不要不急の利下げでしくじったFRB
「不要不急の利下げ」で失われたカード
3月3日、FRBは臨時FOMCを開催し、FF金利誘導目標を「1.50~1.75%」から「1.00~1.25%」へ▲50bps切り下げました。この勇猛に見える決断ですが、市場では前向きに評価する向きは殆どありません。利下げで未知の疫病を治癒も根絶もできず、サプライチェーンの寸断も復元できない以上、中央銀行(金融政策)に期待された役割は「時間稼ぎ」以外何物でもないはずです。FRBは1回25bps換算で7枚の利下げカードを持っていました。しかし、今回は予定外のタイミングで、しかも一気に2枚に使ってしまいました。
これから稼がなければならない「時間」をなぜ焦って捨ててしまったのでしょうか。会見では否定していますが、トランプ大統領からの政治的圧力に配慮した可能性を邪推してしまいます。市場の一部では「サラリーマン的には合格」とのヘッドラインも出ています。文字通り、不要不急の対応で自滅したという印象を抱かざるを得ません。
しかも、その2枚を有効に使えればまだ良かったのですが、会見で「米経済の先行きに関するリスクは著しく変化した」や「今後もさらなる一手を行使する」などと述べたせいで、かえって現状の深刻さがクローズアップされました。とりわけカードを2枚切ったことで「FRB自身の糊代が失われている」ことも強く意識されたことは、今後を見通す上では非常に痛い展開です。これまで(とりわけ2019年の)企業収益の悪化にもかかわらず株価が上がっていたのは、FRBの利下げ余地を当て込んだものであったからです。しかし、今回の挙動を見て政策の限界を察知した株式市場は相当に危機感を強めたと思われます。
なにより、ただでさえ疫病を巡る不透明感が濃いところへ市場の思惑と大きくずれた対応をしたことで、「FRBは何か不味いことを知っているのでは」という不安を引き起こしたことも罪深い点です。総じて、不要不急の動きで「不安を煽った」という評価が相応しい決定だったように思われます。
結果的に追い込まれたECBと日銀
また、臨時FOMCの直前にはG7財務相・中央銀行総裁(電話)会議の共同声明が発表されていました。これは各国が医療・財政・金融政策に関し必要と思われる全てのツールを行使し、「協調的に動く」という文字通り意思表示の域を出ないものでした。あの文面だけから、その直後に臨時FOMCを開催して▲50bpsを引き下げるという切迫感を読み取れた市場参加者は多くないでしょう。
会見でパウエル議長はG7声明文の意味合いを尊重しつつ、あくまでFRB個別の判断と強調しました。これはこれで悪手だったように感じられます。各国の事情があるので軽々に政策協調を謳うのは難しいと察しつつも、せっかくG7共同声明直後の電撃的な決定なのだからもっと国際協調の一環であることをアピールしても良かったのではないでしょうか。かさねがさね勿体無いカードの使い方をしました。
もちろん、具体的な行動が伴ってこそ共同声明も価値が出てきます。その意味で今回の電撃利下げは評価されるべきでしょう。しかし、裏を返せば、ECBや日銀が穏当な手段で「時間稼ぎ」するのが難しくなってしまい追い込まれたようにも見えます。カードが乏しい日欧中銀にとってはFRBがこうした「派手な一手」を打ったのであれば、事態をしっかり沈めて欲しかったというのが本音ではないでしょうか。FRBは通常の会合日程を待って▲25bpsないし▲50bpsの利下げを逡巡するという構えでよかったはずです。その間に新型コロナウィルス関連で前向き進展もあったかもしれないわけですから・・・FRBは世界の中央銀行でもあります。その動揺は広範な分野に影響を稼げる時間は極力稼いで欲しかったところです。