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経営企画的『美味しいカレーの作り方』

僕は40歳の時にGAFAのうちの1社にシニアマネージャー(部長)として転職をしました。この会社の中で求められるものはロジカルさ、論理力、分析力、行動力、人を動かす力などのハイレベルなスキルセットでした。

これらのスキルは前職に17年在籍していた間に学び、身につけたことが非常に大きかったのですが、その17年間の中で最も僕が成長したのは20代半ばから30代前半に経営企画室にいた頃、経営企画室長だったNさんに直接教えをいただいていた時だったのです。


01 Nさんの人柄

Nさんはものすごく話し好き、教え好きで、毎日仕事中に部下である僕ともう1人の女性をホワイトボードの前に呼んではロジカルシンキングについて何時間も話してくれました。

今でこそ下の日経の記事のようにロジカルシンキング、地頭力などといった言葉が世に広まっていますが、当時はまだ2002年。ロジカルシンキングという言葉はあったもののそれはコンサルの人達の言葉で、周りの人の反応もみんな「ふーん、理屈っぽいね」といった感じでした。

でもNさんに教えてもらっていた僕達2人だけは違いました。

目を輝かせてNさんの話を聞き、どうすればそんなに美しいロジックツリーを描けるのか、どうすればそんなに抜け漏れなくMECEに物事を要素分解できるのかに魅せられ、自分たちの仕事にどう応用出来るかについて日々語り合いました。

ちなみに当時僕は1999年に大学を卒業して4年目、一緒にいた女性はピカピカ1年目の新入社員。まだ社会人に染まりきっていない段階でこうした「物事の考え方」を教えてくれるメンターに出会えたというのは、僕達の人生にとってものすごく価値のあることでした。

怒ったり怒鳴ったりして人に仕事をさせるのではなく、まず仕事を始める前に立ち止まって適切に考える習慣をつけさせ、「考えることを楽しいと感じることが仕事を始めるのに1番大事なことだ」と若かりし僕達に教えてくれたNさんは、マネージャーとしても本当に素晴らしい方だったと思います。

ただ、それはそれほど簡単なことではなく、それなりに苦労がありました。
「Nさんの言ってることが全く分かりません」
「出来なすぎて、『考える』ということが何なのか分からなくなってきました。」
なんてヘコたれることもありましたが、それも今となってはいい思い出です。

02 「考える」について考える

さて、皆さんは「考える」ということについて考えたことはありますか?

僕は前述の通り、20代半ばにして「考えるということは何をすることなのか」が全く分からなくなり、思考が停止してしまった経験があります。

簡単なようで難しい、この「考える」ということがNさんの教えの全ての始まりです。皆さんもこの記事を読んで、「考える」ということに向き合ってみてください。

この記事をお読みの皆さんならどのようにNさんに回答をするでしょうか。「自分ならこうやってホワイトボードに書くかなー」と頭で想像したり、実際にホワイトボードやA4の紙に書いてみながら読み進めていただけると、当時の僕と同じ気持ちが味わえるかもしれません。

03 美味しいカレーの作り方

Nさんと言えば、一番に思い出すのは「美味しいカレーの作り方」の話。と言っても本当にカレーを作るわけじゃなく、「仕事という名のカレー」をどう調理するかという話なのですが。

冒頭からいきなり「は?」と思った人もいるかもしれません。

実は僕自身もそうでした。経営企画室に配属になった直後、Nさんにこんなことを聞かれたのです。

Nさん「寺澤くん、美味しいカレーを作るにはどうしたらいいと思う?」

「えっ?」

Nさん「えっ?じゃなくてさ。美味しいカレーを作るというテーマを要素分解してホワイトボードに書いてみて」

「えええ?」

なにせいきなりの話だったので状況をよく把握できないながらも、僕はホワイトボードにとりあえず書いたわけです。

「ジャガイモとニンジンと肉を切って、煮込んだ後にカレールー入れてさらに煮込む」

Nさん「全然ダメ」

「ええー!」

突然のNさんの意味不明な質問とダメ出しに、僕は「なんじゃこりゃ?」と首をかしげずにはいられませんでしたが、Nさんの説明を聞くにつれ、その質問の意図が明らかになってきました。

