「何が旅行で、何が居住で、何が所属か?」境界線が曖昧になり人は流動的になるー変わる東京 変わる消費~5年後の都市と顧客を考える
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「何が旅行で、何が居住で、何が所属か?」境界線が曖昧になり人は流動的になるー変わる東京 変わる消費~5年後の都市と顧客を考える

2021年9月7日(火)に開催したNIKKEI LIVE「変わる東京 変わる消費~5年後の都市と顧客を考える」では、コロナの影響で東京から地方への動きが広がり、価値観・生活空間・行動に多様なシナリオが生まれてくる中で、新しい人の流れによる消費の変化をどう捉えればいいかについて議論しました。

日本を代表するグラフィックデザイナーの原研哉さん、新進気鋭の建築家である豊田啓介さんをゲストにお招きしてお話を伺いました。聞き手は、大岩佐和子編集委員が務めました。

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ー大岩編集委員
今起きている「都市から地方への流れ」は今後も続いていくと思いますか。

ー原さん
コロナ以前からの大きな流れとして、地方の可能性の高まりは世界的にあったと思います。この流動は今に始まったことではなく、ずっとそのような傾向が続いていて、コロナがその状況を止めるのか、つまり「人の移動を妨げる要因になるのかどうか」ということを考えたほうがいいと思います。

それは単に人が都市から地方へ動くということだけではなく、日本列島全体に人の動きが活発になっていくということで、東京一極集中がなくなるというよりも、東京を中心としながら人が動く流動性が高まっていくということです。

ー豊田さん
僕の周りでも、コロナになる前から葉山や軽井沢に拠点をずらしたり、分散的に週末だけ地方で過ごしたり、パターンはいろいろありますが、生活のすべてを「都市にする/郊外にする」という二択ではない生き方を選ぶ人は増えていました。

これまでの、都市か郊外か二択の生活しかあり得ない、という状況のほうが不自然だったわけで、いろいろな選択肢を離散的に同時多発的にもてることのほうが自然だろうと思います。それを、社会環境や技術環境が少しずつ可能にし始めているのであれば、社会としてこの流れは戻りようがないのではないでしょうか。

ー大岩編集委員
では、東京一極集中は終わるのでしょうか? 東京で小売業やサービス業を営んでいるプレイヤーからは、「ただ待っているだけではお客さんが来なくなるのでは?」「東京の価値が落ちてしまうのでは?」という不安の声も聞かれます。

ー原さん
東京から急に人が地方に移動するわけではないと思います。居住者がいなくなるということではなく、あくまでも「流動性が高まる」ということです。東京の中でも人が移動し、地方にも人が流動して栄えることで、日本全体が活性化するということです。その中枢である東京は決して衰えることはないと思います。

ー豊田さん
東京の価値が落ちるというよりも「住み分け」が進む、つまり選択肢が広がるということです。例えば、場所を超えて移動時間などを考えずに集まることができるzoom会議は便利ですよね。でも、それではコミュニケーションが薄くなるので、リアルでの打合せの良さも私たちは同時に痛感するわけです。その「使い分け」がされるようになる、ということだと思います。

「住み分け」「使い分け」の中で、それぞれの価値は間違いなく出てくるはずです。その中で、都市や地方の価値のあり方も、これから変わっていくと思います。

ー大岩編集委員
ここで参加者の皆さんに投票を募りたいと思います。「デジタル技術の進化によって起きうることとは?」この結果についていかがでしょうか。

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ー原さん
「バーチャル観光」というのは、僕はあまりピンとこないですね。生身の身体をその場所に運んで、自然のすばらしさを味わう時間や未知なる体験を味わうことが観光だと思っています。実は「観光」という言葉もあまり好きではなくて……、バーチャルではなく「新次元の観光」が始まると思っています。

それから「地方に本社を置く企業が増える」というのも、「本社」という発想がなくなっていくのではないかと思います。いろいろなところにある人間関係が編集されている状態が「会社」であったり、組織も流動的になったりすると思うので、そういうものが少しずつ解体していくのだろうと思います。

ー豊田さん
これまでは人が動くことが旅行の大前提でしたが、例えば、テレビというのはギリシャの海の映像のように「ほんの一部の情報だけ」がこちらにくるわけです。バスクリンは「温泉の匂いだけ」がこちらにくるということです。つまり、旅行のうちの3%だけがこちらにやってくる、という考え方もできますよね。

人が移動して数日を使わなければならない旅行は、時間や物に縛られるという制限がありますが、「映像だけ・音声だけ・匂いだけ旅行する」ということが、これからの時代では旅行の選択肢として十分な価値をもつかもしれません。

