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ツーリズムのゆくえを新ラグジュアリー文脈で考えるーマッキンゼーの報告書を読む。

最近、マッキンゼーが出したツーリズムに関するレポートを読み、とても気になる点がありました。ラグジュアリー領域のツーリズムに関するデータです。

1つ目のデータは、一泊にかける予算とその予算を選ぶ人たちが何を求めるか?です。300$以下、300-500$、500-750$、750$以上の4分類があります。そして、求めるものは「どこか新しい場所の発掘」「文化的または歴史的な旅」「オーセンティックな経験あるいは文化的没入」「新しいことを経験」も4つあります。

これら4つのそれぞれを求める度合いが一番多いのが、500-750$/泊の予算を想定している人たちなのです。いわば、ラグジュアリー領域の入り口に立つ人、この人たちが最も野心的で好奇心が高い、と想像がつきます。

2つ目のデータです。大きく3つのカテゴリーに分けます。「伝統的(ビーチやさんさんと降り注ぐ光、リラックス、都市部の旅、文化や歴史」「冒険(クルーズ、冒険やアドレナリンのでるスポーツ、ドライブ)」「特別領域(スキーや冬の旅、ヨット、サファリ)」です。

これらのカテゴリーでマス旅行者とラグジュアリー旅行者の選択をみると、冒険と特別な領域ではラグジュアリー旅行者が俄然多い。一方、伝統的なところでは、ビーチや文化・歴史の旅の両方でそれなりにラグジュアリー旅行者が多い。その差は冒険や特別領域ではマス旅行者と比べて20%程度ですが、ビーチや文化・歴史では10%程度の差です。

注目すべきは、伝統的カテゴリーでは両タイプの旅行者ともに全体の40-60%で「競っている(?)」に対し、他の2つのカテゴリーでは20-40%のエリアです。

これらの数字をみて分かるのは、ラグジュアリー領域のツーリズムのイメージとして冒険やサファリなどが取り上げられやすいが、光がたっぷりある海岸でボンヤリしている姿が良い、と考えている人が圧倒的に多いということです。それに加え、大都市や地方の小都市で文化や歴史に接する人が、殊にラグジュアリー入門編に多いのです。

(詳しくデータを知りたい人は、冒頭のリンクからクリックしてレポートをダウンロードしてください。27ページ、29ページに上記内容の図表があります)

建物のメインの位置を占めるテラスの下に通常、正面玄関がある。しかし、この建物においては脇入口がある。とすると、この建物の正面の入り口は左の側面にあるのか?とも想像する。こうした考察も、都市で文化や歴史を探る第一歩になるだろう。

そこで、ぼくはふっと考えました。『新・ラグジュアリー ――文化が生み出す経済 10の講義』で書いたことです。ラグジュアリー領域は新しい文化をつくるビジネスである、という肝の部分です。

危険もある冒険に満ちた旅が何らかの文化をつくる可能性も高いですが、ぼくが関心をもつのはそちらではない。以前、『「ラグジュアリー観光」と「テリトーリオ」は繋がるか?』で書いた次の部分に繋がるツーリズムです。

深海だ、極地だ、ヒマラヤだ……と足を踏み入れても、「日常生活に手をつけていないじゃない」とぼくの目には映るのですね。自分の家庭のなかにどんどんと違った文化の人を受け入れていく現実と比べると、楽をしている感じが否めないのです。
<中略>
実はですね、ぼくが興奮するのは、一度は衰退した農村や都市の再生なんかのシーンなんですね

いわゆる有形文化遺産として重々しく扱われるものもさることながら、無形文化資産に関心があり、そこに「あたらしい文化をつくる素材」が豊富であることに目を向けたいです。例えば、以下で紹介したピエモンテ州ランゲ地方は、そういう文脈に適当です。

博物館のように「檻に入った有形文化」ではなく、「開放された世界観を感じる無形文化」に接する、しかも、第三者として見ているだけでなく、そのなかに入っていくーー新ラグジュアリーにおけるツーリズムとはこうあるべきというのではなく、自ずとそういう方向に向かっているのではないか、との印象をもちます

それが、500-700$/泊の人たちが他の層と際立って違った関心を示している証ではないかと思うのですね。更に「開放された世界観」を別の表現にすると、全体なるものを掴む実感に近いです。

ここから、ちょっと難しい話をします。

ここでいう「全体」とは、サイズを示しているのではありません。大きい小さいではない。米国のデザイナー、チャールズ・イームズとレイ・イームズの夫妻によって1977年に製作された映像「パワーズ・オブ・テン」が表現する「全体」です。

ある範囲内にある要素の数々の関係性や多面性を知る、または体感するーーこの充実度が「全体」の把握に通じるのです。まさに、イタリア語のテリトーリオーー都市と農村の関係、自然、文化、社会のアイデンティを包括する空間です。

余計ながら最後に。パリオリンピックの都市の活用の仕方は、こういった考え方とも通じるところがあるのですよね。

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冒頭の写真はトリノ自動車博物館にある展示です。クルマのボディを使って暖炉を「演じ」ています。下の写真はバイクのコンポーネントを使った彫刻です。こういう作品は全体を把握したがゆえに得られるアイデアではないかと想像します。


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