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米ビジネス誌『FastCompany』が選ぶ「最も革新的な企業」の上位7位全てが気候テックスタートアップであることの意味

米ビジネス誌『FastCompany』が2008年から毎年選出している「Most Innovative Companies 2022」の選出企業が3月上旬に発表されました。驚いたことは上位7位の全ての企業が気候テックスタートアップ、クライメートテックとも呼ばれる気候変動問題に取り組む企業であることです。以下は選出された上位企業の一覧です。


  1. Stripe〜大気中の二酸化炭素除去市場の創出

  2. Solugen遺伝子組み換え生物を使ったカーボンニュートラルな化学物質の製造

  3. Twelve〜化石燃料に依存しない化学物質の開発 

  4. BlocPower〜全家庭に電化の機会を提供

  5. Climate Trace〜国別排出量データの把握

  6. Watershed〜企業の二酸化炭素削減支援

  7. Doconomy〜ライフスタイルコスト算出
    *8位はマイクロソフト、9位はオンラインホワイトボードツールのMiro、10位はデザインツールのCanva(キャンバ)。


上位7社のうちどれだけの企業名をご存知でしょうか?Stripeは国内でも認知度はありますが、気候変動分野での取り組みはまだ馴染みがない方も多いのではないでしょうか。それ以外の企業は私もほとんど聞いたことがありませんでしたが、国内でもまだ認知は高くないと思われます。ちなみにファスト・カンパニー誌が2008年に始めた「最も革新的な企業」のリストで過去に首位に選ばれた企業は以下のような会社です。

Moderna(2021年)、SNAP(2020年)、美団点評 / Meituan Dianping(2019年)、Apple(2018年)、Amazon(2017年)、 BuzzFeed(2016年)、Warby Parker(2015年)、Google(2014年)、Nike(2013年)、Apple(2012年2011年)、Facebook(2010年)、Team Obama(2009年)、Google(2008年

出典:FastCompany

当初からGAFA企業が数多くランクインしている他、SNSによるシェアされる新しいデジタルメディアとして躍進したBuzzFeed、中国の台頭を象徴するフードデリバリー大手の美団点評、そしてコロナワクチン開発のモデルナ等、振り返ると時代の大きな変化を反映している企業が選出されていることが伺えます。

そうして考えると、今回7社ものクライメートテックの企業が上位に選出されたことの意味があるのではないか、と強く感じさせられます。気候変動の影響で頻発している山火事、洪水、干ばつ、海面上昇等の異常気象現象、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに注目を集めているエネルギー安全保障、化石燃料に依存することのリスク等、明らかに再生可能エネルギーや脱炭素化への取り組みの必要性、期待が感じられます。

今回受賞した7社のホームページ、紹介記事、動画を見ても、かつてのGAFAやNike、モデルナのような分かりやすいサービスとは異なり、気候科学、化学等の専門的な技術が使われているプロダクトやサービスも多く、すぐに腹落ちして理解できるとは言い難いのが正直なところです。

とはいえ、昨年夏頃に既に莫大な投資額を集め『気候テック(Climate Tech)の"ネットスケープ・モーメント"』として話題になっていたことがいよいよ現実味を帯びてきた機会として、今回はどうしても書き記しておきたいと思ったのが今回の記事の狙いです。

今回のファストカンパニーの選出結果はそんな意味で潮目の変化を裏付けるひとつの「シグナル」になると感じます。

以下に簡単に上位選出7社の事業、概要についてご紹介したいと思います。


【1】Stripe〜大気中の二酸化炭素除去市場の創出

Stripe Climate https://stripe.com/jp/climate

Stripe Climateは2020年10月にスタートしたサービスで、オンライン決済会社のStripeのソフトウェアを経由したデジタル売上の一定割合を寄付することで、顧客が二酸化炭素排出量削減に参加できるようにするものです。
2021年春にはストライプのオンボーディングプロセスを調整し、新規顧客がこのプログラムに参加できるようにしたことで、10件のうち1件がオプトインし、現在、何万もの企業がStripe Climateに参加しているそうです。企業にとっては「以前から気候変動に対して何かしたいと思っていたが、何をしたらいいのかわかりにくいのでやっていない」という課題があり、そうしたニーズをいち早くサービスに取り入れた点が秀逸と思われます。


【2】Solugen〜遺伝子組み換え生物を使ったカーボンニュートラルな化学物質の製造

Solugen https://solugen.com/

化学産業の脱炭素化を目指し2016年に創業したSolugenは、「環境に害を与えない」というポリシーのもと、クリーンで持続可能な化学を社会にもたらすことが信条。化石燃料を原料としないバイオベース製品を作るために、原料にトウモロコシのコーンシロップを採用、生物学とテクノロジーを融合させ、毒素や排出物を出すことなく、洗剤やプラスチックなどの原料となる化学物質を生み出すことに成功した企業。ソルジェン社の生産工程では、石油化学工程で発生するような排出物は一切なく、石油化学や発酵では副産物のために最終製品の収率が犠牲になるが、ソルジェン社のプロセスでは90%もの収率を誇っているそうです。このプロセスの有効性が、昨年秋に3億5千万ドル以上の資金を調達し、18億ドルの評価額となってます。


