「シェフではなくシュフ」平野レミに見る仕事の本質
土曜の昼下がり、NHKの再放送で以下の番組をたまたま昼食とりながらみていたが、とてもいい番組だった。
当然、平野レミさんという方は「料理の人」としては存じ上げていたが、お父さんがハーフの人だったこととか、高校に下駄履いて行ったら先生に叱られて、結局中退した話とか、もともとシャンソン歌手としてデビューして、久米宏とラジオ番組のパーソナリティをやっていた話とか、いろいろと知らななかった話ばかりだった。
芸能活動はしていたけれども、内心はそれも肌には合わないと感じていて、そんな時出会った夫和田誠さんとスピード結婚(和田さんの方が一目惚れ)。さっさと芸能活動やめて専業主婦に。
和田さんが自分の料理を「おいしい、おいしい」と喜んでくれ、外で食事する機会があってもそこでは食べずにわざわざ家の料理を食べてたので、本人曰く「和田さんのおかげで、せいで、こんなになっちゃった(料理にのめりこむようになった)」ということらしい。
適当に料理を作っているように思われがちだが、毎日提供した料理の作り方や試行錯誤した内容をノートに書き留めてもいる。
当たり前だが、和田家の食卓に出る料理は特別奇抜なものではなく、きわめて普通のものだったらしい(息子唱談)。
要は、目の前にいる愛する夫や子どもたちの喜ぶ顔が見たい、それを見てると自分もうれしいってことなんだよね。
その料理のうまさが評判になって、1980年代から料理教室などを開くようになり、さらに、NHKの料理番組に出るようになり…となったが、その最初の番組出演でアナウンサーから「本来はシャンソン歌手でいらっしゃって…」とプロフィールを紹介されると、即座に「いえ、本来は主婦です。たまにシャンソン歌手をやってたけど…」と訂正していた。
それだけ主婦という仕事に誇りを持っていたのだろう。
番組でも紹介されていたが、本人のX(ツイッター)の紹介文でも「シェフではなくシュフ」と明言している。
番組を見た方のXのポストを見ていると、「なんだか知らないけど泣きながら見ている」という声が多くあった。
ここから話はちょっと変わるが、昨今「専業主婦叩き」みたいなものが特にX界隈で叫ばれ、官僚は「今やと共働き夫婦は専業主婦の2倍以上」とかフルタイムとパートを合算した恣意的な統計を出したりするし、政府は「(税金や年金を払ってほしいので)女性も働きなさい」ともろもろ配偶者関係の控除や優遇を廃止しようとし、「専業主婦は2億円損する」などというくだらない本を出す作家もいれば、「専業主婦は共働きより子どもを産まない」などと間違った情報を厚顔無恥で垂れ流す害悪極まりない有識者もいる。
断っておくが、別に専業主婦礼賛主義者ではない。バリキャリしようと専業主婦しようと所詮勝手だから好きにすればいい。しかし、専業主婦を叩くのもおかしいだろって話。
特に、不思議に思うのは、高学歴バリキャリみたいなホワイトカラー企業勤めで恵まれてますねという有職子有り女性が、専業主婦を目の仇にしているような印象が強い。まるで専業主婦は何の仕事もしないで楽しているかのように。
勿論、中にはそういう主婦もいるのかもしれない。しかし、そんな個別の夫婦の間で、そういう役割分担をしあって合意しているなら勝手じゃねーかと思うわけである。外野がいちいち口出しすんなよ、と。
それに、望むと望まないとにかかわらず、子どもが0歳時に関していえば、2020年の統計でも6割は専業主婦(夫の一馬力)にならざるを得ない現実がある。
そもそもフルタイム共働き夫婦の割合なんて、男女雇用機会均等法以前の1980年代と40年間ずっと3割でまったく変わっていない。
主婦の非正規雇用率が高いとかを問題視するバカな有識者もいるが、その非正規雇用も別に「本当はフルタイムで働きたいのに採用の間口がないからパートをしている」わけではない。自らパートなどの短時間労働や休みの柔軟性のある働き方を望んでいる主婦が、OECD統計によれば全パート労働者の8割以上を占める。要するに、8割はパートでいい・もしくはパートじゃないと嫌でしているのであり、別にフルタイムで働きたいわけじゃない。
なんでもかんでも誰もかもフルタイムで外で仕事しなきゃいけないわけじゃないだろう。
そもそも仕事ってなんでしょう?
外で企業に勤めて給料もらうのが仕事ですか?
ま、そういう人がいても勝手だが、そのお給料は何の対価で支払われているものなのか。
仕事とはそれを依頼する者がいて、その依頼にこたえたことに対して支払われるものである。勿論、現代社会においてはそれはお金という形になるわけだが、それだけではなく、依頼者の期待通りまたは期待以上のものを提供されれば依頼者だってうれしい。その依頼者だって、また別の依頼者によって頼まれている場合もあるならばその上の依頼者もうれしくなるし、消費者に提供するものであれば、何より消費者がうれしくもなる。
仕事とは、そういう相手をうれしく笑顔にさせることでもある。というより、本来仕事とは、それをすることで笑顔の連鎖を生み出すものだ。
そして、人間は、相手にしてあげたことで相手が笑顔になれば自分もうれしいものである。たとえ、それが目の前の少数の相手であっても、やがてそれは伝播していく。
平野レミさんは、今でこそ全国的に知られる料理愛好家となって、全国の人たちの食卓を笑顔にさせているが、それは図らずも結果論であり、はじまりは、夫や子どもが「おいしい」といってくれる笑顔のために毎日料理をするという仕事をしたからである。
「シェフではなくシュフ」とレミさんが言うのは、まさにプロフェショナルとしての意識をもって主婦をしているからなのだ。
何度も言っていることだが、夫婦の場合、外で仕事をしてようがいまいが、専業主婦だろうが専業主夫だろうが、すべての夫婦は共働きなのである。共に仕事をしているのである。
高層オフィスのエアコンのきいた部屋で腕組みしてカタカナ言葉ならべて会議してパソコンポチポチしているだけが仕事じゃない。大体、そういう奴らは誰かを笑顔にしようと思って仕事しているのだろうか?どうやって、依頼主や上司をだまくらかして自分らがげへへと下品な笑顔を得られる金儲けのためだけに小賢しく仕事していないか?
そんなことを考えさせてくれるいい番組だった。