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今年2年ぶりに CES がラスベガスでリアル開催を行った。昨年はオンラインのみの開催となり、今年も開催直前にオミクロン株の流行が始まったため、リアル開催は中止になるのではないかと個人的には思っていたのだが、結果的には予定通り、オンラインとリアルの双方で開催された。ただ、4日間で予定されていた会期は1日短縮され3日となり、1月5日から7日までとなった。

今回、自分自身が CES に参加するかどうかについては、相次ぐ大手企業の出展取りやめやメディアの現地取材見合わせ、オミクロン株感染の危険性などを考慮し、最後まで逡巡したが、このコロナの状況下でどのように CES が変わり、今後どのような方向に向かっていくのかを見極めたいと思い、最終的に参加することにした。

ふたを開けてみればVENETIAN EXPO (旧SANDS)に出展するスタートアップは、例年と比べ多少規模は小さくなったものの引き続き盛況であり、さほど大きな減少・縮小を感じなかったが、そのあとでメイン会場であるLVCCホールに足を運んでみると、あまりの出展社と来場者の少なさ、そして出展している企業でも展示内容の少なさにショック受けた。

今回新しくウエストホールがオープンし(タイトル写真がそのエントランス)、従来はノースホールに出展していた企業の多くがウエストホールに移動したが、一方でサウスホールは使われずクローズされていた。例年は Google なども特設の屋外ブースを設けていたセントラルプラザで名前はいいのか、も例年になく閑散とした状況であった。 前回のCES2020のタイトル写真と同じ場所から撮影しているものなので、比べて頂くと違いがお分かりいただけると思う。

CES2022のセントラルプラザの様子
例年Googleが出展していた写真後方のスペースも空いている

入場には、海外からの参加者の場合アメリカへの入国条件となっている出発1日前以内の陰性の検査結果が求められる(入国が許可されているということはこの条件をクリアしている)とともに、入場バッチのピックアップ場所で、自分で感染の有無を検査できるキットが無料で配られた。

来場者にバッジとともに無料配布されたセルフ検査キット

また海外からの参加者については、帰国に必要となる検査と陰性証明書の発行が無料で提供された。なお、日本への帰国者には通常の英文での証明書とは別に厚労省書式での証明書も提供されたが、記載不備等でトラブルを経験された方も散見されたので、来年以降同様のサービスがある場合でも注意した方がよい。

前回まで、伝統的なCES出展社ではないP&Gやデルタ航空、日本企業だとTOTOなどの出展が注目を集めていたが、今回そうした企業の出展は鳴りをひそめてしまった。そのかわりP&Gはメタバースでの出展に切替えたようだ。

従来型のオンライン開催は、リアル(オフライン)との補完関係になるかもしれないが、メタバースでの開催はリアル開催どの程度の補完関係になるのか。むしろメタバースがもうひとつの現実世界を志向していくのであれば、両者は競合関係になっていく可能性もあるかもしれない。私個人の限られた感触では、今回の CES 会場を歩いて、メタバースが今後どのようにリアル開催と融合して行くか、あるいは競合するのか、という方向性は見いだせなかったし、CESの主催者がこの点をどう捉えて次のアクション取ろうとしているのか(あるいはとろうとしていないのか)もはっきりしない、と感じた。 

そして例年よりも出展が少ないことを見越したのか、記事にもある通り、スタートアップ・大企業ともに韓国勢の積極的な出展が目立ったのも今年の特徴だと感じた。スタートアップでも、出展主体の見え方はややばらつきがあるが韓国の出展社をトータルすると、例年積極的な出展を続けているフランスのフレンチテックの出展数を上回る規模であったようだ。

その代わり、韓国の出展社の関係者は、サムスンだけでも20名ほどが感染したということで出展の代償も少なからずあったようではあるが、例えばヒュンダイのボストンロボティクスの買収を活かしたプレゼンテーションは、最終日となった3日目の午後でも、写真を撮るのに苦労するほどの人が集まり、盛況を見せていた。

ヒュンダイのボストンロボティクス関連プレゼンテーション(最終日3日目午後)


このテスラ車を用いた地下トンネルでLVCCの展示ホール間を結ぶ新たな交通システムは、今回の CES への出展ということではなく、LVCCでの催事がある時に運行されるということだったが、記事によれば将来的にはラスベガス全域にこの交通を普及させる計画という。自動運転が可能になれば、専用のトンネルを走るこの交通システムは、従来の鉄道をベースにした「地下鉄」や「新交通システム」よりも建設費や運営費用を低減させた都市交通を担うことができる可能性を感じる。クルマ1台が通れればよいのであればトンネル断面は小さい分だけ建設費は安く済むし、市販車と同じ車両を使えば調達コストも安く、また車両のメンテナンスや更新の費用も抑えられるだろう。

後部座席から見たトンネル内走行中の様子
現状ではドライバーが有人運転している

直接の CES の出展ではないが、こうした取り組みがあることはスマートシティや自動運転などのトピックスを考えた時に、見落とせない動きであると思う。ラスベガスではモノレールが開業してそろそろ20年近いが、これまで空港などに延長されるといわれながら、地元のタクシーやホテル送迎バンなどの反対によるものか、なかなかそれが実現しないでいる。そうこうするうちに Uber や lyft などのサービスが 普及し既存のサービスのシェアを奪っている。こうした状況の打開策になるのか。また、圧倒的に鉄道よりクルマが社会に定着している米国発で、クルマをベースとした新たな都市公共交通システムが生まれ普及するのか、非常に興味深く、今後の動向に注目していきたい。

こうした直接にはCES外の動きを除けば、残念ながら今回の CES は総じてこれまでの開催形式の延長線上にあった印象であり、メタバースを筆頭に、新しい時代に向けた展示会のスタイルが提案できていたかと言うと疑問が残った。今後、メタバースの取り組みが加速するのであれば、リアルな展示会はその影響を少なからず受けることになるだろう。メタバースとリアルな展示の役割分担、さらには従来型のオンラインとの役割分担はどのように変化していくのか。そうした課題が浮き彫りになった今年の CES であったと感じている。 

この点で、前回の2020年の開催と比べ、開催のスタイルにあまり本質的な変化を感じにくかった CESであるが、アメリカの社会の状況は大きく変化したと感じたのも、今回の CES 出張であった。このアメリカ社会の変化については稿を改めて書きたい。

なお、今回のCES2022の動画による下記の研修が1月一杯参加可能ということだ。私もスタートアップに関する動画を提供しているので、ご関心あれば他のテーマも含めてご視聴頂ければ、足を運べなかった方もCE2022の動向を把握する一助になると思う。


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