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コラボを待ち望む伝統文化

これまで、「伝統」や「匠」と呼ばれる技術と私との接点は、ものづくりの産業だけに限られていた。でも最近では、伝統文化にも触れてみたいと思うことが多くなってきた。年を重ねて少し心の余裕を持てたからか、京都にオフィスを構えたからかは分からないが、少しずつ色々なジャンルの伝統文化に触れ始めている。アート、工芸、寺社仏閣、教会、人形浄瑠璃、刀剣や甲冑、藍染、亀など、この1年間で様々な伝統文化の担い手と話をさせてもらえる貴重な機会を得てきた。

そうした機会の中で感じたことは、「文化をもっと色々な人に知ってもらいたい、伝えたい」という担い手の切なる願いだ。担い手は、人々が文化と触れて、共に育んでいくことで、人生を豊かにできると考えている。もちろん「貴重な文化を守っていかなくてはいけない。ここで絶やすわけにはいかない」といった気持ちも強いが、それ以上に、文化のある暮らしの素晴らしさを人々に伝えたいと思っているような気がする。いかにして、文化に触れてもらうきっかけをつくるかが大事なポイントだ。

歌舞伎では既に様々な取り組みが行われてきた。その時代に流行ったものを取り入れた新たなイベントや舞台を作ってきた。少し前には京都で「鬼滅の刃」×「京都南座 歌舞伎ノ舘」が企画されていたのを思い出す。こうしたイベントをきっかけに歌舞伎の文化に触れてもらうことで、新たなファンや担い手の候補を能動的に生み出していくことが重要だろう。

昨年の冬、京都のコンサートホールで、義経・弁慶の物語を題材にした「能と長唄のコラボ舞台」があったという。少し玄人向けのような気がするが、このコラボは非常に珍しい組み合わせだという。長唄三味線に合わせた能の舞は、躍動感に溢れ、新たな魅力を見出した人も多くいたのだという。型を崩さずに、新しい魅力を見出す。演者は「お互いの様子を見ながら間の違いを呼吸で合わせる」という至難の技をやり切ったのだ。

文楽の世界では、先月「切場語り」に3人が昇格した。人形浄瑠璃文楽の語り手である太夫の最高位で、いわゆる文楽の柱だ。昇格に際して、語られた言葉の中にはとても興味深いものがあった。後輩に身をもって示す際に、「ここは言い伝え」「ここは私の考え」と変えてはいけないものは伝えつつ、「ただ一つの正解、模範としてでなく、あくまで一つのやり方として示していけたら」と話している。文楽の世界にも、守りと攻めの感覚があり、未来へと繋ぎ、未来を生み出す覚悟があるように感じた。

伝統技術のコラボを積極的に仕掛ける取り組みも増えてきた。例えば、ふるさと納税サイトを運営するトラストバンクの創業者、須永珠代氏が始めたビジネスだ。都市の富裕層のお金で地方の伝統技術を守る。伝統技術に先端技術を組み合わせて新たなブランドを作るという。「各県の織物を使ったニットタイが一堂に揃うのをみると、伝統技術の多様さと可能性を感じる」とブランド創りを進めている寺西氏は言う。伝統技術は、コラボ心をくすぐる力を持っているのだろう。

伝統工芸と海外のデザイナーとのコラボも増えている。都の「江戸東京きらりプロジェクト」の一環で、「江戸木目込み人形の制作技術を駆使した筒状の箱」や「冠組(ゆるぎぐみ)と呼ばれる組みひもを編み込みんだしなやかな肌触りの座面を持つスツール」などを作り上げた。どちらも日本の伝統工芸と文化の違うフランス人の感覚が融合して、これまでにないデザインの商品が完成した。日本の職人にとっても大きな刺激になったようだ。

ふと、「芸能の力を信じる人 野村萬斎」という記事が目に止まった。「時折、世間の伝統芸能に対する関心の薄さに、打ちのめされることがある」と始まった記事だが、芸能への強い想いが伝わってくる。芸能の持つ「人を高揚させ、動かす力」を信じているのが伝わってくる。野村氏の夢のひとつは、以前から交流の深い犬童監督に「能学を題材に映画を撮ってもらうこと」だ。文化が混じり合う世界。どんな映画になるか今からとても楽しみだ。必ず見に行こうと思う。文化を身に纏って豊かな日常を過ごしていきたいと思う。


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