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未来の歴史を先に決めれば、今この瞬間にやるべきことが見えてくる。

小学4年生のときから研究を始め、地球温暖化問題の解決と火星移住を目指す20歳の研究者、村木風海さん。東京大学在学中の学生でありながら、一般社団法人炭素回収技術研究機構「CRRA:シーラ」の代表理事も務めています。

「火星人になりたい!」という子供の頃からの夢を叶えるためには、温暖化問題を解決しなければならない。非常にユニークな発想から社会課題に向き合い、アストロケミストリーの分野でイノベーションを起こそうとしています。

「異能」と呼ばれる東大生のアタマの中では一体何が起こっているのか?発想の原点や、思考の背景について、篠田真貴子さん(マキコさん)が話を聞きました。

この企画は、日経COMEMONIKKEI STYLE U22が連動で行なっているシリーズ「マキコの部屋」です。毎回、篠田さんが次世代のリーダーに話を聞きます。

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■なぜ火星人になるために社会課題に向き合うのか?

ーマキコさん(篠田さん)
私がまず面白いなと思ったのは、子供の頃、火星や月に行きたいと考えたことがあるという人は結構いると思うのですが、「火星人になりたい!」という話はあまり聞いたことがないなと(笑)

ー村木さん
そうですよね(笑)はじまりは小学4年生のときに、スティーブン・ホーキング博士が書いた子供向けの冒険小説「宇宙への秘密の鍵」というシリーズを祖父からプレゼントされたことでした。当時の僕と同じくらいの歳の子が、まるで「どこでもドア」のような道具を使っていろいろな宇宙を旅する物語です。

その中に「人類が地球以外に一番住めそうな星を探す」というエピソードがあって、そこには地球以外で人類が住めそうなのは「火星」だと書いてありました。「赤い砂漠に青い夕日が沈んでいった」という地球にはない神秘的な光景に心を奪われて、「いつか自分はここに行くんだ」という確信のようなものが芽生えました。

実際に、NASAの探査機によって撮影された写真を見てみると、火星の夕日は青なんです。でも、それがなぜかは未だ解明されていません。

ーマキコさん
本を読んで「火星に行きたいな」と思ったことが、どのようにして研究の道に進むこととつながったのですか?

ー村木さん
小学生のときに、夏休みの自由研究の発展版のような、1年かけて1つの研究をするという授業がありました。その授業で「火星に住むには?」というテーマで研究をしたことが、最初のきっかけです。

ーマキコさん
「火星に住むには?」という研究をする中で、例えば「ロケットを飛ばしたい」などではなく、どうして「化学」の方向に進んでいったのですか?

ー村木さん
研究をするにあたって、火星についていろいろと調べてみると、火星の空気の95%が「二酸化炭素」であることがわかりました。そこに人が住めるようにするためには、まずは、何らかの方法で二酸化炭素を集めてどうにかする必要があるなと。

ーマキコさん
そこから二酸化炭素の研究が始まったわけですね。

ー村木さん
小学5年生のとき、「二酸化炭素がいっぱいの空気の中で植物がどれくらい生きるのか?」という実験をやりました。

ペットボトルの中にドライアイス(二酸化炭素)を入れて、その中に雑草を入れて蓋をする。植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す「光合成」もしますが、人間と同じように、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す「呼吸」もしています。

僕は、二酸化炭素しかない空気の中ではすぐに枯れると思っていました。でも植物は、3日間くらい元気に生きていました。

どうやら植物は、光合成で作り出した酸素を呼吸に回す、というすごいことをしているとわかったのですが、僕はそのとき「二酸化炭素ってすごい!」という方向にいってしまい(笑)それ以来、二酸化炭素マニアを続けています。

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ーマキコさん
中学に上がってからも、そのまま研究を続けていたのですか?

