見出し画像

【日経COMEMOテーマ企画】世の中を変える「お金の使わせ方」(2020年予測編)

日経COMEMOテーマ企画「#世の中を変えるお金の使い方」に関連して、前編では「日本人がお金を使うのではなく、外国人に使ってもらおう」「大企業ではなく、個人レベルでも十分にできることがある」という2点について語った。

それでは、「外国人にお金を使ってもらう」ために、2020年、どのようなことが起こり得るのか、3つの予測を立ててみたい。


予測① オープンイノベーションを志向した複業解禁が増える

海外での事業経験を持つビジネスパーソンが、その知見を活かし、複数の企業や組織で活躍するという2020年の新しい働き方が予測できる。駐在員研究で有名なINSEADのスチュワード・ブラック教授が指摘するように、海外で事業経験を積んだ従業員は帰国時に海外経験を活かすことができる職務に就くことができない場合、退職するリスクが飛躍的に高まる。このような従業員を社内に留め、能力を活かすためにも複業は効果的だ。

2019年は、複業解禁に大きく踏み出した企業や自治体が数多くあった。民間企業では、アサヒビールやみずほファイナンシャルグループが代表的な例として挙げられる。

また、自治体だと福井県が「未来戦略アドバイザー」の募集を開始した。同様の取り組みは、広島県福山市に次いで実施され、そのパートナーとしてビズリーチが大きな貢献を果たしている。

複業に対する企業や自治体の狙いはイノベーションだ。異なる組織や業界の職務経験を活かし、イノベーションを起こすことが期待される。しかし、多様な職務経験や異なる価値観と触れるだけでイノベーションを起こすことができるのであれば、苦労はいらない。イノベーションを起こすためには、複業を上手く活かすことのできるストーリーを構築する必要がある。

例えば、経営学では「複業とイノベーション」に応用可能な理論や研究成果がいくつか存在する。その代表例が、ダイバーシティ・マネジメントだろう。ダイバーシティを「職場内の構成員が持つ、異なる知と価値観」という認知的多様性として捉え、ポジティブな成果を生み出すためのマネジャーの行動様式や同僚との関係性、職場環境の作り方について、多くの研究成果が示されている。Googleで取り入れられ、今流行りの心理的安全性はその1つの手段だ。

複業を活かすためには、マスコミでよく議論されている総労働時間管理よりも、マネジメント手法や職場環境作りについて、仮説検証を繰り返し、有効なストーリーを見つけ出すことが肝要だ。


予測② 学生の海外インターンシップ経験をどう活かすか(大企業ver.)

学生の海外インターンシップも、一昔前に比べると随分と浸透してきた。弊ゼミでも、今年の3回生ゼミナールの9名中2名が海外インターンシップ中だ。フィリピンとケニアで自己研鑽に励んでいる。

このような学生に対して、従来の大企業は「頑張れば、将来的に海外事業で活躍できるから、まずは仕事を覚えよう」と数年の下積みを課してきた。学生も、若いうちから海外で活躍できる企業がほとんどないために仕方のないこととして受け入れてきた。そして、数年が経つと、大多数が現状に満足してしまい、海外への情熱を失ってしまうというサイクルを繰り返してきた。

しかし、グローバル採用が本格化していく中で、従来の新入社員の育成や活用方法だと外国人人材を惹きつけ、リテンションすることが難しくなっている。私の母校は、世界80カ国余から留学生が集まる多国籍な大学だったが、留学生で日本企業に就職を希望するのは3割程度しかいない。彼ら彼女らの多くが、日本企業の人材育成のスピードが遅すぎ、自分のキャリアにとってデメリットが大きいと判断していた。

海外経験を積んだ学生を採用するのであれば、キャリアの早い段階からグローバルビジネスで経験を積むことができる機会を整備する必要がある。大企業のグローバル採用も年々増してきている。2020年は、新入社員の育成や活用施策を見直し、育成スピードを早める企業が増えていくだろう。


予測③ 学生の海外インターンシップ経験をどう活かすか(ベンチャー企業ver.)

海外での事業展開を進めるベンチャー企業も増えている。ベトナムやフィリピン、ジャカルタに支社を持つベンチャー企業も珍しいものではなくなってきた。また、外国人起業家の数も増えている。スウェーデン出身のJohan Larsson氏がCEOを務めるフードデリバリーのクラウドサービスを手掛けるDYNAPTICOや、ブラジル出身のGustavo Dore氏の手がけるHR techのMotifyなど、急成長を遂げる注目株のベンチャー企業も数多い。

ベンチャー企業は大企業と比べて従業員数に余裕がないため、キャリアの早い段階から責任のある仕事を任されやすい。そのため、海外経験を持つ学生にとって、挑戦し、成長ができる場として選ばれるようになっている。

しかし、事業成長と共に企業規模が大きくなってくると人事制度や組織作りの必要性が出てくる。そこで大企業の人事経験者を雇い、伝統的な日本企業の仕組みを入れてしまい、ベンチャーとしての強みやスピード感を一気に失うケースも少なくない。せっかく新たに人事制度や組織作りをするのであれば、世界中の成功企業から学び、自社の強みを活かすことのできる独自の制度を作って欲しい。

ベンチャー企業が日本の伝統的な組織の在り方をアップデートしていった例は数多い。古くはリクルートがそうであり、サイバーエージェントやサイボウズが続いた。米国で注目を集めている目標管理制度OKR(Objectives and Key Results)導入の成功事例で有名なメルカリも、伝統的な日本企業の組織や働き方をアップデートしている企業の1つだ。

世界的な傾向で言えば、人事制度や組織作りはグローバルでの統合が進んでいる。人材の流動性が高まり、各国の個別性よりも、全世界共通で応用できる自社独自の人事制度や組織作りを行う機運が高まっている。

ベンチャー企業のグローバル化が進む中で、独自の人事制度や組織作りを行うことが、優秀な人材を惹きつけ、グローバル市場で成功を収める重要な要素となるだろう。


まとめ

グローバル市場で収益を得るためには、海外経験やグローバル志向を持った人材を活用するための人事制度や組織作りが不可欠だ。それは、大企業もベンチャー企業も変わらない。そのためのストーリーは、複業で個人が自身の能力を十二分に活用することや大企業の伝統的な人材育成・活用のスピードを早めること、ベンチャー企業がグローバルでの統合を視野に入れた独自の組織作りを行うことなどが考えられる。

2020年は、大企業やベンチャー企業を問わず、組織の制約から個人の能力と可能性が解き放たれる変革の一年となることが期待される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?