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Nサロン主催トークセッション 宮内義彦(オリックス・シニア・チェアマン)×慎泰俊(五常・アンド・カンパニー代表)イベントレポート

1月28日、東京大手町のイベントスペースで、日経COMEMO×Nサロン主催のイベント「ビジネスを通じて社会を前に進めるには?」が開催されました。冷たい雨が降る夜にもかかわらず、たくさんの方にご来場いただきました。

■登壇者の自己紹介

今回のイベントは、慎泰俊さんが宮内義彦さんに、3つのテーマで質問をしていくという形式で進められました。まずは、慎さんのご挨拶と自己紹介からスタートしました。

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慎泰俊さん
五常・アンド・カンパニー代表

「現在4カ国で50万人の方に利用していただいている金融サービスを、50カ国で1億人の方に届けられるものにしたいと思い、まだまだ先は遠いのですが日々邁進しております。私は普段、宮内さんに教えを請う立場にあるのですが、宮内さんの言葉をぜひ皆さんにも聞いていただきたいと思いまして、今日、このような機会に宮内さんにお越しいただきました。よろしくお願い致します」

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宮内義彦さん
オリックス・シニア・チェアマン

「この中ではずば抜けて年老いた男ですが、ビジネスを長くやってきたので、皆様のご参考になる話ができればなと思って今日はここにきました。どうぞよろしくお願いします」


■トークセッションでの話題

世代のまったく違うお2人が、社会課題とビジネスについて真剣に語ってくださった、とても貴重な対談になりました。宮内さんからあらゆることを吸収しようとする慎さんと、力強い言葉で応える宮内さんの、密度の濃いトークセッションは、あっという間の1時間半でした。

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・1つ目のテーマ:会社の役割について

最初の慎さんからの質問は「ステークホルダーキャピタリズム」についてでした。2018年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出され、今回はそのダボス会議を見学したという慎さん。これまでの会社の役割はお金を儲けることであり、税金を納めることでした。それを、政府が再配分するという流れが、役割分担としてできていました。ところが、企業の目標は「株主の利益の最大化」だと言われていた論調が、最近では「これからはステークホルダーだ」と言われるようになってきています。「この風潮についての宮内さんのお考えを伺いたい」という質問でした。

「企業は企業、政治は政治、それぞれの役割をきちんとやっていればいいということで、これまではきたわけです。でも、その役割分担で社会が動かなくなってきたと、多くの人が気付き始めたんじゃないでしょうか。企業活動を効率的にやるためには、市場をしっかり作って、その中で競争(切磋琢磨)すること。それによって、より良いものができたり、より安くものができたり、見たこともないものが生まれたり、それで社会は発展していくと、みんな信じてやってきたんです。でも、すべてのシステムが少しおかしくなってきたような気がしますね」(宮内さん)

これに対する慎さんのお話では「日本では、企業が社会とつながっているという側面が強かったので、この動きを感じられている人は少ないかもしれませんが、『サステイナブルな企業にしか投資しない』という企業なども出てきている」とのこと。ヨーロッパ・アメリカなどでは、急速にこの動きが起きているそうです。

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さらに、企業が、社会的責任として政府の肩代わりをするようなことを求められることについても、慎さんから宮内さんに質問がありました。例えば、最近議論によく出ている終身雇用が崩れていく中での従業員の再教育についてです。転職する人はこれからも増えることが予想される中で、従業員が転職市場でやっていけるように、これまでは職業訓練校などが担ってきた部分を、企業がやるべきだという声が出てきています。この点から「会社の使命とは何か?」という話になりました。

「日本の企業はもともと高い社会性をもっていました。すべてのステークホルダーに気を配って、社会の一員としてやってきたんです。それが、市場経済ではそれではダメで、一点集中でシェアホルダーだけを大事にして経営しなければいい成果は上がらないんだと言って、いろいろなステークホルダーを引き剥がす方向へ進んでしまったわけです。でも、それを先導していたアメリカが今度は違うことを言い出して、みんな戸惑っているというのが本当のところだろうと思います。だからと言って、もとに戻るのかと言ったら、もうもとには戻れないと思います。これから迷いは深まっていくように思います」(宮内さん)

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・2つ目のテーマ:制度改革と企業の役割について

次のブロックの話題は「民意のコントロール」についてでした。世界中の先進国で、政治のポピュリズム化が進んでいる中での問題は、財政の抜本的な制度改革がしづらくなってしまうことではないかという慎さん。宮内さんは、小泉内閣のときに構造改革会議で先頭に立っていらっしゃった方です。最初の質問は「もし今、再び構造改革会議への参加を打診されたらどれくらい関与されますか?」というものでした。