ー村木さん
はい、そして中学2年生のときにはじめて温暖化の専門書に出会いました。一度出してしまった空気中の二酸化炭素を集める「DAC」という分野があることを知って、自分でも装置を作れるかもしれないと思いました。中学3年生の卒業研究では、二酸化炭素の回収実験にはじめて成功しました。

「DAC」は二酸化炭素回収工場のような巨大装置ですが、本気で温暖化を止めたいと思うなら、科学にまったく関心がない人たちにも親しんでもらえるような装置を作って、一人一人の意識を変えていかなければいけないと思いました。

それで高校2年生のとき、世界で一番小さい装置を作ろうと思い「ひやっしー(※地球を冷やすという意味でネーミング)」のアイデアを思いつきました。

ーマキコさん
どういう仕組みになっているのか、簡単に教えていただけますか?

ー村木さん
二酸化炭素の「見える化」ができるようになっています。数字で「1500ppm」と言われても、どれくらいの二酸化炭素が空気中にあるのかわかりづらいので、その濃度に応じて表情が変わるようにしました。

この写真の顔は、よく換気された室内ですね。人が集まって密になると、徐々に微妙な顔になり、最後は目がバッテンになってしまいます。

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ーマキコさん
なるほど、考えましたね(笑)これを高校生のときに作ったんですね。

ー村木さん
高校2年生のときに発明して、3年生の夏休みに21台作りました。

それと同じ時期に「集めた二酸化炭素をエネルギーに変えられないか?」ということも並行して考えていました。そして、広島大学との共同研究で、二酸化炭素から直接天然ガスである「メタン」を合成する反応を見つけることに成功しました。

これは要するに、空気からエネルギーを生み出す反応が見つかったということです。

ーマキコさん
すばらしいですね。つまり、「ひやっしー」で集めてきた二酸化炭素を、価値のあるエネルギーに変えることができるようになったということですね。

ー村木さん
CRRAでは、「ひやっしー」を量産して、超小型・分散型の二酸化炭素回収ネットワークを作ることに成功しました。

これを「一家に一台」くらいの感覚で使ってもらい、回収量をネットで見られるようにして、みんなでシェアできるような仕組みも作っています。集めた二酸化炭素の量に応じて「ひやっしーマイル」という交通系電子マネーとして使えるポイントが貯まったり、各国の政府と連携して集めた二酸化炭素が新しい価値になる仮想通貨の経済圏を作ったりして、「二酸化炭素を集める人が報われる社会」の仕組みを作り始めています。

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■他人の「趣味」に口を出す権利は誰にもない

ーマキコさん
お話を伺っていると、小さい頃から科学が好きで、ご自身の探究心をもとにまっすぐに突き進める環境もあったのかなと感じるのですが。

ー村木さん
僕は小学4年生のときに私立の小学校に転校しましたが、それまで公立の小学校に通っていて、いじめを受けていました。生徒からだけではなく、先生からも、勉強は頑張っていたのに「学年で一番のお前は質問するな、手をあげるな」と言われたりしました。

中学のときも、僕の考えた理論の話を先生にまったく聞いてもらえなかったり、研究に必要な試薬や薬品の使用を禁止されて、研究ができなかったりしました。

その後も、僕の研究は日本では前例がほとんどないので、「お前の研究は何が面白いんだ、そんなのすぐにやめちまえ」と言われたり、学会でも白い目で見られたり。

僕の11年間の研究の中で、10年間くらいは周りから理解してもらえず、ほんとにしんどかったですね。

ーマキコさん
なるほど。そのような状況でも萎縮せずに研究を続けることができたのは、なぜですか?

ー村木さん
研究を始めるきっかけにもなったことですが、転校先の小学校で、僕の一番の恩師に出会えたことだと思います。先生にもわからないような質問を僕がしても「わかった!明日までに考えてくるから!」と言って、翌日には資料の束をもってきて「昼休み全部潰して俺と一緒に勉強しよう!」と言ってくれるような先生でした。

ーマキコさん
好奇心をもつことを、許されない場面と育まれる場面があって、それはある意味「運」で決まるようなところがありますよね。

ー村木さん
僕は、好奇心が潰れるのは、自分自身で潰しているからだと思うんです。「周りに否定されたから自分は好奇心に従えない」と思いがちですが、それは結局、人のせいにしているだけなのではないかと思います。

