見出し画像

高年収リモートワーカーの移住行動と資産形成術

 これからの高年収者の生き方は、地方に移住して仕事はリモートワークで行い、余剰資金を、投資に回していくスタイルも注目されている。大都市を生活拠点とすることと比べて、健康面で快適に暮らすことができ、生活費の安さから、余剰資金が増えるため資産形成のスピードも速くなる。

ロックフェラー研究所では、パンデミック以降にリモートワークに移行した世帯の割合を年収階層別に追跡調査しているが、そのデータによると、どの時期においても、世帯年収が10万ドルを超す層のリモートワーク率は、他の年収階層よりも高く、2022年8月の時点でも55%となっている。その理由は、リモートワークができる人材は、もともと高い給料を得ている層であることに加えて、通勤しないことで生じた余剰時間を副業などに回して、複数の収入源を作りやすいためと考えられている。

Remote Work during COVID-19: What Can It Tell Us About the Future of Work?

地方の自治体にとっても、高年収リモートワーカーの移住を推進することは、税収を引き上げる利点があるため誘致活動に力を入れ始めている。米国北東部でアパラチア山脈に位置するウェストバージニア州(人口179万人)では、移住希望のリモートワーカーに対して「Ascend West Virginia program」というプログラムを実施して、応募者の中から選考された移住者には魅力的なインセンティブを与えている。

具体的な内容は、12,000ドルの移住資金と、アウトドア・レクリエーションの無料利用権(1年間)、コワーキングスペースも無料で提供される。応募の条件は、既にフルタイムの仕事に就いており、移住後もリモート勤務ができる資格を得ていること。選抜定員は約50名だが、約7500人の応募者があったことが報告されている。また、選抜に外れた応募者に対しても、移住すれば住宅購入のための住宅ローン支援が公的に行われる。

ウェストバージニア州の生活費はニューヨーク州と比較しておよそ2分の1、住宅費用は5分の1という安さで、移住しても収入が変わらないリモートカーカーであれば、生活コストの余剰分を投資やレジャーに回すことができる。また、米国は州によって所得税に大きな差があるため、税率の低い州に移住することのメリットがあり、税率が高いカリフォルニア州からの移住希望者も多い。

日本でも、地方移住者に対する補助金制度は充実してきており、地方創生移住支援事業として東京23区に住んでいるか通勤している世帯が、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県以外に移住した場合には、1世帯あたり最大100万円+子ども1人につき30万円を支給する制度を実施している。

2023年度からは子ども1人あたりの支給額が100万円に増額することが発表された。移住先となる地方の市町村でも補助金を用意している自治体は多いことから、複数の補助金制度を利用すれば、4人家族で最大400万円前後の移住資金を獲得することも可能だ。

【サイドスタートアップの新起業家層】

会社に雇用される形のリモートワーカーが増えると、その中で優秀な人材の一定数はフリーランスとして起業することも、米国では明らかになっている。

起業の方法は、雇用されている会社を辞めて、フルタイムで自分のビジネスに取り組む方法よりも、リモート勤務は続けながら、副業でフリーランスの仕事を受注するスタイルが人気となっている。このスタイルよる起業者は「サイドスタートアップ」と呼ばれており、安定した収入を捨てずに、リモート勤務で節約された時間で自分のビジネスに取り組むことができる。

サイドスタートアップの事業は、家族が協力したファミリービジネスとして行われるケースも多く、夫婦共働きで別々の仕事をするよりも、夫はリモート勤務を続けながら、妻の名義で立ち上げたファミリービジネスをサポートするというのが、家族の収益構造としては理想的である。このような副業活動は、雇用されている会社には報告されずに行われており、ウォールストリートジャーナルでも「These people who work from home have a secret(自宅で仕事をする人達には秘密がある)」という記事を書いている。

こうした働き方が台頭してきた背景には、会社の業務には魅力を感じられない「静かな退職者」がパンデミック以降に増えていることがある。2023年のトレンドとして「会社の仕事をがんばりすぎない」ことが、海外では浮上している。しかし彼らも、仕事に対して無気力なわけではなく、雇用関係による仕事は義務として行いながら、もう一つの収入源を作ることで、自分と家族の収益構造を盤石にする方向にシフトしている。

■JNEWS関連レポート
自治体と連携した移住体験施設の運用ビジネスモデル
コロナ新生活を見据えた富裕層の移住行動と別荘開発
インフレに強いギグワーカーの働き方とフリーランス職種
海外投資家が着目するスキーリゾート地の再開発

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を専門に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。JNEWS会員読者には、新規事業立ち上げなどの相談サポートも行い、起業者の支援を行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?