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緊急事態宣言を巡る都知事と国との攻防、オミクロン株の次の変異種に日本の現場は対応できるのか?!についての考察

都知事の通常病床利用率をトリガーとした緊急事態宣言〜国・政府への揺さぶり?〜

感染拡大が本格化し始めた1月14日に、東京都の小池知事が入院患者の病床使用率が20%でまん延防止等重点措置の適用を要請し、50%で緊急事態宣言の発出を要請を検討するとしました。

今日48.5%とその50%が目前に近づいてきました。

先週のCOMEMO記事でもオミクロン株の拡大にあたっての医療逼迫の判断に、2つの病床利用率があり最終的にこれにより社会活動を制限するか否かの判断がされると記しました。

東京都の基準における逼迫判断の基準値は、重症者の病床利用率ではなく、「入院者による病床使用率」の数値です。重症患者の命を救えないという懸念ではなく(実際、1月30日の重症者数23名、死者1名)通常医療への影響の懸念から緊急事態宣言要請の可能性に触れている訳です。

そして、この数値は実は都独自に自宅療養を進める事で緩和可能な数値です。実際、東京都は「うちサポ東京」として検査陽性でも軽症者は自宅療養として保健所からの経過観察連絡も不要とし、医療現場と保健所の負担軽減に既に動いています。

重症者の病床でなく、この(東京都によってある程度対応調整可能な)通常病床利用率をトリガーとした緊急事態宣言要請基準を国に早い段階で示したのは、政府への都知事の戦略的な揺さぶりではないかと考えています。

「今回は感染症法を何も触らないという話。国会のなすべきことは危機管理が一番大きなことで、優先順位が違うかなと率直に思っている」(小池都知事 1/21会見)
「国にはコロナとの戦いのゲームチェンジャーとなるワクチンや、経口薬の供給を継続して要望をずっとしておりますけど、5類への変更も含めて科学的な知見を集めていただきたい」(東京都 小池知事 13日)

大阪府吉村知事も同様です。伝家の宝刀が一つしかないために、知事には緊急事態宣言の要請をするしか武器がない訳です。

政府岸田政権は権利の制限に踏み込む病床確保の感染症法改正を(医師会に配慮して?)来年夏の参議院選挙まで先送りしました。

インフルエンザ相当という5類への新型コロナウイルスの指定変更についても慎重です。

そしてワクチンの3回目のブースター接種も大幅に遅れています。

新型コロナウイルスと戦うための様々な武器を地方自治体に一向に渡さない政府に、それぞれの首長は怒り心頭なのだと思います。

緊急事態宣言発出に至ると、水際対策含めて早め強めで比較的評価の高かった岸田政権のコロナ対策が結局機能しなかった事となり支持率の大幅なダウンを招きかねません。政府としては、緊急事態宣言発出を何とか食い止めようと、通常病床利用率を基準とした緊急事態宣言の判断には慎重です。

”山際大臣はこのように述べ、東京に緊急事態宣言を出すかどうかの判断は病床使用率だけではなく、重症者の数や新規感染者の増え方も含めて慎重に検討する考えを示しました。”

2類か5類か、でなく感染症法の本来対応を完璧にすべき

新型コロナウイルスが重症化しない場合は現行の結核並の2類指定をインフルエンザ並の5類に変更すべきとの考え方は以前からあります。感染経路特定と隔離という従来の保健所のやり方を止め、通常医療体制で包括的に診察できるようにして経済活動を正常化させるという考え方です。

私は一昨年の年末にニューズウィーク日本版で書いた様にこの指定変更には慎重な立場です。

https://www.newsweekjapan.jp/yasukawa/2020/12/post-3_3.php

新型コロナウイルスを感染症として特別扱いする法的根拠が失われるため、PCR検査検査、入院医療費や高額な投薬費用が個人負担となります。そしてそれら検査による早期発見や治療をためらう人々が一定割合発生し、感染はまん延し重症者も増えます。

私は、5類への指定変更を検討する以前に、まず2類での「検査、感染経路特定、必要最低限の隔離のIT技術を使った円滑な業務フロー」を今のうちに確立しておくべきと考えます。

オミクロン株は最後ではない?!!

