『女性だから登用する』から脱却できるのか。~本当の意味の「ジェンダー平等」を実現するために~
皆さん、こんにちは。
今回は「女性登用」について書かせていただきます。
ここまで問題が広がると即座に思った人がどれだけいただろう。後任が決まり、一応の収束をみた東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の女性を蔑視した発言からの騒動。会長個人のみならず日本社会が、多様性を重視するグローバルスタンダードと大きくかけ離れていることを世界につまびらかにしてしまった。
性別や国籍、人種、年齢、障害の有無など違いを問わず、多様な価値を認める。発見や活力、イノベーションにもつながるダイバーシティー(多様性)は社会やビジネスに欠かせない。先月始動した米バイデン政権は、顔ぶれの多彩さが注目を集めた。
翻って同質性の高い日本でも多様性は認識されつつあるものの、その第一歩ともいえるジェンダーでつまずいている。世界経済フォーラム(WEF)が発表する男女平等度合いは毎年下位で、最新では過去最低の153カ国中121位と「後進国」の位置づけだ。
その日本の現状をあまりに端的に示した事例だった。蔑視発言や問題を軽視する政治家だけはない。海外では驚きを持って報じられた、発言をその場で問題視しなかった「無言の容認」。「わきまえる」――。同様の経験は共通してあると明かす女性たちから、国内の意識の遅れを再認識したとの声も出る。
なぜ日本は取り残されたのか。「海外に比べ性別役割分担意識が根強く、家事分担やキャリアを積む障害になっている」。企業研修に携わるコンサルタントのパク・スックチャ氏は指摘する。
ただ今回、従来と違ったのは若い女性らはじめ多くの人が声をあげたことだ。SNS(交流サイト)上で抗議が飛び交い、15万ものオンライン署名が集まった。大会ボランティアの辞退も続き、やや遅れてではあったが大会スポンサー企業が不快感を示した。
「無言の容認」批判や、「#dontbesilent(黙っていないで)」と投稿した欧州の在日大使館など海外からの目も後押しした形だ。昨年末の政府による指導的地位に占める女性割合を30%に引き上げる目標の達成期限の先送り、選択的夫婦別姓の後退、コロナ禍で女性が不利な立場に置かれていることも無縁ではないだろう。
「ダイバーシティ」の著書もあるシカゴ大の山口一男教授(社会学)は「日本経済が30年低迷した反省から、企業の方が多様性のなさに危機感を持っている。日本の再生で果たす女性の役割は大きい」と指摘する。
「ただ長期雇用、長時間労働者の優遇という企業の在り方からの変化がまだ十分でないのがネックだ。こうした社会的慣行や意識を変えるには、多くの人が声をあげオープンに議論する社会になることが大事」と、盛り上がった市民活動の持続に期待する。
後任会長には女性が就くことになったが、形ばかりでは意味がない。多様な社会の実現は長年スローペースで、世界から取り残されていった日本。慣れや諦めから眠っていた問題意識も目覚めさせた今回の問題は、会長交代で終わりではない。多様な個々を生かすことで、閉塞感を打破するひとつの転機になり得る「黙っていない」動きを無駄にしたくない。
記事にある通り、今回ほど日本中で「女性差別」や「ジェンダー平等」について議論が起きたことはないかもしれません。
ずっと世界的に遅れをとっていた日本が、ダイバーシティ推進の重要性を改めて認識し、ようやく重い腰を上げてそもそもの構造を変えなければいけないと動き出しました。
(※本来の意味のダイバーシティを早々に推進していきたいものの、「性別」という一つの多様性すらいまだに乗り越えられていないのです。)
誤解を恐れず言うと、従来の男性社会において、働き続ける女性の数自体が多くなかったために、何らかの打ち手が必要であると考えた企業の中では、
「“女性だから”表彰する」
「“女性だから”抜擢する」
「“女性だから”任命する」
という、広報的にも“映える”形で、女性を前に出すことがありました。
