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共働き増加で増えたのは「ブラック主婦業」か?


厚労省「厚生労働白書」によれば、1980年専業主婦世帯は共働き世帯の2倍ありました。ところが、今では逆に専業主婦世帯は共働き世帯の半分にまで減少し、世帯構成比率が完全に逆転しました。

共働き世帯が増加し始めたのは、バブル崩壊後の1990年代から。奇しくも、それは生涯未婚率が上昇し始めた時と同じタイミングです。

現在の未婚化が進んだ要因に「男の貧困」があります。つまり、結婚して一家の大黒柱として支える経済力がないために結婚できないと考える若者が多いということです。「男が一家を養うべし」「男は仕事、女は家庭」という男女役割分担規範は、たかが明治以降100年くらいの歴史しかないのに、まるで日本人の伝統のように勘違いしている人が多いのも問題です。

現実には共働き世帯がマジョリティであるにも関わらず、日本人夫婦の中にもこの「専業主婦規範」が根強く残っていることをご存じでしょうか?

2015年内閣府男女共同参画局の実施した「地域における女性の活躍に関する意識調査」より、全国都道府県別の「専業主婦規範」の違いについて見てみたいと思います。対象は20~60代男女23500人です。

各設問に対する賛成意見(「そう思う」「ややそう思う」の合計)との男女差分で比較します。要するに、男女(夫婦)で意識の乖離がどれくらいあるかということです。

まず、“自分の家庭の理想は、「夫が外で働き、妻が家を守る」ことだ”という設問に対してですが、男性の賛成が多い県と女性の賛成が多い県とほぼ半々で分かれました。

© 荒川和久 独自作成につき無断転載禁止

和歌山県では男性の方の専業主婦願望が強く、広島県では逆に女性の方が強いということです。もちろん、これはあくまで調査対象者個人の「理想」ということですから、実際の状況とは異なります。

ご自分のお住まいのエリアはいかがでしょうか?

ここで注目したいのは、「専業主婦」を理想とするのは何も男性に限ったことではないということです。そして、グラフの右半分側・女性の方が「専業主婦」賛成が多い県は、少なくとも「女性より男性の方が共働き希望派が多い」ということを示します。つまり、「夫が家計のすべてを支えなくてもよい」という意識が日本のほぼ半分の都道府県の男性たちの中で確立していることになります。

では、続いて”家事や子育ては、女性が行った方がよい”及び”子どもが小さいうちは、母親は外で働かない方がよい”という設問について見てみます。これは、家事と育児に関する夫婦の役割分担に関する内容です。先ほどの結果から見れば、こうした設問に対しても、半々の意識が出てもいいと予想できます。

が、結果は意外でした。

© 荒川和久 独自作成につき無断転載禁止

ご覧のとおり、ふたつの設問とも圧倒的に男性賛成多数です。”家事や子育ては、女性が行った方がよい”に関して女性賛成多数は山梨県のみ、”子どもが小さいうちは、母親は外で働かない方がよい”についても、女性賛成多数は島根・鳥取・石川・岡山の4県のみです。

「専業主婦でなくてもよい。夫婦は共働きでいい」と日本の半分の夫が考えていたとしても、いざ「家事と育児に関しては母親がやるべきだ」という意識が強いということです。

女性の就業率に関するM字カーブが解消されてきたというニュースもありますが、あれは単に女性の晩婚化によって生じたものであり、相変わらず出産・育児に伴い女性が家庭に入らざるを得ないという状況が抜本的に解決されたわけではないのです。

そうした「家事や育児は母親がやるべき」という意識を否定はしません。完全専業主婦として夫婦の役割分担がされているならそれも選択肢のひとつです。しかし、そうは言っても現実問題として経済状況から妻も働かざるを得ない場合も多々あるでしょう。実はそこにこそ大きな問題が隠されています。それは、結果として働きながら家事や育児もワンオペの「働く専業主婦」を大量に生み出すことにつながっているからです。それは総務省統計局「社会生活基本調査」を見れば一目瞭然ですが、共働き夫の家事育児時間が90年代からほとんど増えていないことからも明らかです。

共働き世帯が増えたという現象自体は決して「女性活躍」の結果ではなく、むしろブラック主婦業を増やした、と言えるのかもしれません。


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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。