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仕事を「偏愛化」してみよう 〜アート思考的仕事術・初級編

お疲れさまです。uni'que若宮です。

今日は「毎日の仕事を楽しくクリエイティブにする方法」について書きたいと思います。


よくある「漠然とした仕事への不安」

仕事柄というか、よくいろいろな人からキャリアや組織の相談を受けることがあるのですが、ちょっと思い返してみると、以下の2つの相談がけっこう多い気がします。

「仕事が嫌なわけではないし、前向きに目標に取り組んでいるはずなのになんとなく充実感がうすい」
「どうも現状維持や受け身になっている感じがする。もっと自分発で新しいことを提案したりクリエイティブに仕事をしたい」

具体的に課題があるというわけではないのですが、「なんとなく…」という漠然とした不安です。

コロナ禍による自粛生活やリモートワークが続いていることで、こうした不完全燃焼的なフラストレーション状態に陥っている人はけっこう多いようで、こうした状態が続くとひとは徐々に意欲を奪われていきます。

結果として転職や異動など環境を変わることを期待するようになるのですが、こういう不完全燃焼状態の場合、場所が変われば仕事が楽しくなるか、というとそうでもないことがあり、注意が必要です。新しい環境になることでさらにストレスフルになり、調子を崩したりしてしまったり…。

もちろん選択肢として仕事や職場を変える、というのは勿論あるのですが、そういう「大きな変化」を期待する前に日々を少し楽しくするため、まずためしてほしいのが、仕事を「偏愛化」することです。


ハウ・トゥ・「偏愛化」

仕事を「偏愛化」するはどういうことでしょうか。その効果は後に詳しく記すとして、まずはやり方をご説明します。とても簡単です。

【STEP1】仕事に限らず、偏愛するモノ・コトをとにかく書き出す

「偏愛化」のためにはまず、自分自身の偏愛の傾向について知ることが必要です。こう話し始めると、「いえ…わたし無趣味なので…」とか「変わった偏愛とか全然ないです…」とかみなさん一言目に謎の謙遜を必ずおっしゃいます。

しかし、安心してください。色んな人に話を聞いていますが、「偏愛」がないという方はいません。ただそれが「偏っている」ことにあなたが気づいていないだけです。

大きなことでなくて構いません。もちろん「仕事」に関わることでなくて構いません。

たとえば「唐揚げが好き」だとか、アイドルの「推し」でも大丈夫です。「なんかこういうタイプの人がたまんない」みたいなのでもOK。

あるいは偏愛するコト。「妄想し始めると止まらない」とか「このシリーズのフィギュアを集めるのにハマってる」とか、「なにかをつくり始めるとつい時間もお金も度外視でこだわりすぎてしまう」とかとかそういうので構いません。

ポイントとしてはたとえば「料理が好き」というのがでてきたら、もう少しブレークダウンしていって、ピンポイントで「とくに揚げ物をつくるのが好き」とか「パンが発酵する時のにおいが好き」とかなるべく偏愛の対象を具体的に絞ること。そして絞っていくうちに、「他の人はちょっとここまではしないかもな…」というゾーンになってきます。

「サブレが好きで旅行や出張に行くたび全国のサブレをさがしてる」とか「漫画に出てくる剣士キャラばっかり好きになってしまう」とか「ベーコンを自分で燻製してつくるのに凝っている」とかそういう感じです。


【STEP2】偏愛の理由を考える

偏愛をいくつか書き出したら、なぜそれを偏愛しているのか、それのどんなところに特に萌えるのか、についてちょっと考えてみましょう。「偏愛」というのはそもそも理屈を超えているものなので、合理的な説明でなくても大丈夫です。

もし可能であればペアやグループになってお互いの「偏愛」をお互いに「推し」てみるのもおすすめです。企業や個人向けの「アート思考」のワークショップでもこのワークをよく行いますが、最初は「いやあ、別になにも趣味がなくて…」とかおずおず話していた人が、「偏愛するモノ・コト」を語り始めると「なにがいいってこのタンブラーのここの曲線がやばくないですかっ!!」とかそのうちに瞳孔が開いて意味不明なことを意味不明な熱量でみんな語りだすのでとてもおもしろいです。