正確に言うと、今でもその広報的・CSR的・ESG的な意味合いで女性を登用することが、企業の一つのパフォーマンスになっているように感じる人も多いと思います。
現に、「女性初の●●(肩書き)」というだけで、ニュースになり続けている時代です。
この『女性だから登用する』問題について、企業の認識や課題感から整理してみようと思います。
■なぜ、女性を登用するのか
企業が女性を登用する理由は大きく4つです。
① 有能な人材の確保・活用
→日本の少子高齢化問題は深刻で、生産性を上げるために労働力人口を増やす必要があります。女性の進学率や就労率が高い割に非正規社員率が高く、指導的立場につく女性が少ない傾向はかなり前から指摘されていました。女性の社会進出が進み、有能な人材を埋没させることなく有効に活用することが企業にとっても不可欠です。
また、女性管理職を増加させると、働く意欲が高い女性を採用できるようになり、採用力の向上につながります。女性管理職が多い企業は女性が働きやすいと思われ、ライフステージの変化を経て活躍し続ける女性のロールモデルが多い企業ほど、採用における競争力が高まるだけでなく、女性社員の定着にもつながっていきます。
② 業績貢献
→経済産業省によると、世界では女性役員比率が高い企業の方が、ROE、ROS、ROICなどの経営指標が良い傾向にあり、日本でも女性の活躍推進に取り組んでいる企業は、株式パフォーマンスがTOPIX平均を上回る水準で安定して上昇する傾向にあるそうです。
日本は人口の約半分が女性、かつ家庭の購買意思決定において女性がカギを握っていることが多く、女性管理職が増えて企業の商品開発やマーケティングなどの意思決定に女性の視点が反映されることで、消費者視点に立った判断につながり事業拡大や収益拡大などプラスの効果をもたらします。また、女性が活躍できる環境整備を進めると、残業時間の管理や働き方の多様化が進み、業務の生産性が上がることでコスト削減や業務改善も期待できます。
③ ガバナンス強化
→意思決定機関に女性登用が進むことで、活発な議論が生まれ、リスクが低減されるような健全なガバナンス体制が構築されます。同質化されたヒエラルキー構造が強い組織では、社員が自由に思ったことを発言できる雰囲気ではなく、組織が法やモラルを踏み越えそうになった時に指摘できる人が多くいるかどうかは、企業のリスクヘッジに大きく影響します。また、女性登用をはじめとしたダイバーシティ推進におけるKPIを設定・公表し、責任を追うことでガバナンスの向上につながります。(コーポレートガバナンス・コードやクオータ制の導入による社会的要請が強まっている背景もあります。)
④ 企業価値向上
→金融大手のゴールドマン・サックスが2020年、「欧米のIPOの引受業務では、上場希望企業に最低1名は女性取締役の選任を求める」と発表し、「2021年からは最低2名の就任を求める」としていますが、この流れは今後も世界中で加速していくはずです。取締役会の構成員が多様になれば、取締役会の監督機能の向上にも寄与し、イノベーションが促進され、企業競争力や社会的評価が向上していきます。男性中心の画一的な思考や視点だけではなく、異なるバックグランドや価値観を持った人の意見を取り入れることが結果的に企業価値の向上につながることは、数多くの事例などもあり証明されているものでもあります。
■「女性だから登用」した結果、生まれるものとは
大前提として、私自身は仕事上、女性だからといって差別を受けたり、不利な役回りをさせられたことなどは一切ありません。むしろ逆で、「女性であること」を理由に、これまで多くの挑戦機会をいただいてきました。(もちろん女性であることだけが理由ではないと自分では信じています。いや、信じたいです。笑)
同じように、多くの企業が女性の管理職を増やそうと努力した結果、女性社員を対象としたリーダー研修が増えたり、意図的に女性にチャンスを与えることが増え、一部の男性からは「それは逆差別ではないか」「女性だけ優遇されている」という声も聞こえてきています。
本当の意味の「ジェンダー平等」とは、世の中のトレンドや風潮に合わせるために、無理矢理女性を優遇し過ぎるのではなく、性別に関係なく機会提供や評価も公平・公正に行うことだと思います。
