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シリコンバレー呪縛からの解放と社会全体のリスクテイクがもたらす、日本のスタートアップとアジアの未来

今年も日本経済新聞主催のシンポジウム「アジアの未来」が開催され、その中でアジアの起業家に関するセッションが行われた。

パネリストとして、シンガポールで実際に起業したシリアルアントレプレナー・シオック・ミーツのサンディヤ・シュリラム氏と、そうしたアジアのスタートアップ企業に投資する VC・リアルテックホールディングスの藤井昭剛ヴィルヘルム氏がパネリストとして登壇している。

脱け出せない「スタートアップ=シリコンバレー」の図式

この中で 藤井氏が指摘していたように、スタートアップと言うとシリコンバレーを中心にロンドン・イスラエルといったところに目が向きがちではあるのだが、アジア特に東南アジアはスタートアップの質も高くビジョンと熱意が高いと紹介していた。

もちろん、このシンポジウムのテーマが「アジアの未来」であることからそれを意識した発言であることは否定できないと思うが、しかし未だにスタートアップと言うとシリコンバレーという図式から、日本はなかなか抜け出せていない、それがいつまでも続いている、というのは感じるところである。

リスクを負うのはスタートアップだけなのか

また、スタートアップ生まれ、大きくなるためにはリスクを取らなければ実現しないものなのであるが、日本の場合は以前にも指摘したとおり、リスクに対する感覚と認識が薄い。

こうした中で、スタートアップを生み出しましょう、振興してユニコーンを生み出しましょう、と言ったところで、そのリスクの取りやすさをどうするか、という課題が具体的に設計されていないことは日々感じるところである。

先日の上記の記事によれば、政府が海外の VC に対して出資し、日本のスタートアップの育はを促進するという。

戦略案は国内のVCについて、リスクの高い科学技術への投資などの「専門性が不足している」と指摘した。投資のリスク判断や収益化などで海外VCの力を活用し、スタートアップへの投資を促す。

上記記事より

というのだが、果たしてこれがうまく機能するのだろうか。

リスクの高いジャンルへの投資は専門性が求められるのはその通りだろうが、専門性が高くても、出資者はもとより、スタートアップで働く人、その親や家族、そのスタートアップと取引する会社などまで含めて、社会全体のリクスへの理解度と許容度、そしてリスクを取ってうまくいかなかった時の再挑戦へのサポートなど、リスクを取ることに対する社会的な環境が変わらないと、単にVCを海外にしただけではうまく行くようには思えない

経済環境の逆風とCVCのチャンス

さらにこの記事が指摘するように、今年に入ってコロナ新型コロナウイルスだけでなくウクライナ戦争とそれに基づく石油をはじめとした資源の価格高騰、さらには中国で続くロックダウンやアメリカのインフレなど様々な要因から経済の減速傾向が強まっておりこれはスタートアップにとっては資金調達が難しくなることに直結している

こうした状況がいつ解消されるのか。景気後退・リセッションの出口がどこにあるかは、見通しがつかない状況にある。これはアジアの未来の別なセッションでも、シンガポール国立大学中東研究所のビラハリ・カウシカン氏などが指摘していたことだ。

いずれにしても、ここしばらくはスタートアップにとって資金調達の面で難しい局面が続くのだろうとは思う。ただこういった時期だからこそ堅実な経営をすることによって芽が出て大きく育ってくるスタートアップは、その後の成長力も強いのものではないかと期待されるのは、上記のVCへのインタビュー記事の末尾にあるとおりだ。

こうしたなかで、投資専業のVCとはちがった観点で、自社の事業と収益力の基盤が固まっている大企業のCVCがリスクをとって動けるのであれば、有望な自社の事業に関連するスタートアップを、自社事業の専門性をもって評価・出資しさらにはM&Aにも動くなど、金融市場の動向の影響を抑えながら有効にスタートアップが成長するエコシステムを作ることが出来るようにも思う。

大企業にとってそれが難しいからこそ、

「日本の大企業によるM&Aが活発になるとうれしい。特に期待しているのはメガベンチャーとスタートアップの連携だ。例えばマネーフォワードやフリーなどは創業者が若くて意思決定が速く、スタートアップに対する理解がある」

コーラル・キャピタル:ジェームズ・ライニー最高経営責任者

といったメガベンチャーに期待する発言も出ているのだろうと思うが、大企業が続々と参入を続けているCVCのなかにあって、頭一つ飛び出せるのか、CVCにとっても試される時期が来ていると言えるかもしれない。

いずれにしても、今回のセッションを通じて改めて、日本のスタートアップが生まれ育つ環境は社会全体で考えなければいけない、ということを改めて認識した。


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