有価証券報告書の「言葉」から、株価予測は可能なのか?〜未来形の文言に注目すべし〜
2021年もコロナに翻弄された金融マーケットでした。こうした環境になると、将来性が有望なだけでなく不確実性に強い企業への投資が盛んになります。不確実性への耐性が強い企業を選択するために、ESG経営企業への注目度が更に高まった1年のようです。下記の記事にあるように、将来のための人材育成、将来の気候変動リスクへの対応、将来のための設備投資など、投資家によるESG項目への重視姿勢が更に強まったようです。ここに共通しているキーワードは、「将来」です。これは、企業が将来のことをどう説明するかが、投資家の株への買い意欲につながり、株価形成に影響することを意味しています。こうした、企業の将来に関する取り組みは、有価証券報告書、決算説明資料など、無料で閲覧できる企業資料から読み解くことができます。今回は、企業が「将来」について、どのように情報開示することが、株価リターンに繋がるかを考察します。
有価証券報告書と株価の関係
有価証券証券報告書には、決算情報だけでなく、従業員数の推移、設備投資の現状、発行株式の現状、主要株主、コーポレート・ガバナンスの現状など、株式投資のための重要なデータが盛り沢山に開示されています。しかし、これらは公開情報なだけに、ただ読むだけでなく、自分なりに分析をすることで、将来性のある企業を見つけることができます。こちらのブログでも記載しましたが、決算などの会計上だけでなく、非財務項目による株価の説明力が増していることを考えても、有価証券報告書の文言から企業の将来を推測する力が重要になっています。しかし、文言をどのように読み解けば良いかは、投資家の分析力やセンスにも依存するところです。そこで、今回紹介したいのは、そうした文言を読み解くためのヒントになる実証論文です。
企業の言葉使いは、未来形に注目せよ
その論文が下記になります。これまでのファイナンス研究では、有価証券報告書の開示情報と株価との関係を検証した論文は、多数存在します。しかし、企業の「言葉使い」に注目したのは、ほとんどありませんでした。最近では、機械学習のように、テキストマイニングなど、「言葉使い」から何かしらの傾向を読み解こうとする研究が、様々な学術分野で発展しています。そした流れの中で誕生した研究なのだと思います。
Rasa Karapandza, 2016, "Stock returns and future tense language in 10-K reports", Journal of Banking & Finance, Volume 71, Pages 50-61
この論文では、アメリカの有価証券報告書にあたる10-Kレポートを用いて、1993年から2014年までのデータを対象に分析しています。ここでは、企業が「will」「shall」「going to」という未来形の使用頻度を分析して、「将来」に対する企業の情報開示姿勢と、株価変動との関係を検証しています。結果は、未来形の文言を使わない企業は、平均的に毎年約5%の正のアブノーマルリターンを生み出していることを示しています。一方で、これだけのリターンが出る傾向にあるのは、将来に関する情報を開示しないので、リスクが高いことを示していました(株価変動が非常に高く、上下に動く)。つまり、将来に関する開示をしない企業ほど、情報が少ない分、収益への期待もできるものの、株価変動も大きいかったということです。リスクを背負って、将来情報が少ない企業に投資をするかどうかは、各人次第ではありますが…
国内市場への示唆
この研究からの示唆は、将来情報を積極的に開示する企業への投資は、株価変動リスクを抑えることには有効である可能性が高いということです。日本語の未来自制は、英語のように明確ではないことも注意が必要ですが、この研究をヒントにするならば、「だろう」のような推量用法を有価証券報告書から抽出して、業種平均をとるなどが考えられます。そして、英語圏の企業に投資をするならば、「will」「shall」「going to」の使用頻度には注意すべきでしょう。
来年も学術研究を活かしながら、現実社会への応用、論文作成へと精進したいと思います!
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崔真淑(さいますみ)
*冒頭の画像は、こちらの記事より。無断転載はお控えください。
*コラム中の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より抜粋。無断転載はお控えください。
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