恐れているのは、今回のような「ジェンダー平等問題」が声高に叫ばれ、それ自体は当然そうあるべきなのですが、これが過剰になり変に作用して、「女性登用を否定的に捉えてしまう人を生んでしまっている」という点です。この空気感が広がってしまうと、逆に意欲のある女性の意思やキャリアを阻害してしまうことにもなりかねません。
女性の登用は、女性優遇の結果ではなく、実力を評価されての登用であるという実例が世の中にはたくさんあるにも関わらず、そうではないと捉えられてしまうことは非常に残念なことです。
そのためには、理想論ではありますが、『女性だから”登用する』という状況からいち早く脱却し、男女問わず誰もが能力を発揮できる社会の実現が必要です。
(※ここまで書きましたが、この課題は『女性だから登用する』という実例がもっと増えてきた時に初めて出てくる課題感であって、まだまだ日本はその前段階なので杞憂かもしれません。)
■本来の意味のダイバーシティを実現するために
「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」という政府が掲げた目標が、「20年代の可能な限り早期」と先延ばしになったことは記憶に新しいですが、2019年時点の女性管理職比率は11.8%と、目標に到底及んでいません。誰もが既に気が付いていることではありますが、本来ならば能力の高い人を登用しながら自然と女性比率が高くなっていくことが理想で、「女性管理職比率を上げる」ことそのものがゴールではありません。ただ、その目的を達成するために、まずは具体的な数値目標を掲げて達成に向けたアクションプランを考える必要があるのであって、そうでもしないとなかなか女性の登用が進まないというのが残念ながら今の実態です。
以前こちらにも投稿しましたが、女性登用を積極的に進めようと、多くの企業が努力しています。努力はしているのですが、様々な問題から女性登用問題は一向に改善していません。仕事と育児・介護の両立、待機児童や育休制度、働き方、職場と家庭のサポート体制など問題は山積みで、何か一つ手を打てば一気に解決する話ではありません。
繰り返しになりますが、女性の活躍を推進すること、女性を管理職に登用することは、絶対に企業がやるべきことであって、今後の経済成長のためにはもはや避けて通れない道です。女性であることを理由に、女性が活躍できない企業は衰退していくはずです。
また、求職者にとって、女性が活躍していない企業は選ばれなくなってきています。それは、女性が企業を選ぶ選定基準になっているだけでなく、男性にとっても「多様な意見や価値観を活かしてくれる会社であるかどうか」を見極める一つの判断材料になっているのです。
最後に、日本が多様性を重視するグローバルスタンダードと大きくかけ離れていることが明らかになった今こそ、ダイバーシティ推進の流れにしっかりと地に足をつけながら、従来の「同質性の高い男性社会」から脱却し、「多様性が重視される新しい社会」への実現を図る絶好のタイミングが訪れています。
性別や属性に関係なく、多様な人材を採用・育成し、活躍してもらうことによって、業績向上などの経営成果の実現を図ることは、CSR的なアピールとしてではなく、企業が生き残っていくための戦略的な取り組みの一つです。
男女格差をなくすための『女性だから登用する』問題から、私たちは何かを学び始めているはずで、ダイバーシティ経営においても『多様性を高めるために多様な社員を登用する』ではない形を目指していく必要があります。
経営戦略を実現する上で不可欠な、多様な人材を採用し、多様な人材が活躍できる組織風土や環境を整備し、その能力を最大限発揮させることで「経営上の成果」に結びつけること。その本来の目的を達成するために、今から軌道修正すればいつか世界水準に追いつくはずで、まだまだ日本は変化の途上です。悲観し過ぎず、できることから一つずつ進めていけば良いと思います。
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