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グリーンウォッシュをどう防ぐか(後編)

みなさんこんにちは、シェルパの中久保です。前回グリーンウォッシュをどう防ぐか(前編)においては、グリーンウォッシュとは何かや、関連する規制をご紹介させて頂きましたので、まだ読まれていない方は是非ご覧いただければ幸いです!下記の記事もグリーンウォッシュを考える上で良い出発点になると思います。

今回後編においては、グリーンウォッシュをどう防ぐか、テクノロジーの活用も踏まえて考察してみたいと思います。


グリーンウォッシュを判断するために必要な要素とは

当たり前のことですが、グリーンウォッシュを防ぐための前提として、何がグリーンウォッシュであるかを判断できることが必要です。この点につき、以下の3つの要素が必要なのではないかと思っています。

  1.  ESGを可視化するデータ

  2. データを評価する判断基準

  3. データと判断基準の照合

1. ESGを可視化するデータ

まずは自社や投資先のESG取り組み状況やパフォーマンスデータを把握することが必要です。どのような取り組みを行っているのか実態を把握しないまま「サステナブル」「グリーン」といった言葉を使ってしまうと、後々グリーンウォッシュだった、ということになるわけです。

そして集めてくるデータの「信頼性」も課題となります。データ自体が間違っていた、ということになればこれもグリーンウォッシュであると追及されかねません。データの信頼性を担保するシステム構築が求められています。また、第三者保証などのデータの中身を検証するメカニズムがますます重要視されるでしょう。

この点、データの重要性について書かれた記事が日経でも出されていました。

2. データを評価する判断基準

次に、グリーンウォッシュかどうかを判断するための基準が必要です。問題はこの判断基準をどのように設定するかが容易ではないということでしょう。

この点について、前回ご紹介させていただいた規制など、一定議論が進んでいる部分があるものの、世界的に統一された判断基準があるわけではありません。未だ国やセクターごとに様々な判断基準があると言えますし、判断基準が存在しない領域も多いという状況です。

しかし逆にそれは当然のことでもあると考えています。特に人権領域を考えてみると分かりやすいかなと思います。「サステナブルな取り組み」であるかどうか判断するのは、本来その取り組みの影響を受けるステークホルダーであるはずです。したがって、企業としてはステークホルダーへのヒアリングが欠かせないというわけです。

一方、事前に閲覧可能な判断基準がなければ、企業はどのような取り組みをして良いか分からず、萎縮効果が生じてしまう懸念もあります。今後、規制当局や各種基準を策定する関係者には、可能な限りステークホルダーの意見を取り込んで判断基準を作っていくことが求められてくると考えています。

3. データと判断基準の照合

最後に、1. のデータと2. の判断基準を用意した後、膨大なESG取り組みや状況の1つ1つが、判断基準に沿っているかどうかの照合を実施する必要があります。また、本当に取り組みが実行されているかどうか、定期的な事後モニタリングも求められるでしょう。この点は評価機関や金融機関のアナリストが頭を抱えている所以でもあります。

テクノロジーはウォッシュ対策に役立つのか

以上のグリーンウォッシュの判断について、なかなか骨が折れる作業が含まれていると感じられたのではないでしょうか。そこで、今回は部分的になりますが、テクノロジー活用の可能性を探りたいと思います。

テクノロジー活用の可能性

まず、そもそもESGのデータは多様で膨大、あるいは可視化の方法が未だ模索段階にある分野も多い(生物多様性など)という特徴があるため、人手での収集に限界があると考えています。AIやその他技術を組み合わせることによって、様々なESG面の取り組みや状況を可視化することが可能になります。

さらに、ESGの特徴として、多角的な評価が求められるということがあります。例えば環境取り組みを行なっていても、原材料調達の場面で人権侵害が絡んでいる場合などがあり、人間ではその膨大なコンテキストを分析することが難しい、あるいはコストがかかりすぎるという状況です。一方AIにはそれが可能で、かつリアルタイムでの分析も行うことができます。これには、ソーシャルメディアにおけるステークホルダーの声の分析なども含まれそうですね(環境汚染の報告、劣悪な労働環境に関する投稿など)。

具体例

最後に、テクノロジーをESGの可視化や信頼性向上のために活用しているいくつかの事例をご紹介したいと思います。以前持続可能な経営とAI:ビジネスリーダーのための戦略というCOMEMO記事でも言及しましたが、例えば、英国のNetwork Railはロンドン動物学会と協力して、沿線の音声データ等をAIで解析することにより、様々な生物の生息地や、生物多様性に及ぼす影響を可視化しています。

また、データプラットホームを用いてデータ集計をすることによって、データ集計の誤りや改竄を防いだり、異常値を検出することなどができます。これによってデータの信頼を高めることができるでしょう。既に財務監査の領域ではAIが利用されていますし、ESG情報への適用も検討され始めています。

あるいはブロックチェーンの技術を用いて、サプライチェーンのトレーサビリティを高めていくこともできますし、グリーンボンドなどの資金用途をトラッキングしていくこともできますね。

サプライチェーンに関する日本の事例として、ロッテが実施している、児童労働リスクのブロックチェーンによる可視化実験があります。チョコレートの原材料であるカカオ豆の生産と流通などの履歴と、児童労働のリスク情報を紐つけて、ブロックチェーン上に記録する試みを実施しているようで、大変興味深いです。

おわりに

ESGの領域は大変広く、人手で本質的な取組みに関するモニタリングを行うことには非常に多くの課題があります。今回ご紹介させて頂いた以外にも、多くの分野・プロセスにおいてテクノロジーを活用し、グリーンウォッシュの防止に役立てることができると考えています。この分野については個人的にも関心が高く、各種研究を進めておりますので随時ご報告していきたいと思います。

ぜひみなさまもより本質的なESG取り組みのために、どのようにグリーンウォッシュを判断するべきか、そしてその作業についてどのようにテクノロジーを活用できるか、検討してみるのはいかがでしょうか。


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