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副業「禁止」から「解禁」へ #複業の教科書

今週からスタートしている『複業の教科書』の #全文連載

前回、第2回はコチラからどうぞ。

副業「禁止」から「解禁」へ

 副業における〝常識〟もまた、180度変わる決定的転機をついに迎えました。

「モデル就業規則」の改革です。

 モデル就業規則とは、政府が示す〝就業規則のひな型〟のようなもの。就業規則をどのように定めるかは、それぞれの企業の判断にゆだねられますが、「今の世の中においては、こういう就業規則がベーシックな内容になりますよ」というモデルを政府が作り、公開しているのです。

 そのモデル就業規則における副業に関する規定が、2018年1月に画期的変更となったのです。

 どのように変更されたのかというと……。

 旧 「許可なく、他社の業務に従事しないこと」

 新 「勤務時間外に、他社の業務に従事できる」

「従事しない」から「従事できる」へ!

 まさに180度の大転換ですよね。つまり、政府としても「複業(副業)推し」であるということ。

 日本の企業社会はよくも悪くも横並び重視の文化です。「他の企業もやり始めた」という雰囲気がちらほら増えると、オセロの盤があっという間に黒から白に変わるように、加速度的に同調が広がっていきます。

 今後さらに副業解禁を決断する企業が増えることは間違いないでしょう。

会社のために働いても、会社が労働者の人生を守れなくなった

 では、なぜ政府も企業も、「副業解禁」へ乗り出そうとしているのか?
 その背景には、「日本の産業構造の変化」、それに伴う「最適な働き方の変化」が挙げられます。

 まず、産業構造の変化について。

 日本の現在の繁栄と平和を支えた高度経済成長期には、自動車や家電を中心とした製造業が経済を回す中心となり、その産業の生産ペースに合う雇用形態が重視されてきました。

 世界に勝つために、工場はフル稼働で生産し、日夜を問わず仕事に励む。長時間労働、単身赴任、そして副業禁止という従業員の献身によって、企業は事業を成り立たせてきました。

 個人はその要請に応えるべく、家事や育児は家庭で女性が引き受ける〝家庭内役割分担〟により、「24時間働けるスーパー労働者」を仕立てて送り出しました。

 この個人の貢献に対し、企業は「終身雇用」「年功賃金」「解雇規制」というご褒美で報うことを約束し、両者は固い絆で結ばれてきたのです。

 いわば、20世紀型の〝御恩と奉公〟。

 この構造に支えられ、日本は世界が驚く急成長を遂げ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるほどまでになったのです(実際、このタイトルの本がアメリカで出版され、ベストセラーになりました)。

 個人は、「一生あなたを守ります」という企業の御恩を信じられたからこそ、「あなたのために尽くします」と忠誠を誓い、「副業禁止」や長時間労働は自然に受け入れられるものでした。

 この企業・個人間の〝御恩と奉公〟をベースにした働き方は、当時としては、世界的に見てもイノベーティブで先進的な働き方モデルだったと思います。

バブル崩壊により、奉公から搾取の時代に

 しかし、時代は変わりました。バブル崩壊以降の長引く不況により、日本企業は体力を失い、「終身雇用」や「年功賃金」はすでに幻想に変わったといっていいでしょう。

 かつては世界に名を馳せた大企業が、続々と早期退職を募り、中国企業に買収されるという現実。

 成果主義や役職定年制度の導入で、賃金は実質的に横ばいになっています。
 〝御恩と奉公〟の関係のうち、〝御恩〟のほうが取り下げられてしまったというのに、個人は変わらず〝奉公〟し続ける。

 これでは不公平であり、単なる搾取です。

 この構造の異変に早くに気づいた人たちは、よりフェアな労働環境を求めて職場を変えたり、自ら経営をする生き方を選んだりしています。
 技術革新のスピードが速くなり、企業にとっては「10年後も存続しているかさえ保証できない」時代です。
 従業員の生活を守り切ることが約束できない時代だからこそ、副業を容認せざるを得ないというのが本音ではないでしょうか。

これからは「会社」と「個人」が対等の関係になる

「雇用における企業・個人間の不均衡を早く是正しなければ、日本の社会そのものが崩壊する」

 そんな危機感を持って行動した人の中に、僕の師匠の一人でもある小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)がいます。

 小室さんは、「人口オーナス期における働き方の変革」を政府や経済界に訴え続け、働き方改革実現推進室の立ち上げ、さらには働き方改革関連法案成立まで大きな貢献を果たした立役者です。ちなみに人口オーナス期とは、少子高齢化が進み、働く人の数より支えられる人(高齢者と子ども)の数が多くなっている時期をいいます。

 期をほぼ同じくして、とある大手企業に勤めていた20代女性社員の過労死自殺が社会問題化したことで、一気に世論は熱を帯びました。

「日本から過労死をなくそう」
「長時間労働を是正すべきだ」
 という声だけではなく、
「企業が過剰に個人を縛るのはおかしい」
「個人に対する制約を解放して、人材を〝管理〟するのではなく〝活用〟していくべきだ」

 そんな声がどんどん大きくなり、こだまのように反響し、波及していった。そんな変化を僕も肌で感じてきました。

 LinkedInの創業者、リード・ホフマンが書いた『ALLIANCE』(ダイヤモンド社)によると、個人と企業の関係は、上意下達のヒエラルキー関係から、対等にリソースを提供し合うアライアンス関係へと変化しているとのこと。

 個人と企業は、お互いに持てるものを交換し合う自立的な関係へとシフトしようとしています。

 つまり、「会社に頼りきり」ではリスク大であるという、意識転換が迫られています。

フリーランスとして活躍できる力がなければ生き残れない

 個人にとっても、「一生一社」を全うしづらい時代になりました。企業の寿命サイクルが短くなっている半面、個人の寿命は延びているからです。

 定年は70歳まで延長されたとしても、定年後の生活も長く続きます。90歳まで生きたとしたら20年。

 昔のように潤沢な退職金ももらえませんし、年金もどうなるか分かりません。老後の生活は自分で守らないといけない。

 定年と同時に、「新たなキャリアのスタート」を切ることになり、今後は多くのケースがフリーランスの道を選ぶことになるのではと思います。

 そのときに効いてくるのが、現役時代の複業経験です。社外にネットワークを張り、いろんな組織で通用するポータブルスキルを備えた人材として自分を磨いておけば、定年後も〝一生食っていける〟という安心が得られます。

 何より、複業を通じて鍛えられる「好きなことにチャレンジする」「失敗しても、何度でも工夫して楽しむ」といったマインド面のタフさが、大きな財産になるはずです。

 個人が自分の人生を守るために、複業は有効である。

 このことに、政府も企業も気づいて推進しようとしている変化をつかみ、波に乗った人が勝ちです。

 乗り遅れる人を、一人でも減らしたい。

 切に願いながら、僕は叫び続けます。

「2020年までに、上場企業の副業解禁100%へ!」

 次の章では、本書で提唱する「複業」についてくわしく説明していきます

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第4回はコチラ。

▼第4回:「副業」と「複業」は何が違うのか?


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