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米国でのTikTok配信禁止について考える

トランプ米政権が、中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国における配信を20日に禁じる方針を示した。TikTokは中国のIT企業「バイトダンス・テクノロジー株式会社」が運営し、ユーザー登録者数は全世界で20億人を超える、圧倒的な人気を誇るアプリだ。

「安全保障を理由に運営体制の見直しを迫ってきたが、協議は停滞し、ネットの安全性を損ねるなど懸念の声も強まる。中国政府が報復ともみられる措置を発表し、強い大統領権限を巡り火花が散っている。」

トランプ政権によると、TikTokの配信を禁止することで米国市民のプライバシーとデータを中国政府から保護することを目的としているという。トランプ氏の8月6日の執行命令では、TikTokは「中国は連邦政府の職員や請負業者の居場所を追跡し、脅迫のために個人情報の書類を作成し、企業スパイ活動を行うことを可能にしている」と主張している。しかし、TikTokは本当に脅威なのだろうか?そして、配信が禁止されることによってどのような影響をもたらすのだろうか?

自分自身、米国で暮らすZ世代であり、このコロナによって外出ができない状況の中で、TikTok内のコミュニティは計り知れないほどの精神的支えとなった。そして同じように、世界中での若者たちやマイノリティたちが自分たちのためのセーフスペースとなるコミュニティを形成し、音楽・ファッション・アイデンティティ・政治・セクシャリティ等々の思想共有や新たなカルチャーの発信を行う場になっていた。

TikTokはユースカルチャーに計り知れないほどの影響を持ち、「繋がれる場所」を提供してきた。それを、曖昧な基準で決定された大統領の命令によって禁止することによって起きる弊害は大きいとすでに予測できる。実際には公的な不正行為の証拠もなく、もしトランプ氏の脅しが現実となれば、その結果は米国のソフトウェアにとって悲惨な前例となり、米国が腐敗していく過程の一因になると警戒されている。そして、なぜこのようなことになったのかの明確な理由がないことが、何よりも懸念されるべき点である。

この「TikTokが禁止されるきっかけとなった理由」の日本での報じられ方は、大きく分けて2つある。

(1)中国のアプリであり、セキュリティ面で問題があり、信頼度が低いから

(2)TikTokを通した若者たちの選挙妨害運動にトランプ大統領が腹を立てたから

しかし、米国内ではこの上記2つは表向きの理由であり、本音は中国に圧力をかけたいから、国内のプロパガンダに活用させたいからという政治的な理由なのではないかとされている。この記事では、英語圏で報じられているニュースを参照しながら、日本国内で広まっている「日本でもTikTokを禁止すべきだ」「禁止したアメリカは賞賛に値する」という声に対して、テクノロジー企業に対して政府が干渉すること、そしてカルチャーの育成の場を失うことの影響について再度考えるきっかけになることを目指す。

・セキュリティ面について

「TikTokは中国のスパイアプリだ」「個人情報が中国政府に漏れている」

これらは日本国内でもよく聞かれる声である。もちろんその懸念は無視されるべきではないが、(1) 現段階で一切その根拠が出ていないのが現実である。そして(2) 昨日出された「アプリストアでの配信禁止」命令による弊害の方が、実際にはセキュリティのリスクを爆発的に高めるという皮肉的な状況になっている。さらに、(3) 「個人情報が漏れている可能性」は中国のアプリに限ったことではなく、むしろ米国内のデータを扱うサービス(Facebook等)が抱えるセキュリティ面の課題の方が、ずっと長年問題視されているのにも関わらず、TikTokほどの制裁が科されることはないし解決される予兆もない。

「TikTokは約1年前から国家安全保障の見直しの対象として、米国外国投資委員会(CFIUS)の下で監視されている。しかし、今回の執行命令は通常のCFIUSのプロセスをはるかに逸脱しており、レビューで何か異常なことが発見されたという証拠は一切ない。行政命令では、データ収集や誤報の可能性などの大まかな懸念事項を列挙しているが、多数ある他のアプリに適用されないような事項はない。ホワイトハウスは、TikTokによる不適切なデータ収集やByteDanceと中国政府との特別な関係を示す証拠を提示していない。それどころか、ニューヨークタイムズ紙が入手した最近のCIAの評価では、アプリが中国のスパイ機関によってデータを傍受するために使用されていたという証拠は何も見つからなかったのだ。

自国のテクノロジー巨大産業が個人情報をどんどん吸い上げることで帝国を築いてきたのにも関わらず、米国がTikTokとWeChatのデータ収集に異を唱えるのは皮肉なことだ。もちろん、中国当局がWeChatやTikTokを通じてアメリカ人のデータにアクセスしている可能性もある。しかし、トランプ政権による主張以外は、何も証明されていない。」

TikTokを国家安全保障上の脅威にするための最速の方法は、ユーザーがアプリストアを通じてアップデートできないようにすることです。そしてそれを正に行っているのが、この禁止命令だ。ここから先は、アプリのどんな脆弱性も、普通のアメリカ人ではパッチを当てることができなくなってしまう。ホワイトハウスがこの問題を引き起こしているのだ。」

・TikTok上での反トランプ運動について

トランプ米大統領が6月20日に南部オクラホマ州で開いた選挙集会で大量の空席が発生したのは、ショート動画アプリ「TikTok」の利用者らが欠席を前提に大量の申し込みを呼びかけたのが一因との見方が出た。民主党のオカシオコルテス下院議員もツイッターで「TikTokで偽チケットを予約した10代の子どもに動揺させられている」と、「100万人超の申し込みがあった」と豪語していたトランプ氏の陣営を皮肉った。

トランプ政権のTikTokへの言及がこのタルサでの集会の後に始まったため、実際にはセキュリティ面の問題が原因ではなく、反トランプの若者たちの思想共有の場所にTikTokがなっていること、そしてそれによって選挙に悪影響を与えるのではないかとトランプ氏が懸念しているのではないかということも推測されている。大統領選挙のわずか3ヶ月前にこのようなハイリスクな争いを始めることは滅多になく、大統領はこれを劇場型の物語に仕立て上げ、政治的策略に利用しているのではないかとも示唆されている。

・代替案は?