「当時、日本の市場は規制だらけだったんです。いい市場を作るためには、これをなんとかしなければなりませんでした。それをミッションとしてやりました。しかし今は経済情勢が変わっていますから、もし今、そのような役割を与えられたら、自分には何ができるかということを改めて考えなければならないと思います。ただ1つ言えることは、どういう立場にあろうと、パブリックなことについては関心をもつことが必要だと思います。当時の私もオリックスの社長として関わっていたわけではなく、パブリックな使命感で『やるしかない』と思ってやっていましたから」(宮内さん)

慎さんは続いて、「よりよいアルゴリズムを作ったものが勝つという政治競争になってしまっている中で、個人にどれくらいのことができるのかということが、わからなくなってきている」とおっしゃっていました。ここで、宮内さんのほうから、とても強い言葉でメッセージがありました。

「選挙に行くことですよ。自分の考えをしっかり作って政治行動できる人が増えることが一番大切ではないでしょうか。政治というのは『我関せず』というのが最悪です。第2次大戦が終わったとき、私は小学校の4年生でした。空爆を知っている最後の世代だと思うので、若い皆さんに申し上げたいのですが、政治をなめちゃいけませんよ。政治というのは、皆さんの命と財産を自由にする力があるんです。恐ろしいものですよ」(宮内さん)

この後、慎さんからさらに「強い意見や財力をもっている人たちの戦いになってしまいませんか?」という質問がありましたが、それにも宮内さんは「お金があっても勝てない人は勝てないのだから、政治に対してみんなが絶え間ない努力を続けなければいけない」と強い言葉でお話しされていました。

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・3つ目のテーマ:最近のスタートアップについて

最後のブロックは「スタートアップの起業家」のお話でした。慎さんからは冒頭でストレートに「最近のスタートアップには『上場がゴールの起業家が多い』と言われることがありますが、スタートアップの社外取締役をされてみて最近の起業家に対して思うことはありますか?」という質問が出ていました。

「少し世の中が変わってきたなと思って見ています。慎さんよりもひと回り前の世代の人には、IPOが目標だとか、会うと時価総額の話ばかりをしている人が多くて、がっかりさせられたことが非常に多かったです。最近の人は「理念型」の人が増えましたね。はじめから高い旗をかかげてやっているという、今までいなかったタイプの人がたくさん出てきています。私はこれを非常に面白いと思って見ています」(宮内さん)

最初のブロックで宮内さんは、GAFAのような大企業が市場を独占してしまい、国の力ではどうにもならないくらい巨大化してしまうことは、市場にとってよくないというお話をされていました。これを受けて慎さんは「理念の達成のために、市場に独占状態を作り上げる必要がある場合についてはどう思いますか?」という質問をされました。

「どんな事業でもどんどん細分化していけば独占になります。今までにないマーケットを作って『これは独占だからけしからん』ということにはならないと思います。一番重要なことは、競争相手が生まれるかどうかです。何か面白いものが出てきたときに、『それ面白いな』となって次が出てくるかどうか、これが重要です。競争相手が出てくると、小さかったマーケットが一気に大きくなって、もっと面白いものが出てくると思います」(宮内さん)

スタートアップの中でもネットワーク系の企業はたくさんありますが、事業の性質上、どこかのタイミングでトップとそれ以外の差が埋められないほど大きなものになり、結果的に1社だけが残りやすいという状況があります。この点について慎さんは「是正すべきなのか?」という質問もされていました。

「テクノロジー会社だけではなく、同じようなことは今までにも世界中にたくさんありました。例えば鉄道や電力などは独占ですよね。そんなふうに、独占でしか社会に生き残れなくなったときのために政治行政というものがあるわけです。それによって次の発展が生まれていくということだと思います」(宮内さん)

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■イベントの最後に

最後に今回のイベントの感想が、慎さん、宮内さんそれぞれからありました。

・慎さんの感想
私が今日、一番記憶に残ったのは「政治をなめるな」という宮内さんの言葉でした。嫌なことがあってもそれに目を向けて立ち向かって行くべきだということを、肝に銘じようと思いました。本当にありがとうございました。

▼慎さんのnoteには、ご自身の言葉で語られたこのイベントの感想がアップされていますので、こちらもぜひご覧ください。

・宮内さんの感想
皆さんには時間的余裕があるわけですから、いい人生づくりをぜひ考えていただきたいと思います。自分が豊かになると、隣にいる人にも豊かになってほしいと思うものです。そういう渦をもし自分の周囲に作れたとしたら、何にも増して幸せなのではないでしょうか。皆さんの若さの有利さを大いに利用して、ぜひそれをやっていただきたいなと思います。

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このトークセッションは、2019年2月からスタートした日経とnoteが共同運営する学びのコミニティNサロンのシリーズ企画第3弾です。

第1弾は、ハヤカワ五味さん×レオスキャピタルの藤野さん

第2弾は、龍崎翔子さん×星野佳路さん。

Nサロンは、ビジネスの第一線で活躍している先駆者を招き、さまざまな学びを提供する場です。第3期を100名限定で4月からスタートさせる予定です。募集開始のお知らせをご希望の方は下記フォームよりご登録ください。


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