僕は今、ちょうど20歳ですが、年齢的に大人の仲間入りをして思うのは、「大人のほうが好奇心を伸ばせる」ということです。

僕は好奇心を伸ばすのは「ググることと電話すること」がすべてだと思っています。子供は自由に制約がありますが、大人はググることも電話することも、いつでも自由に自分だけの判断でできます。それは大人の特権だと思います。

ーマキコさん
言われてみればそうですね。確かに、やろうと思えばいくらでもやれる環境があるのに、そのメリットに気づいていなかったような気がします。

ー村木さん
1つ例をご紹介すると、先ほど、広島大学との共同研究で空気からエネルギーを生み出す反応を見つけたと言いましたが、これもきっかけはググって、そこに出てきた連絡先にメールを送ったことから始まっています。

「集めた二酸化炭素で何かエネルギーが作れないか?」と思ってググっていたら、広島大学の教授のスライドが出てきて、そこに書かれていたメールアドレスに「今から広島に行ってもいいでしょうか?」と送ったら「いいよ、おいで」とすぐに返事がきました。

見学だけさせてもらうつもりでしたが、教授が「君、うちで研究していかないか?」と言ってくれて。改めて長期休暇のときに1週間、訪ねて行って一緒に研究をさせてもらいました。

実は僕が見つけた反応「二酸化炭素を直接メタンに変換する」というのは、100年くらい前にすでに発見されていた反応です。ただ、希少で高価で非常に扱いにくい金属を触媒とするものだったので、実用化できるようなものではありませんでした。

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実験はなかなかうまくいかず、帰りのバスに乗らなければならない時間が迫る中、机の上に置いてあったアルミホイルがふと目に入りました。化学の世界では「起こるわけがない」と言われていた反応だったのですが、そのときは「うまくいくんじゃないか」と思いました。

二酸化炭素と水とアルミホイルを混ぜて機械でシェイクすると、メタンが発生。パソコン上にメタンを示すピークが「ピコーン!」と現れた瞬間に、研究室に「うわぁー!」と歓声があがりました。

空気からエネルギーを生み出すという、それまで無理だと思われていた反応の最初の一歩を踏み出せたのは「ググってメールを送った」からです。それがなかったら今の僕はありませんし、ググったことが僕の人生を変えてくれたと思っています。

ーマキコさん
自分を振り返って改めて考えてみると、村木さんのようなアクションをとっていないような気がします。

例えば、村木さんのように「この人と話してみたいな」と思っても、自分がすでにできていることならともかく、何も知らないのにその分野の権威に会うなんて「恥ずかしくてできない」という気持ちが瞬時に出てきてしまって、行動を止めているのだと思います。

ー村木さん
僕は今、ある意味「趣味」で地球を救っています。僕の研究が、結果的に地球を救うことに繋がることはラッキーだな、くらいに考えています。

趣味ならば、失敗しても間違えても、自分が好きならばやり続ければいいだけです。それに、他人の趣味に口を出す権利は誰にもありませんから、何を言われても「これは趣味でやってることだから」と思って続ければいいと思います。

頑張らなければいけないことだと思うと、結局続かないと思います。好きなことに突っ走っていれば、自分がずっと続けていける分野を見つけられるかもしれませんし、自分の殻を打ち破れるかもしれません。僕はいろいろな自分自身の経験を通して、そのことに気づきました。

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■否定されたときこそ「これは成功するぞ!」と思い込む

ーマキコさん
これまで11年間研究してきて、そのうちの10年はつらかったとおっしゃいましたが、これまで続けてこられたのは「好きだから」ということでしょうか?