断言できますが、偏愛がない人はいません

そして、日頃あまり考えてみたことのない「偏愛の理由」を考えると少し「偏愛を抽象化」して捉えられるようになります。「なんで三白眼の人が好きかっていうと標準からちょっとズレているところになんかすごい魅力を感じるからかも…」くらいまで言語化できると、実はそれって自分の持つ色んな「偏愛」に共通する特徴だったりする。例えば僕だと山椒とか薬味への偏愛があるのですが、それってなんでかっていうと薬味の「最後に一手間を加えることでバランスや奥行きが変わる感じ」とか「香りとかちょっと癖がある感じ」とかが好きだったりします。で、考えてみると実は食以外にファッションとかでも小物とか差し色とか好きだったり、なにかをつくる時も標準よりはちょっと癖を足したくなる。そういう偏りがあります。


【STEP3】仕事を偏愛するモノ・コトにたとえる

ここまで来ると、「偏愛」を単にそのモノやコト自体というよりも、ある種の偏りや好みのいびつさとして捉えられるようになっているはずです。

最終段階として、仕事を偏愛するものにたとえてみましょう。たとえば「料理の中でもおつまみをつくるだけがとくに好き」という人だとしたら、仕事の一つ一つを「おつまみをつくるプロセス」だと考えてみたり、それぞれの仕事が「どのおつまみか」たとえてみます。

ここでのポイントは【STEP2】で考えた偏愛の理由と通じる点を仕事の中にみつけてみることです。たとえば普通の料理ではなくおつまみが好きな理由にも「短時間でつくる」とか「ありものでつくる」とか「お酒とゆっくり時間をかけて味わう」とかいろんな理由があると思いますが、「ありものでつくる」のが理由だとしたら、仕事もなるべくその時にぱぱっと見繕ってつくる感じを大事にする。

「コンプリートするのが快感でトレーディングカードを集めている」ひとなら、タスクをそれぞれカード化しレア度を決めてコンプリートしていくことを考えてみるとか、「グループごとの個性があるからジャニーズのアイドルが好き」なら職場の人や部をそれぞれグループに例える、とかそういう感じです。すると一気に仕事に愛着が出てきます。


「偏愛化」の効果

こうしていつもの仕事を「偏愛するモノ・コト」にたとえると、なんとなく色あせて見えていた仕事の見え方が変わってきます。職場や業務を変えなくても、ちょっとしたことで、主に以下のような効果が得られます。

①モチベーションがアップする

まず第一に仕事へのモチベーションがアップします。特に企業では自分が選んだ仕事だけではなく依頼されたりアサインされる仕事もあるので、中にはあまり興味が持てない仕事、というのもあります。

最近は少なくなりましたが、たとえば「飲み会の幹事」みたいな雑用っぽい仕事も「めんどくさ〜」「興味ねえ〜」と思ってやってしまうと当たり前ですが楽しくありません。僕もそういう調整ってすごく面倒だと思ってしまうタイプですが、たとえばこれを薬味にたとえると、最後にちょっとこんな仕掛けも足すと味が締まるかな、というアイディアが色々思いついたり、音楽への偏愛にたとえると曲順やBPMをどう並べると温まってピークまでもっていけるかなとDJがセットリストでも考えるようにプログラムの設計が楽しめます。


②失敗が楽しくなる

偏愛するモノやコトに対しては、ひとはけっこう寛容になります。「あばたもえくぼ」的な効果もあるのかもしれませんが、それだけではなく偏愛するモノ・コトには人は試行錯誤を重ねるのが億劫ではないため、すでに失敗を多くしているからです。

たとえば薬味や調味料が好きな人は他のひとよりもたくさん薬味調味料を買ってためしますから、結果として「これいまいちだったな…」ということも勿論あります。おなじようにベーコンつくりに凝っている人は塩加減や燻製の時間・温度コントロールなど色んな選択肢をためしては失敗を繰り返し、試行錯誤しまくります。そんな時、たしかにそれは「失敗」ではあるのですが、不思議と楽しい失敗です。