その理由は、今回のオミクロン株が最後であるという確証はなく、さらにまた次の新型コロナの変異株は弱毒化しているという保証はどこにもないからです。(想定したくないことですが)

世界保健機構(WHO)もオミクロン株が最後で最終局面だという楽観的な考え方は危険としています。

私も先日オミクロン株はデルタ株の進化系でないという事実を初めて知りました。2020年の2月頃の感染拡大時期にデルタ株の前に分岐しこれまでは潜んでいたのです。

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(↓詳しい分析サイトはこちら)

今、全く異なる変異株が世界のどこかで潜んでいてオミクロンが最初に拡大した南アフリカ共和国のように今尚ワクチン普及率の低い国で爆発する可能性はゼロではありません。そして、その新たなウイルスが重症化しないかどうかは誰もわからないのです。

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ビル・ゲイツ氏は(気持ちとしてはうんざりですが)新型コロナウイルスのパンデミックが収束したとしてもより猛毒化したウイルスに備えるように警告を出しています。

欧米の感染症対応の日常

経済優先で早々に規制緩和を打ち出している英国のジョンソン政権でも、2類的な感染症の隔離政策(Self-Isolate)は継続しています。(但し陽性反応者のみの隔離で陽性者も5日目に抗原検査を自宅で行って2日連続陰性なら隔離終了。)

またフランスでも、ワクチン接種証明、感染経路特定の濃厚接触者情報、そして隔離の必要の有無が同じ1つのアプリに入っておりそこでスマホで政府とのやり取りは完結します

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もはやワクチン証明を一日何度も示すことになるので、スマホの待受画面にしているフランス人も多いと聞きます。

濃厚接触者のチェックとかが、(保健所が)電話するとかはあり得ないので」と一蹴。「ヨーロッパの場合はワクチンパスポートをみんな持ってるので、濃厚接触者は自動でスマホに出る」とシステムが整備されていることを強調した。「いちいち電話でやってるのって昭和とか平成の時代じゃないですか。めちゃくちゃ遅れてますよ、日本は」(ひろゆき 1/30)

そして日本は、未だ2年前と全く変わらない保健所パンク状況です。

太平洋戦争時のガダルカナル島の戦いと同じ?組織の「限界合理性」の罠

東京都に勤める知人に何故、保健所のオペレーションは電話とFAXから変わらないのか、という素朴な質問をぶつけたことがあります。2020年の春の最初の感染拡大に対応してCRM各社から業務フローの最適化システムの導入はあった様です。但しその時は現場は対応に追われとても現場業務の抜本改善の検討ができる状況ではなかった模様です。

2年前の初めての感染拡大時はそうであったとしても今となっては繰り返す感染拡大に備えた業務改善検討をどこかですべきだった思います。ですが今でも感染症対策の現場は電話とFAXでの運用に変りはありません。

ガダルカナル島の組織の不条理

日本的組織が上手く機能しなかった事例の研究に菊澤研宗氏の「組織の不条理」という名著があります。

この非効率な戦術を選択し続けた日本陸軍の行動は実は合理的であったということである。つまり、この戦いの失敗の本質は、人間の非合理性にあったのではなく、実は人間の合理性にあったということである。(菊澤研宗)

ガダルカナル島で3度もの白兵戦に失敗し多くの犠牲者を出した日本陸軍ですが、その司令部が愚かだったのではありません。物量とテクノロジーに優るアメリカ軍に白兵戦では勝てないと言う事は第1回目の攻撃の壊滅的失敗から理解されていました。それにも関わらず、白兵戦に最適化されすぎた組織を変える「調整コスト」と「取引コスト」を考えると戦略の変更は合理的ではないと判断をしたため、同じ無意味な攻撃を繰り返し、結果として屍を築き続けたと本著では指摘されています。

銃に関しても、米軍はいち早く自動小銃M1を制式化したのに対して、日本軍は白兵突撃主義を基礎とする手動連発小銃の開発に投資していた。それゆえ、もし陸軍伝統の白兵突撃戦術を放棄し別の戦術へと変更すれば、これら特殊な投資は回収できない埋没コストとなり、しかもこの変更に反発する多くの利害関係者を説得するために膨大な取引コストが発生していたであろう。(「組織j不条理」菊澤研宗)

日本陸軍の夜襲、奇襲などの白兵戦方式は、満州事変、香港攻略、シンガポール攻略などの緒戦においては一定の成果をあげていました。今の日本のコロナ対策はまさに、本著で指摘する優秀な現場による「限定合理性」によってある程度の結果を出しています。

但し、これが万が一にも重症化率が極端に強い変異株が襲ってきた時に、今のままの白兵戦で対応できるのか、私は強い懸念を持っています。

私個人は今回のオミクロン株はおそらく2月中に収束すると思っています。(願っています。)

但し、先程見てきた様に今回の第6波が感染拡大の最後でこれからの株が弱毒化するという保証は世界保健機構(WHO)含め誰もできないのです。

危機管理に責任を持つ政府のしかるべき立場にある人は、この事実を認識し現在展開可能なITのテクノロジーを最大限活用し、万が一の可能性のあるより強い変異株や感染症に対して国民を守る盤石の構えを築いてほしいと切望します。



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