ー村木さん
それもありますが、もう1つ、僕がいつもやっている思考法があります。

中学の先生に薬品の使用を禁止されたとき、僕はそれが悔しくて、先生が目を離したすきに薬品を使ってこっそり実験をやったことがありました。そうしたら、先生が無理だと言っていた実験が成功してしまい(笑)「あれ?先生は失敗すると言ったのに成功したな」と。別の実験も先生が目を離したすきにやってみると、やっぱりうまくいく。

僕はメンタルはまったく強くありませんが、誰かに頭ごなしに否定されたり無理だと言われたりしたときは、「これは成功するぞ!」「きっとうまくいくぞ!」と思い込むようにしています。

暗示の力は自分が思っている以上に大きいと思います。もちろん、落ち込むこともありますが、ポジティブな言葉を自分にかけ続けていると、不思議と本当にそう思えるようになっていきます。

それに、結果的に僕は今まで、否定されたり無理だと言われた実験は全部うまくいっています。

ーマキコさん
「うまくいく」という自分の意思がない限り、うまくいかないですよね。

ー村木さん
思い込むことってとても大事だと思います。僕は「2045年までに火星人になります」と言っていますが、できる根拠はゼロで、自信もゼロです。

でも、2045年に僕が人類で最初に火星に降り立つことは「歴史」なんです。そう決めてしまう。それは絶対に動かすことができない歴史だとしたら、やるしかありません。

2045年に火星に行くためには、2030年くらいに月に行っていなければ、2025年くらいには宇宙ステーションに行っていなければ、そんなふうに現在までを逆算していきます。

歴史の中の2021年の自分と、本当の2021年の自分にギャップがあるなら「それを埋めるためには何をすればいいのか?」そう考えると、日々の手帳のタスクに書けるレベルで、今この瞬間にやるべきことが見えてくるはずです。

自分で歴史を作って、その歴史を再現するために今の自分は動いている。頑張って積み上げていくのではないんだという意識をもつようになってから、25年後に向けて何をすればいいのかが毎日わかるようになりました。

ーマキコさん
自分の未来を想像したとき、それをかなり具体的に緻密にイメージできることが重要で、もっと言うと、そこまで「本気で面白がって考えられているか?」という、自分への問いかけにもなりますよね。

ー村木さん
夢の話をすると「もっと現実思考になれ」と言われたりすることもあると思いますが、現在の状況に対して現実的になるのではなく、「未来の歴史に対して現実的であれ」と僕はよく言っています。

未来の歴史を作るのは自分自身で、自分の頭の中で思い描いたことが未来になります。それを再現するために動けるのは「あなたの未来の歴史を一番よく知っているあなた自身だ!」そういう考え方でいつも過ごしています。

ーマキコさん
日本の社会では、年功序列の傾向がやや強いので、ある一定の年齢を超えないとまともに取り扱ってもらえないという風潮があることは、とてももったいないと思います。

今の20歳の皆さんが考えていることが、30年後にはリアルになるはずです。

未来から来た先輩だと思って、若い世代の人たちの話にももっと耳を傾ける風潮が広がっていけばいいなと思いました。

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この記事は3月23日(火)に開催した、オンラインイベント「”地球を救う”20歳のアタマの中」の内容をもとに作成しました。


篠田真貴子さん
株式会社YeLL 取締役

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【篠田さんのプロフィール】
1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーの「YeLL」取締役に。
・note:https://note.com/hoshinomaki


村木風海さん

一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長
東京大学教養学部前期課程理科I類2年生

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【村木さんのプロフィール】
日本の化学者、発明家、イノベーター、社会起業家。小学4年生の頃から地球温暖化を止める為の発明と人類の火星移住を実現させる研究を行っている。平成29年度 総務省異能vation 破壊的な挑戦部門 本採択(2017年10月)。研究実績をもとに、平成31年度 東京大学工学部領域5 推薦入試合格・理科 I 類入学。世界を変える30歳未満の日本人30人として、Forbes Japan 30 UNDER 30 2019 サイエンス部門受賞(2019年8月)。2021年1月からは、大手化粧品メーカー・POLAの研究開発部門、ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 特別研究員(サイエンスフェロー)を兼任。「地球温暖化を止めて地球上の77億人全員を救い、火星移住も実現して人類で初の火星人になる」という夢を叶えるべくCRRAで独立した研究開発を行っている。



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