旅行だけではなく、例えば「自分の家がこの1ヶ月間だけ軽井沢に行く」という考え方をすれば、それは旅行ではなくなるわけで「何が旅行で、何が居住で、何が所属か」という境界がどんどん曖昧になってくると思います。

そのようにして、選択肢はもっといろいろあってもいいのではないかと思っています。

ー大岩編集委員
参加者の方から「バーチャルを使ってリアルと同じものを感じられるようになるのはいつ頃でしょうか?」という質問が届いています。

ー豊田さん
結論から言うと、それは未来永劫できないと思います。どんな技術を使っても、体の移動や運動感覚や内臓感覚や無意識の世界を電子的に代替することは原理的にできません。それを全部やろうとすれば膨大なコストがかかり、一番安いのは「人間をつまんでヘリコプターでその場所に連れていくことだ」となってしまいます。

ですから、ポイントは「薄いものを一部もってくること」なんです。それには価値があるかもしれませんが、「全部盛り」がほしいのであれば、やはり「現地に行きなさい」になってしまいます。

ー原さん
日本列島津々浦々、1つとして同じ湾はなく、同じ入江はなく、ほんとに千差万別ですよね。そのような場所に佇むすばらしさは、変え難いものがあります。これは、世界がグローバルになればなるほどローカルの価値が高まることと同じように、バーチャルな世界が広がれば広がるほど、そういうものに対する相対的な価値は上がっていく気がしています。

だから僕は、従来の観光とは違う次元の観光、もう少し解像度の高いその土地やバリューを最大化していくようなサービスが、これからは増えていくと思っています。

ー大岩編集委員
中国などで「スマートシティ」が急速に進んでいますが、これからの日本の都市の強みは何になると思いますか。

ー原さん
日本の都市は「緻密・丁寧・繊細・簡潔」です。

例えば、国際空港に降りてトイレに入ると、圧倒的にきれいです。これは、法律で罰せられるからきれいなわけではなく、サービスを提供する人も共有する人もある種の共通意識をもっているからです。こういう国は他にはありません。サービスをする側も受ける側も「緻密・丁寧・繊細・簡潔」を無意識に実行し、これによって独特の清潔感が醸し出されていると思います。

それから、日本の東京・横浜圏の夜景は世界で一番きれいだと、パイロットは言っています。空気が澄んでいて、電球が切れて明滅したりしていないからです。非常によく管理された電気の灯りが、世界最大の都市圏の連続性の中でずっと続いているという夜景なんです。

このようなことを考えてみると、どういうところが有利なのかは、なんとなくわかってくる気がします。

ー豊田さん
アメリカや中国のようにITジャイアントがいて何兆円もスマートシティに資金を注ぎ込める国には、今の日本の座組みでは勝ちようがありません。でも、僕はむしろITジャイアントがいないところが日本の優位性だと思っています。企業が連合しなければできないことが多いことで、オープン化のベースを作れます。

スマートシティの話では「情報」の事ばかり言われますが、実は情報ネットワークが「モノ」と双方向につながることが重要なポイントになっています。

アメリカや中国のITジャイアントは情報側のノウハウは知っていますが、モノ側の解像度を高めて情報に繋げるノウハウをもっていません。逆に日本企業は、情報側は足りていませんが、モノ側の解像度の作り方や扱い方がわかっているので、それを情報側に接続できればまだまだ圧倒的に強いと思います。

それは、都市も地方も関係なく、オープンなネットワークを作っていくグラウンドデザインができれば、まだまだ優位性は十分あると思います。

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原研哉さん
グラフィックデザイナー
日本デザインセンター社長
武蔵野美術大学教授

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世界各地を巡回し、広く影響を与えた「RE-DESIGN:日常の21世紀」展をはじめ、既存の価値観を更新するキーワードを擁する展覧会や教育活動を展開。長野五輪や愛知万博では、深く日本文化に根ざしたデザインを実践。2002年より無印良品のアートディレクター。松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、MIKIMOTO、ヤマト運輸のブランド視覚化デザインなど、活動領域は極めて広い。


豊田啓介さん
建築家
noizパートナー / gluonパートナー
東京大学生産技術研究所客員教授

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1996-2000年安藤忠雄建築研究所。2002-2006年SHoP Architects (New York)。2007年より東京と台北をベースに、蔡佳萱・酒井康介と共同でnoizを主宰。建築や都市領域へのデジタル技術の導入と、新しい価値体系の創出に積極的にかかわる。建築情報学会副会長(2020年~)。大阪コモングラウンド・リビングラボ ディレクター(2020年)。


大岩佐和子
日本経済新聞編集委員

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1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。日経MJデスクを経て、2018年4月より現職。


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