【3】Twelve〜化石燃料に依存しない化学物質の開発 

Twelveは米国のサンフランシスコに拠点を置き、自らを炭素変換会社(Carbon Transformation company)と称する、 CO2由来のさまざまなプロダクトを製造する技術を有する企業。社名の由来は炭素(C)の原子量である12に由来するそうです。共同設立者である2人のスタンフォード大学の研究者が開発した技術を商品化するために生まれた企業で、二酸化炭素と水の分子をより小さな原子単位に分解し、製造に使用できる新しい化学物質に再形成することを可能にしています。既に米空軍と提携してCO2からジェット燃料を製造したり、ダイムラー社やプロクター・アンド・ギャンブル社と提携し、それぞれ自動車部品や洗剤の製造に必要な成分を再生できることを実証してます。


【4】BlocPower〜全家庭に電化の機会を提供

BlocPowerは2012年にニューヨークで生まれたスタートアップ。ゴールドマン・サックスや地方自治体などと連携し、低・中所得者層を中心に、すべての家庭の所有者に電化の機会を提供することでビルのエネルギー性能を分析して省エネ化を図るプロジェクトを推進しています。オバマキャンペーンでコミュニティオーガナイザーの経験を持つ創業者による地域に根付いた取り組みで、全ての住宅、建物をテスラのように電化することを目指しているそうです。


【5】Climate Trace〜国別排出量データの把握

CLIMATE TRACE(Tracking Real-time Atmospheric Carbon Emissionsの略)は、リモートセンシングと人工知能を使って、ほぼリアルタイムで排出量を独自に追跡することを可能にしている、アル・ゴア元副大統領と提携して数十の団体からなる連合体です。それは今まで各国が温室効果ガスの排出量を自己申告する場合、そのデータは何年も前のものであったり、不完全なものであったりすることがよくあるという課題の解決に対する取り組みです。2021年11月の世界気候会議(COP26)に先立ち、同団体は初の世界排出量インベントリーを発表し、石油・ガス産業における数十億トンの排出量が過小評価されていることを突き止めるなど、二酸化炭素排出状況の可視化の取り組んでいます。


【6】Watershed〜企業の二酸化炭素削減支援

Watershed 

2019年に設立されたWatershedのソフトウェア・プラットフォームは企業の気候変動対策プログラムの計画、実施、運営を支援し、スコープ1、2、3の排出量を分析・測定し、ダッシュボードで業界の同業他社とのベンチマークを可能にするサービスを提供しています。企業はクリーン電力プロジェクトなどのソリューションの影響を評価し、炭素除去や高品質のカーボンオフセットにアクセスして投資することも可能で、TCFD、CDP、SASB、GRI等の基準に準拠した炭素会計報告書を作成することができます。正式にローンチは2021年2月にも関わらず、Airbnb、Vimeoといった著名な顧客も追加で獲得し、2022年2月の最新の資金調達で評価額10億ドル(1,100億円)を達成し、ユニコーンの地位も獲得している。


【7】Doconomy〜ライフスタイルコスト算出

2018年に設立されたスウェーデン発のDoconomyは、「人々が気候変動に対する影響を理解し、行動変容を加速するためのツール・エコシステム」をテーマに様々なサービスを提供しています。2021年時点で11の製品カテゴリーにおいて製造された製品のカーボンフットプリントを高い精度で計算するプロセスを簡素化するツール「2030 Calculator」を発表。これにより、ブランドは、製品の販売時点までのバリューチェーンのすべての段階(材料、プロセス、エネルギー、輸送などの要素に基づく)の影響を定量化すると同時に、プレスリリースや環境影響ラベルでも、製品やサービスの環境影響を透明性を持って顧客に提供することが可能にしています。

2019年には日々の消費活動におけるCO2排出量を測定・管理できるクレジットカード「DO」をリリース、プレミアムカード「DO Black」には、CO2排出量に応じて利用が制限されるという機能がプラスされています。

以上、自分で読んでまとめながらも十分に理解できていない箇所も正直あるのですが、今後半年、1年でこれらの企業についての報道で目にする機会が増え、業界が盛り上がっていくことで解像度もきっとあがっていくのでは、と期待しています。

国内でも国、経済界を挙げてスタートアップの育成に取り組んでいる状況にあって、日本発クライメートテックのユニコーン企業の出現にもぜひ期待したいと思います。

経団連が11日、スタートアップ企業の育成策を提言した。2027年までにユニコーン(価値10億ドル=約1190億円=以上の未上場企業)を100社に増やす目標を掲げ、法人設立手続きの簡素化や大企業によるM&A(合併・買収)の推進、海外人材の誘致などを幅広く盛り込んだ。

日本経済新聞3月21日


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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