

自然に基づいて絵画を描くことは、対象を写生することではない。自分の感動を現実化することである。

ピカソやマティスの絵画をみれば、それが見た通りの「再現」でないことは一目瞭然です。


そして西洋の近代をまたずとも、日本の浮世絵もまさにそういう創作です。浮世絵に描かれるのは世界のそのままの写生ではなく、作者の目を通して「再構成」された世界にほかなりません。むしろ西洋近代の芸術家は浮世絵のこうした表現に強い影響を受けたのですよね。


印象派以降のアートや浮世絵における世界の捉え方は物理世界の「再現」ではなく「再構成」によって新たな現実としてつくり出すものです。その意味では、近代絵画や浮世絵は当時のメタバースだったと言えるのかもしれません。


再構成された世界が現実をも変えてしまう

ワークショップで出たアイディアで個人的に好きだったのは「三角パン」です。高浜町は「青葉山」という三角形のシンボリックな山があるのですが、これに重ねて山と同じくらいの大きさの三角パンを置く、いうアイディアで、とても面白いと思いました。

青葉山と三角パン

その比喩的な形態の還元は、セザンヌを彷彿とすらします。

また、優勝の中学生チームからは海中のお化け屋敷というアイディアが出ました。

海中おばけやしきと巨大な赤ふん白ふん坊や

これもまた物理世界では実現が難しい発想ですが、メタバースの中では、こうしたアイディアが実際に形になり、VRで実際に体験することができます。

そしてその体験を通じ、「再構成」された高浜町のイメージは物理世界にも逆流し、見慣れた高浜町の町並みも変えてしまうかもしれません。青葉山をみて三角パンを、三角パンをみて青葉山を感じ、海底にあるお化け屋敷に思いを馳せる。それはアニメの聖地巡礼のように、物理世界に二重写しになり、世界の認識に影響するのです。


まちの魅力をメタバースを通じて、あたらしい目で捉え直す

「メタバース×町」のアイデアソンを通じ、メタバースな自由な視点で「町」を捉え直すことで、見慣れた町が「再構成」され、その魅力に改めて気づく。

メタバースの面白さは、現実をそのまま「再現」するだけでなく、そこに想像力やクリエイティビティを加え、新しい世界を作り出せることです。

それは近代の絵画や浮世絵のように、物理世界や客観世界という一面的な世界の捉え方を一度外して、改めて世界に出会うことであり、再構成や再構築を通じて町を改めて「自分のもの」にすることでもあります。こうした体験は、町への愛着を強めるきっかけになるでしょう。

そしてメタバースアイデアソンでは、世代を超えた多くの人々との交流の場ともなりました。特に、新しいテクノロジーであることもあって、中学生のような若い世代のアイディアが生き生きとその場をリードしていたこともとても印象的でした。


「メタバース×町」のアイデアソンをしてみてとても面白かったですし、その体験を通じ世界の認識や現実すら変容してしまう、そんなリアルとメタバースがまぐわうような可能性を感じたので、今後たくさんの自治体に広がっていくといいなと思いました。

興味のある自治体のみなさまは、メタバースクリエイターズ、メタバースクリエイターズまでお気軽にご相談ください(宣伝)


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