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「死なない」ことは幸福なのかという問い

「老いない」「死なない」ことは幸福なのか

こういう問いは多分人類が生まれて以降ずっと繰り返しいわれてきたことなのだろう。その救いの手法として「神話や宗教という虚構」が生まれたわけである。

絶対的な独裁権力者が不老不死を願うのも歴史上何度も繰り返されたことだが、不老不死を希求したあげく、ヤブ医者に水銀を飲まされて早死にしてしまった秦の始皇帝の例もある。

結論からいえば、不老不死など不可能。

むしろ 万が一「老いない」「死なない」ということが可能になったとしたら、そっちの方が地獄だろう。もし本当に地獄なる世界があるのだとしら、「人が永遠に死ねない世界」なのだと思う。

人の死の重みは、時代によっても地域によっても違う。今もアフリカ諸国ではそうだが、売れてくる子どもの半分以上が10歳にも満たない前に死んでいく。日本もかつてそうだった。老人の死者数より子どもの死者数の方が多かった時代は大正時代まで続いていた。

だから「7つ(7歳)までは神のうち」といわれた。7歳までに子どもが死んでもそれは仕方のないことなのた、と。だからこそ「七五三」を言祝いだわけである。「ああ、もうこの子は死ななくていいのかもしれない」と。

戦争の時代、災害や疫病が多発した時代も人の死は軽かった。軽いというより、毎日どこかで誰かが死んでいくからだ。

ところが、現代の先進国では人の命は重いものとなった。人権とかを言い出したフランス革命が、次々と反対派を処刑しまくって「人権とは?」と皮肉りたくなる事実もあるが、それでも現代は人の命は大切にされる。

それ自体を否定しないが、さて、これから訪れる全世界的な超高齢社会においてどう対応していくべきなのか?が今問われ始めている。

以前にも書いたが、間違いなく介護は崩壊する。

当然、家族だからといって、親の面倒を子がみるということも無理になってくる。行政が対応すべきだといったところで物理的にも人的にも無理になる。金持ちだけは金を払って誰かに代行させることが可能かもしれないが、今やられているような丁寧な介護はとても未来にまで継続できないだろう。

映画「ロストケア」でも描かれていたように、「親が死んでしまったことは悲しいというよりほっとした」という感情を多くの人が持つようになる。残念ながらそうなってしまう。

いつまでも「死なない」というのがいつまでも健常でも自立した生活ができる状態であれば何の問題もないが、そうではない。「死なない」ために誰かが「生かし続ける」努力を強要されるものなのである。

2015年にNHKで放送された土曜ドラマ「破裂」というものが、より現実的なものとして迫ってきている。

ご存じない方はぜひご覧になっていただきたい。

厚労省をもじった国民健康省の野心的な官僚役を滝藤賢一が演じているが、彼の企図することは「高齢者の死亡促進」である。主人公である椎名桔平演じる医師が作った健康薬(年老いた心臓が若返って長生きできる)の副作用を利用して、合法的?に高齢者人口を減らすという計画を政治家を巻き込んで実現させようとする。
主人公の医師はそれを悪魔の所業となじり、自分の失敗を認め、薬の改良をすることで立ち向かうのだが、どちらが悪魔でどちらが天使だったりかというのがこの物語のテーマでもある。
そのひとつの答えが、最終回の最後の最後のシーンで提示される。ある老婆による医師への言葉だ。これはぜひご覧になってその衝撃を味わってもらいたい。

是非を超越して、突きつけられる問題がある。

U-NEXTを契約されている方はそちらでも全編ご覧になれます。

こちらの記事も考えされられる。

死の強要は犯罪だが、生の強要はどうなのだろうかと問うている。やがて死んでいく要介護の親のために、まだ生きていかなければならない子の人生が台無しになることもある。すでに多くの介護殺人や介護心中が起きている。決して他人事ではない。誰にでも降りかかってくる可能性がある。

人間である以上、遅かれ早かれ必ず死ぬ。
無宗教の私は死後の世界なども全く信じていない。死後は無である。極楽浄土なんてないし、天国も地獄もない。

テクノロジーによって、脳のデータを移植して、本人が生きているかのように仮想世界に存在し、リモートで会話ができるということは実現可能かもしれないが、それは残された者にとって「なんちゃって生きている」だけのことであり、本人はもう死んでいる。何の意識もない。

いずれにせよ死という問題はデリケートなテーマであるがゆえにタブー視される傾向がある。全員に必ず訪れるものであるにもかかわらず。

日本に限らず全世界的に直面する超高齢国家の問題とは「死をどう考えるか」という問題でもある。

長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。