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「シニア副業」を間近で見る若手社員の胸中

昨今、企業がシニア人材の副業を解禁する事例が増えている。

カシオ計算機は、20年から50歳以上の社員について、フリーランスなど個人事業主だけでなく、他社と雇用契約する形での副業も認めた。

副業先での勤務は週1~2日に限り、その分だけ給与は減ることになるが、新しい環境で働いてもらうことでスキルの向上を促すという。

また、コマツも21年4月から、60歳でいったん定年退職してパートタイム型の再雇用として働く場合には副業を認めるとしている。

個人的には「年齢」に関わらず、1人ひとりの社員がいきいきと自分らしく働けるよう、多様な働き方の選択肢が広がっていくのが理想的だと思うが、各社がシニア世代にターゲットを絞って制度改革を進めているのには、それなりの理由がある。

背景にあるのはシニア人材の増加である。バブル期の大量採用世代が50代に入り、シニア人材の労働力人口に占める割合はおよそ3割にものぼる。そして、今後もその比率はどんどん高まっていく。

また今年の4月から70歳までの就労機会の確保が努力義務になる(ちなみに2025年には65歳定年が法律で義務化される)ことも考えれば、人生100年時代におけるシニアの活躍推進はまさに急務とも言える。

そんな時流の中、会社としても、シニア人材に副業などの多様な距離感を認めていくことに、一定の合理性が出てきたということなのだろう。

部長が複業、はじめました

ぼくが働くサイボウズでも、(そもそも全社的な平均年齢が低いため人数は多くないが)50歳を超えるメンバーが副業する事例はそれなりにある。

中でも特に注目を浴びたのは、昨年から、営業本部業務部の部長が「複業」を始めたことだ。ある日突然、本人が社内のグループウェアに「複業始めます!」と書き込んだことから、大きな反響が巻き起こった。

(詳しい話はご本人のnoteで↓)

具体的には、サイボウズでの勤務を週5日から週3日に減らし、残りの2日を他社での複業に当てるという。サイボウズ勤続15年、同社の変革期からバックオフィスを支え続けてきた大先輩の決断に社内はどよめいた。

気になるのは複業を始めようと思ったきっかけだが、ご本人曰く、新型コロナ感染拡大の影響で、サイボウズ社内でもこれまで以上にテレワークが加速していく中、

・自分がいなくてもバックオフィス業務が回っている
・社内でできそうなことを探し回ってみたけど、それでも時間的にまだまだ余裕がある
・一言でいえば、「暇」

ということで、危機感を感じ始めたとのこと。

そこで、以下を念頭に置きながら(ご本人のnote記事から抜粋)、最終的には「複業」という道を選択されたそうだ。

A:私のノウハウや経験は、社内よりも社外の方がニーズがあるかも!
B:社外から報酬をもらう形(複業)の方が、私自身の市場価値を上げて、ビジネスパーソン寿命を長くできるかも(長く世の中の役に立てる)
C:社内における私の報酬や役割を減らすと、他のメンバーの報酬や役割を増やせるかも!

正直、社内のオープンな場で「暇なので複業始めます!」と書き込むには、相当な勇気が必要だったのではないかと想像するが、書き込みが投稿されるとすぐに、色んな部署の人たちから、複業先の紹介や複業ノウハウの共有が始まるなど、多くのメンバーからも好意的に受け止められたようだ。

現在は既に5つの会社と契約し、ご本人曰く「楽しく、忙しく、そして充実したビジネスライフを過ごせている」そうだ。

いきいきと働く「人生の先輩」に憧れて

ぼくの前職は創業80年を超える会社だったこともあり、自分より2、30歳上の先輩たちが当たり前にいる職場環境だった。

一緒に仕事を進めていくのは、年の近い先輩であることが多かったが、ふとした時に、歳の離れた先輩達と職場で話す時間がぼくは好きだった。仕事で行き詰った時やプライベートで悩んでいる時なども、とりあえず相談してみると、いつも自分の視野が少しだけ広くなるような感覚があった。

長年色んな部署を渡り歩いてきたからこそ分かる多面的なものの見方、逆に何十年も人事畑を歩んできたからこそ端々に滲み出る言葉の選び方など、例を挙げればキリがないが、そもそもの生きてきた年数が違う「人生の先輩」から話を聞くことは、本当に勉強になったし、楽しくもあった。

自身がいきいきと働きながら、また様々な教訓に満ちた話を共有してくれる大先輩達を前に、これも1つの組織に腰を据え、長年コミットしてきたからこそ出せる味というものなのだろうか、などと考え、憧れもした。

しかしいま間近で、副業しながら活躍する先輩たちを見ていると、ぼくが憧れていたのは、「1つの組織にコミットし続けている」という部分ではなかったことに気がついた。

ぼくが憧れたのは「1つの組織で働き続けている」先輩たちではなく、「何歳になっても、いきいきと楽しそうに働いている」先輩たちの姿だった。幾つになっても自身の可能性を閉じず、人生で培った知恵を、言葉を、惜しげもなく継承してくれる先輩達にぼくは憧れを抱いたのだ。

もちろん、社内に求められる仕事があり、自身がいきいきと働けている実感があれば、ずっと1つの会社で働き続けるのは素晴らしいことだ。

しかし、副業など、多様な距離感が実現できることで、さらにその人がモチベーション高く働けるのであれば、それもまた素晴らしいことに違いない。

結局のところ、1つの組織にコミットしているかどうかに関わらず、何歳であろうと自分らしく、心地良い距離感で仲間のために力を発揮し続ける人を、ぼくは格好良いと思う。そして、自分もそんな風になりたいと思う。

ぼくはいま、100%サイボウズの仕事にコミットしている。今のところ、副業を始める予定も特にない。

でも、それだっていつ変わるともしれない、あやふやなものだと思うと、ふと怖くなる瞬間がある。

事業環境が変わり、チーム内に仕事がなくなるかもしれないし、ぼくの持っているスキルが通用しなくなる可能性だってある。ぼくの目指す理想とサイボウズの理想がずれていく、ということもあるかもしれない。

もしそんなことになったら、ぼくはひどく不安な気持ちになるだろう。

でも、幸いなことに、ぼくの周りには、既に多様な距離感を経験した「人生の先輩」たちが沢山いる。

ぼくに「副業始めます!」と宣言するだけの勇気があるかは、その時になってみないと分からないが、とりあえずの相談先は見つかっている。

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