「開発された土地次第でアプリをブロックすることは、米国を中国に似たものにすることになる。問題は、TikTokだけが中国とのつながりを持つテック企業では全くないことにある。例えば、WeChatを運営するTencentはRedditに大口投資家として参加している。一度禁止令を出したら、どのような基準で他のものも禁止するのかの歯止めが効かなくなってしまうからこそ、強く懐疑的にならざるを得ない。

より良い解決策は、人々のプライバシーを保護し、企業によるデータの悪用を防ぐための強固な規則を制定することだと、専門家も話す。"私が思うに、この問題を解決する方法は、TikTokとすべての企業がデータを収集、共有、保持する方法について、信頼できる基準となる法律と基準を作ることです。”」

・TikTokerの不安

TikTok上で発信をすることで、爆発的なフォロワーを獲得したTikTokerたちの声を集めたオピニオン動画では、TikTokがもつセキュリティの懸念以上に、若者たちがTikTokを通して作ることができたコミュニティや思想共有の場を失うことへの不安について語っている。

「もしTikTokが禁止されたり改変されたりしたら、私はネットワークを失います。生活ができなくなる。私は17歳で投票できない。もしTikTokが取り上げられたら... 私や他の多くの若者にとって、重要なことを話す場が無くなります。世界的なウィルスの大流行の中で、他に多数国内の深刻な問題がある中で、なぜ政府はアプリを気にするのでしょうか?おそらく、それは一部のTikTokerが大統領にイタズラをしたと主張し、それが彼の感情を傷つけたからでしょう。または、彼が中国に対して厳しい姿勢をとっているように見えたいからでしょうか。私は、中国の恐ろしい人権問題について非難しています。私たちが懸念すべき理由は理解しています。アメリカの諜報機関が TikTokが中国政府とデータを共有していたという証拠を発見していないという事実にもかかわらず、TikTokは中国国外にデータを保存していると主張しています。しかし、アメリカ国内のテック企業に警戒する必要があります。この1つのアプリの販売を強制することは、私たちの全体的なプライバシーの問題を解決することにはならない。あなたが私達の事について興味を持っていなくても、これがどのように自己表現への攻撃であるかは気にするべきです。権力の乱用によって、インターネット上でアクセスできるものを制限しようとしています。今回の標的はTikTokですが、次は?


TikTokスターたちが共同でTikTokの配信禁止に対して訴訟を起こすという行動も始まっている。エンターテイメント業界だけでなく、音楽業界にもTikTokは大きな影響を与え、マーケティングやPRの面で「音楽業界の未来はTikTokにある」と捉えられることも増えていたこともあり、各業界での不安は尽きない。

・ビジネスへの悪影響


「TikTokとWeChatはともに大規模なユーザー基盤を持っている(それぞれ8億人、12億人近く)。ある著名なアナリストによると、Apple StoreからWeChatを削除することで、AppleのiPhoneの売上高が約30%減少する可能性があるという。ホワイトハウスの関係者との8月の電話で、WeChatを禁止することは主要な米国の多国籍企業の中国市場での競争力を損なう可能性があることを懸念していた。

このような政策で国際ビジネス環境を妨害することによる二次的なコストは、はるかに高くなる可能性がある。最も大きな影響は、顧客が供給継続の不確実性からサプライヤーをシフトしたり、調達先を変えたりすることによる売上高の損失である。米国の禁止措置を心配する企業は、製品やサプライチェーンから米国製の部品を排除したり、交換したりする「脱米化」計画を開始するだろう。

この禁止令は国や企業間の不信感を高め、リスクを減らすどころか増やす可能性が高い。米国企業を禁止する等の報復の可能性も考えられ、状況は急速に悪化することが懸念されている。

・ツイッター上での反応

「まるで米国政府が私たちのことを監視していないかのような言い分だ。パンデミックもあるし、森林火災もあるのに、”いや、TikTokを禁止しよう”って言ってる」

上記のツイートのように、政府の決定に呆れていたり、全く本質的ではない言動に頭を抱えている人が多い。実際にアメリカではコロナ対策をもっと早めていれば救えた命がたくさんあったことが明確になっていたり、加速し続けている火災などの自然災害に対するトランプ政権の関心度の低さに憤りを感じている人も多い。特にTikTokのメインユーザーであるZ世代の若者たちの大きな関心事項でもあり不安点でもある「環境問題」や「人権問題」を無視し続けている政権に対して、若者たちが怒りを感じないはずがない。その上で、有色人種・LGBTQ・先住民族・活動家たちの憩いの場であったTikTokを集中攻撃している政権に対して、リベラル派の若者たちの不信感は募る一方である。







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竹田ダニエル
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