見出し画像

データを収集する目的は何ですか?-アマゾンとの比較で考える

こんにちは。グローバルでDXの調査・支援をしている柿崎です。
以前に何度か書きましたが、私が所属するCDO Clubは、企業・行政組織のDXのリーダー(CDO:Chief Digital Officer/ Chief Data Officer)が集まるグローバルなコミュニティで、私は日本の事務局を担当しております。
また、コロナ前にニューヨーク、サンフランシスコ、東京等のCDO Summitに私が参加し、講演やディスカッションをしたことも何度か書きました。

今回は、アマゾンを例に、海外と日本のデータを収集・活用する目的の違いについて書きます。
以前、以下のnoteで海外と日本のDXの目的の違いについて書きました。

このnoteで以下を書きました。

Amazon Goで注目すべき点は「このお店のコンセプトは、カメラとセンサーがあなたの購買行動の全てを追跡していること」です。
アマゾンが何を目的にカメラとセンサーで店内の行動データを取得しているのでしょうか?
この目的含めてデジタル企業の戦略については次回以降詳しく書きます
が、海外のDXのリーダーはデジタル企業の戦略を正しく認識し、自社のDXの目的を設定しています。

DXの目的は?ー生産性向上はDXの目的にならない
https://comemo.nikkei.com/n/n89bf978492c2

なぜ、Amazon Goはカメラとセンサーで店内の行動データを取得するのでしょうか?
結論から言うと「価格を制するため」です。

アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏は、かつて『競争力を確保するため、顧客にできる限り低価格を提供することに注力している。私はこれを極めて重視し、自ら全面的に関与している』と言っていました。これはつまり、「データを制する者が価格を制する時代になっている」ということです。

少し経済学に触れます。以下は「価格と需要・供給の関係」のグラフです。


価格と需要・供給の関係

新たに開発したばかりの商品・サービス「供給曲線(新規)」は、あまりにも新規性が高いため全く売れません。次に、「供給曲線(初期)」の段階に入ると、イノベーティブな人たちが高い価格でも気にせず買い始めます。この頃は売上(黄色の範囲)を独占しています。その後、次第に競合会社が同様の商品・サービスを提供し、最終的には「供給曲線(成熟期)」の状態になります。ここまでくると売上(黄色の範囲)を複数社で奪い合う状況になり、生産性を上げても遅かれ早かれ利益率は低下します。
その対策として、企業はイノベーションや新規事業を続ける必要があるのです。

企業が新規事業やイノベーションを起こす必要がないケースがあります。
それは、一社で市場を独占することです。本来であれば複数社と競争価格で勝負するはずですが、独占していますので、価格を釣り上げて独占価格で販売することが可能になります。売上(黄色の範囲)は全て一緒で独占します。

価格と需要・供給の関係

アマゾンの独禁法違反に関するニュースをよく見ますが、Amazon Goにおいては独占のためではなく、「価格を制するため」に事業が展開されているように考えられます。
先ほどのジェフ・ベゾス氏の言葉を再掲します。

競争力を確保するため、顧客にできる限り低価格を提供することに注力している。私はこれを極めて重視し、自ら全面的に関与している

以下は、アマゾンが目指している最終的な「価格と需要・供給の関係」のグラフです。細い点線に注目してください。


価格と需要・供給の関係

Amazon Goでは全ての行動データを取得しています。これには、意識した行動に限らず、無意識の行動も含まれます。満足して棚から取った表情、いやいや棚から取った表情、悩んで棚に戻した表情なども含まれます。
同じ商品・サービスでも、人や状況によって購入したい価格は異なります。
以下は、500mlのペットボトルの水の例です。
・水を持っていない砂漠にいる人:1,000,000円
・日本の山奥で喉が渇いた人:1,000円
・東京の道端でのどが渇いた人:100円
・すでに水を持っていて不要な人:10円

Amazon Goは、無数のセンサーで取得した行動データから、個人個人にとってできる限りの低価格を自動的に提供するアルゴリズムを作ることが可能になることでしょう。

「とりあえずデータを集めている」「とりあえずデータを集めたので何かしたい」という日本企業の方々によく会います。
目的なく集めたデータを活用することは困難であり、そのデータには保管量がかかります。
データを収集・活用する前に、まず目的から考えましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?