04 Nさんの説明:重要なのは全体像を見ること

(1)ターゲティング

Nさん「まず寺澤くんの回答は視野が狭い。もっと全体像を見ないと。」

「美味しいカレーの全体像ってなんですか?」

Nさん「まずカレーは誰が食べるの?何人に提供するの?」

「えー、そこからですか?」

Nさん「だって僕は美味しいカレーを作ってと言ったけど、小さい子供が美味しいと感じるカレーと大人が美味しいと感じるカレーは違うよね。辛さとか。もっと言うと、男性と女性、年齢層によっても違うと思うよ。女性や高齢者だったら肉の脂身が少ない方が美味しいかもしれないし、男性なら量にこだわるかもしれない。」

「確かにそうかも!」

Nさん「何かを提供するときにはその提供先のことを考えること。ターゲティングが必要なんだよ。」

「な、なるほど!」


(2)準備

Nさん「寺澤くんがさっき書いたホワイトボードにはジャガイモやニンジンっていう材料のことしか書かれていなかったけど、美味しいカレーためには、材料だけじゃダメ。準備が必要だよね。」

「準備・・・ですか?」

Nさん「提供する人数に合わせて鍋はどのくらいの大きさがいいのか、お皿は何枚用意すればいいのか。そういうところまで気を配らないと、カレー作ったはいいけど食べられない人が出てくるってことにもなりかねないよね。」

「あー、言われてみればそうですね」


(3)雰囲気

Nさん「雰囲気も大事だよね」

「あ、それは何となく分かるかも」

Nさん「ものすごく高級で美味しいカレーが小学校の教室で、給食みたいなアルミの器で出てきたらどうだろう?」

「あー、それ絶対美味しくないっす」

Nさん「逆にレトルトカレーを、高級ホテルのレストランですごく高価な食器で出されて食べたらどうだろう?」

「僕単純だから、雰囲気だけで美味いっす」

Nさん「じゃあそれも美味しいカレーには欠かせない要素だね」

「おおお!」

05 まとめ

Nさんは一通り話し終えた後で、今回の学びをまとめてくれました。

Nさん「仕事で『カレーを作って』と指示された時に、カレーそのものの材料の事ばっかり考えてしまう人って多いよね。しかもそのカレーも「自分が」美味しいと思うカレーを作ろうとしてしまう。

もっと周りを見て、サービスを提供する相手を見て、カレーだけじゃなく準備から提供の仕方までの全体像を見ないと相手を満足させることはできないんだよ。そして、それを全部一人でやる必要はなくて、出来る人をアサインしてどう動いてもらうかを考えることが大事なんだよね。」

「うーむ、納得しかないす。」

Nさん「じゃあ今言った感じで、色んなことを想像しながらもう1回ホワイトボードに書いてみて」

「たとえばこんな感じですかね?」

Nさん「うん、なかなかいいね。最初に書いたホワイトボードと見比べてごらん。これが君の数時間での成長だよ。」

「おおお、めっちゃ成長を実感します!」

*****

あれから21年、僕もいまだに後輩に「美味しいカレーの作り方考えてみて」とか言ってて自分でちょっとウケちゃいますが、こうした分かりやすい事例でちゃんと全体像をホワイトボードに整理するという訓練をしてみると、いざ会議でホワイトボードを書くことになってもこうして広い視野を持って書くことが出来るようになります。

この時期、新入社員の方も多く入社してくると思います。
ぜひ周りの人に「美味しいカレーを作るにはどうしたらいいと思う?」と聞いてみてください!

参考

以下の書籍には、この他にもNさんからの教えがたくさん詰まっています。ぜひ以下のリンクから試し読みをしたり、続きを読んでみてください。

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最後まで読んでくださって、ありがとうございました! これからも楽しみながら書き続けていきます!