偏愛はプロセス自体が楽しいものです。失敗もまた「極める」ためのステップであり、思ったように出来なかったとしても、いや、むしろなかなか上手くいかないことほど面白いと感じるようになります。偏愛するモノやコトに向かっている時、人はMっ気が開花するし、今回はうまくいかなかったな…、じゃあ次はこうしてみよう、という風にむしろ次回が楽しみになります。

仕事でも、成果や評価を気にし、採点されるテストだと思うと失敗が怖くなりますが、ベーコンづくりをしていると思えば、一回目から上手くいこうなんてそもそも思わなくなるのです。上手くいかないからこそ極めがいがある。あるいは上手くいっても上手くつくってもさらに深みや沼がある、それが偏愛です。


③アナロジーにより解像度があがる

仕事を「偏愛するモノ・コト」に例えることで仕事のプロセスに新たな発見や視点が得られます。たとえばぬか漬けにハマっている人の場合、「塩の加減」と「定期的な揉み込み」が大事、というぬか漬けのポイントを仕事に例えるとどうなるでしょうか。仕事をぬか漬けだとおもうと、さらなる工夫のポイントが見え始めます。

「そっか最近どうもチームが上手くいっていないのはしばらくかき混ぜを忘れていたな」とか「かき混ぜすぎると発酵進まないからもう少し待つべきか…」とかそんな感じです。

ひとは偏愛するモノやコトはものすごい集中力で観察をしていたり、人並み以上の試行錯誤をやってしまっているので、プロセスへの解像度が以上に高まっています。偏愛的な解像度の高さを仕事に適用することでこれまで気づいていなかったポイントが見えてくるのです。

と同時に、それほど変化がないルーチンの仕事やマニュアル通りにやるほうがよいと思い込んでいた仕事であっても、そのこだわったり凝ったりできるようになり、自分なりの視点やスタイルが生まれてきます。


「偏愛」は人それぞれ

「偏愛するモノ・コト」は人それぞれ違います。仕事もマニュアル通りや他の人のやり方と同じようにやったり比較ばかりしてしまうと、どうも楽めないものになりがちです。

これに対し、偏愛はその人ならではの「偏り」や「いびつさ」によって仕事をまさに「自分ゴト化」し、他とはちがうユニークな視点や価値をあたえてくれるのです。

こちらのインタビュー記事では、

「面白がること」が一番大切

とざっくりまとめられていますが、これはただ楽しく仕事をしましょう、ということではなく、仕事を「偏愛化」することなのです。


企業のアート思考のワークショップで「偏愛」のセッションをすると、いつもは理屈っぽい機械のような硬い顔で「ダメ出し」していた人の表情も変わってきます。「偏愛」を語るうちにだんだん瞳孔が開いて変なテンションになってきます。そうして「偏愛」を語るのを聞くと、聞いている人もぐっとそのモノやコトに惹きつけられます。仕事の「偏愛化」は本人にとって効果があるだけではなく、チーム全体をモチベートする効果があるのです。

「べき論」や理詰めで眉間にシワを寄せて話す人と「偏愛」を楽しげに語る瞳孔を開かせて語る人とならどちらの話を聞きたいですか?


あなたはいま、自分がしている仕事を「私は仕事してるっていうか〇〇みたいなものです」と「偏愛するモノやコト」を語るように語れるでしょうか?

まだそうなっていないとしたら、偏愛を書き出し、理由を考え、仕事にたとえて、仕事の「偏愛化」をしてみましょう。そしてどうも仕事のワクワクが減っていたり眉間にシワがよっているような時には、そんな「偏愛」を思い出してみましょう。もしこれが偏愛するモノやコトなら、あなたはどうやってそれを極めますか?


仕事は本来「to do」(やるべきこと)を超えたものです。より多くの人が自分の仕事を「偏愛化」し、「ちょっと聞いて、この仕事のここ最高じゃない?」とか「ここがめちゃくちゃこだわったとこだから見て」と熱く語れるようになったら、きっと会社や社会はもっと面白くなっていくはずです。

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