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「キャリア自律支援」の矛盾と3つのポイント

お疲れさまです。uni'que若宮です。

今日はちょっと「キャリア自律支援」について書きたいと思います。


「キャリア自律」を支援する?

「キャリア自律」という言葉を見かけるようになりました。

↓の記事にあるように、Z世代でも、中高年でも、これからは「キャリア自律」が必要なのだそうです。

20代のZ世代社員に対し、ブラザー工業系などが「国家資格キャリアコンサルタント」らによるキャリア自律支援を始めた。「仕事は上司の背中を見て学べ」という従来の感覚を捨て、働きがいに敏感な若手にキャリアの道筋を示すのが目的だ。転職への抵抗が少ないZ世代社員を引き留める狙いもある。
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先行企業でキャリア自律支援はどんな効果をもたらしたか。伊藤忠商事は02年にキャリアカウンセリング室を設け、若手社員に個別に面談してきた。梅山和彦室長は「若手が会社で何を目標にし、どう行動すべきか論理的に考える機会になる」と話す。パーソル総合研究所が21年4~5月に全国の正社員1万人に実施した調査ではキャリア自律度の高い社員はそうでない社員より個人のパフォーマンスが1.2倍、仕事の充実感が1.26倍だった。

人生100年時代といわれる中、ミドル・シニア世代に自身の働き方を見つめ直してもらう取り組みが活発になってきた。いわば職場の側から促す「キャリア自律」だ。終身雇用が当たり前でなくなる一方、企業には70歳までの雇用努力が求められるようになった背景がある。個々の社員の意識変革はもちろん、組織の活性化や新陳代謝につなげたい思惑も透けてみえる。
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「ベテランになるにつれて自身の能力を更新しようとする意欲が薄れ、マンネリ傾向にあった」。制度設計に携わったソニーピープルソリューションズ人事オペレーションソリューション部の大塚康統括部長。これまでの50代向け研修ではキャリア自律という観点が薄かったため、新たにキャリアコンサルタントの資格を持つ社員をメンター役に配置。今後どう働きたいか話し合いつつ、中長期的に伴走する仕組みにした。

たしかに「プロティアンキャリア」と言われるこれからのキャリアは組織内の評価のために、組織の指示に従って働くだけではなく、自ら目標や「やりがい」を見出していく「自律性」は必要になってくるでしょう。また、上の記事には「キャリア自律度」の高い社員は「パフォーマンス」や「仕事の充実度」が高いともあります。

ただし、「自律」の「支援」や「伴走」は、やり方を間違うとむしろ「自律性」を潰してしまうこともありますし、そもそも「自律性」にはメリット・デメリットがあるので注意が必要だと思います。

企業が「キャリア自律」を支援する時に起こりがちな矛盾とどんなことに気をつけたらよいのか、僕なりに大事だとおもうポイントを3つ挙げてみます。


①「支援」をフェーズによって変化させる。

「自律」を支援したり教えるって、それってそもそも自律ではないのでは?

アート思考でもあるあるなのですが、こうしたらいいよ、という教え方/教わり方をしてしまうと支援のつもりがかえって「自律性」が育つ機会を潰してしまう事があるので注意が必要です。


「自律」を育む、ということ自体は矛盾ではありません。子育てを例に考えてみるとわかりますが、大人になって自分で意思決定できる人でも子供の頃から「自律」なわけではなく、徐々に「自律」が育っていく、ということはあるからです。

すると「自律」の「支援」というのは、最初は自律的でなかった人を徐々に自律的にしていき最終的には手放す発射台のようなものであり、本人の自律度は徐々に変化していきますからフェーズごとに支援の仕方を変えていく必要があります。


SL理論(Situational Leadership Theory)というのをご存知でしょうか?

詳しくはこちらのnoteがとてもわかり易いのでご一読いただければと思いますが、

Situationalというのは部下の状況に応じてマネジメントの仕方を変える、ということです。具体的には支援の仕方を指示型→コーチ型→援助型→委任型というふうに変化させる。

記事中の図がとてもわかりやすいのでみてみましょう。支援の4段階は、「指示的行動」と「援助的行動」の2軸でマッピングされた4象限から成ります。

最初は「こうしてね」という「指示的行動」メイン(指示型)なところから、徐々に直接指示は出さずに何かあったらサポートする「援助型的行動」を増やし(コーチ型)、やがて指示をしなくていい状態(援助型)、そして最終的には援助も減らしていく(委任型)。そうして最終的には上司が手や口を出さずとも「自律的」に行動できる人材として育成していくわけです。

僕の用語でいうと「キャリアの守破離」と呼んでいるマネジメントの考え方もこれに通ずるところがあります。

最初は型どおりにプロセスをマネジメントする段階(守)から、やがてプロセスをいちいち指示しなくても自分なりのやり方で成果を出せる段階(破)になり、最終的には目標設定までも自らできるようになる(離)。

重要なポイントは「自律性」というのは最初からあるものではないし、一足飛びに身につくわけでもない、ということです。最終的には手離れするからこそ「自律」ですが、「自律」を目指しつつも本人の人材フェーズに合わせた支援をすることもだいじなのです。

ちなみに、こうした支援があれば必ず「自律」的人材になるか?というと(起業家にも向き不向きがあるように)100%にはならないという気がします。個人的肌感でいうと、自律的人材になるのは多くても1割、いっても2割くらいという感覚です。「キャリア自律」が大事といわれても「他律」で働く方が楽、という人も一定いるからです。


②依存先を増やす

本人が「自律」的にしたいと思っても、会社員は結局社命に従うしかないのでは?

