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ウクライナ侵攻により影を潜めた新型コロナ関連報道 ーそもそも連日の報道は意義あるものだったのか?

 ロシアがウクライナに侵攻してほぼ1か月が経過しました。2月までは必ずと言って良いほどメディアは新型コロナの話題を取り上げ、特に夕方のニュース番組では東京都の新規感染者数の発表と同時に識者を招き「受け止めをお願いします」といったやり取りを続けていました。日経新聞でも毎日記事が掲載されています。

 私も最近まで週に1回は某局でこの「受け止め」を求められていましたが、「今後どうなる」などわからないことは言わないように心掛けて自院の外来診療における前週との変化のみをありのままにお伝えしてきました。しかしその背景では「いつまでやり続けるのか」という提言をし続けていました。ご参考までに、第5波が一段落しても連日感染者数を取り挙げていた報道ディレクターへのメールでの「苦言」です。

 ご依頼を受けている立場ですので、ご要望があればお応えするのが必要であるとの認識の上ですが「同じような内容に対して専門家がコメントをする必要性がいつまであるのか」という疑問です。最近の世論の多くは専門家と称する人間に対して冷ややかです。これまで長期間にわたり同様のことを言い続けていたこともあり公衆衛生の知識はかなり向上しています。しかしさすがに同じようなことばかり言われると正直嫌気が出るのは理解できます。特に最近では流行状況が改善したことに対して良しとするコメントではなく、過剰な煽りともとられるようなコメントをしている某教授陣には私自身大変遺憾に思います。流行状況、アドバイザリーボードの見解、これまでと同じような事例に関するコメントは事実のみを伝えれば国民は納得するでしょうし、非常に反感を買いやすいワクチン副反応等に関するコメントはその反響が直接現場に降りかかってきます。最近ではワクチン副反応、抗体検査、追加接種等に関するあまり正しくない情報をもとに相談してくる受診者が若干目立つようになっています。現場で診療をしていない、あるいはコロナ患者を診ていない方々の根拠のない持論が発熱患者さん以上に国民の不安を駆り立てているように感じる最近の状況です。報道と畑違いの人間があれこれ言うのは失礼であることは十分承知の上なのですが「本当に必要な情報なのか」「他にも重要なことがあるのではないか」「専門家にコメントする必要性があるのか」を考える時期にきているのではないかと思います。専門家とは感染症全般ではなく、その分野に特に明るい知識を持った人間がその日のトピックについて語るのが適切であると考えます。例えば私は水際対策であれば経験がありますし、最近ではモルヌピラビルの治験や抗体検査の解析なども行っています。

2021年10月15日 個人メールより

 来週の状況などまだわからないのに「来週もお願いします」ということがルーティンになっており曜日によってコメントする識者が決まっているのです。したがって担当日に必ずしも自分が詳しいトピックがあるとは限りませんし、それがわかるのは当日の昼すぎです。私は答えられないものはきっぱりと断るようにしていますが、それでは識者としてはふさわしくないと思っていますが、気にしない方は気にしないのでしょうね。
 実際のところ、私の提言に理解を示していただき、これを機にこの番組では一旦は識者の出演がなくなりましたが、オミクロン発生後は以前と同様にこの「受け止め」が再開されました。現在では新規感染者数はもはや真の流行状況を反映し難いので、いちいちコメントするのも意義があるのかと考えていたところでウクライナ侵攻が始まり、その情勢が予想以上に長引いたことですっかりとそのウェイトが置き換わってしまいました。それでも懲りずにいまだに同じ識者が毎日受け止めをしている某局のニュース番組もありますが、「油断できない」「リバウンドがくる」などコメントも変わり映えしていません。
いつまで新型コロナを特別視するのか?|水野泰孝 Global Healthcare Clinic (nikkei.com)

 ところで最近の外来診療の状況ですが、地域差はあるものの以前に比べて発熱症状がなかったり、濃厚接触にはあたらなくてもとにかく「検査」ばかりを要求してくる方が少なくなりましたし、家庭内で陽性者が出てもあえて検査を希望せず経過観察をする方も増えてきました。決して流行がおさまっているわけではなく、実際に感染者数は第5波のピーク時よりも多いにもかかわらず、新型コロナ関連報道に煽られることなく多くの皆さんが個々で「ウィズコロナ」としての日常を送ることができるようになってきた印象です。その背景にはウクライナ情勢が、意義の低いと考えざるをえない最近のコロナ関連報道に歯止めをかけたことが功を奏しているのではないかと考える今日この頃です。

#日経COMEMO #NIKKEI


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