ところで、こうして「自律性」を身につけたとしても、それを実務で生かしていくためには、意思決定の自律性を担保できることが重要です。

仮に自分なりに目標を設定してこうしよう、と決めたとしても、実際にその選択肢を取れなければ、結局は他律になってしまいます。

企業では上司の命令や決裁があります。これが自分の決めたキャリアの目標やビジョンと違ったり、納得いかないものだったらどうすればいいでしょうか?それを受け入れるしか選択肢がない、というのでは「自律」を為すことは出来ません。

「自律」の実行・実現には「他律」の制約を減らすことが必要なのです。


キャリアの相談に乗る時に、よく「自立とは依存先を増やすことである」という熊谷晋一郎さんの言葉を引用します。

一般的に「自立」の反対語は「依存」だと勘違いされていますが、人間は物であったり人であったり、さまざまなものに依存しないと生きていけないんですよ。
 東日本大震災のとき、私は職場である5階の研究室から逃げ遅れてしまいました。なぜかというと簡単で、エレベーターが止まってしまったからです。そのとき、逃げるということを可能にする“依存先”が、自分には少なかったことを知りました。エレベーターが止まっても、他の人は階段やはしごで逃げられます。5階から逃げるという行為に対して三つも依存先があります。ところが私にはエレベーターしかなかった。
 これが障害の本質だと思うんです。つまり、“障害者”というのは、「依存先が限られてしまっている人たち」のこと。健常者は何にも頼らずに自立していて、障害者はいろいろなものに頼らないと生きていけない人だと勘違いされている。けれども真実は逆で、健常者はさまざまなものに依存できていて、障害者は限られたものにしか依存できていない。依存先を増やして、一つひとつへの依存度を浅くすると、何にも依存してないかのように錯覚できます。“健常者である”というのはまさにそういうことなのです。世の中のほとんどのものが健常者向けにデザインされていて、その便利さに依存していることを忘れているわけです。

ここで言われている「じりつ」は「自立」の方ですが、依存先の多さは「自律」にも関わっていると考えます。なぜなら依存先が少ないとそこに委ねるしか無いので選択肢が減り、自分の意思と異なっても他者におもねり従う「他律」になってしまうからです。

それ故、「キャリア自律」の支援においては、依存先を増やすことも重要でしょう。具体的には自社内だけではなく、社を超えたネットワークや協働プロジェクトとの機会を増やしたり、その結び目をつくることです。

そして社外とのつながりを増やすことに対しては、社内からある程度懸念や反感が出ることも考えられます。「外のことにかまけて自社の仕事をしなくなったらどうする」「外につながりができると転職するきっかけになってしまうのでは?」「よそ見せずに目の前の仕事に集中してほしい」などなど。

このあたりはメリデメ両方あるのですが、上記に述べたように一箇所への集中依存は本人の選択肢を奪い、ハラスメントの温床になったり、やがて社員が「結局言われたとおりにやるしかないんでしょ」と白けたムードになり自ら提案することを厭ったりするようになったりするので、これからは適切な依存の分散も必要だと考えます。閉塞感に陥らず、自発的に考えて動ける人材を育てるためには、環境として複数の依存先を用意することもポイントだと思います。


③「囲い込み」を諦める

「キャリア自律」を推進しても自社に還元されないか、デメリットになるのでは?

冒頭の記事では

転職への抵抗が少ないZ世代社員を引き留める狙いもある。

とありましたが、果たして「キャリア自律」を推進・支援することは自社への「引き留め」になるのでしょうか?


先に述べたとおり、「キャリア自律」を推し進めると上司に頼らず自分の頭で考える人が増え、また活躍する先として外とのつながりも増えてきます。

そしてこれは「昭和型」の育成からすると望ましくない方向かもしれません。なぜなら、「キャリア自律」が進むと会社都合でのトップダウン型統制がしづらくなってくるからです。


昭和的な「上に従うことを是」とする組織において、「自律」とは「言うことをきかない社員」が増えることであり、マイナスかもしれません。

外にも活躍の場があることもネガティブです。そもそも「終身雇用」を始めとする昭和型のキャリア形成においては、自社への依存度を高めるよう仕組みが作られ、その重力が働いていました。「評価」や「出世」という補助線が引かれ、急な転勤を言われて家族や生活に影響が出るとしても、「社命に従う」ことがゲームでポイントを稼ぐルールであったのです。

社命に従わなければ出世のレールからは外れます。そして昇進する人たちは「社命」に忠実な人なので、ますます社命に従う人を良しとするモノカルチャーが強化されていくのです。いわゆる「社畜化」ですね。


退職者を「裏切り者」のように扱ったり、複業に対して「浮気」のような拒否反応がある企業は、こうした「社畜化」の重力が弱まることを心配しているのかもしれません。

複業を禁止する企業について「嫉妬深い恋人と一緒」と例えることがあるのですが、何が似ているかというと、自分への依存度を高めることでコントロールしようとするところです。

「亭主関白」のようにかつてはそれが美徳であったかもしれませんが、「外で人と会うな」とか「オレの言うことだけを聞け」とか言って依存度を高めている状態は健全ではありません。

(かつては社会的圧力の元で辛くとも我慢して「添い遂げる」こともありましたが)それにそうした束縛が強いと息苦しくなって長続きせず、どこかで破局がきてしまうでしょう。反対に、仕事や自分がやりたいことを応援してくれて、お互い高めあえると思える人なら束縛などなくても長く信頼関係がつづきます。

このように考えると、これからの時代は束縛したり囲い込んだりしようとしてもあまり意味がないどころか逆効果かもしれません。

少なくとも「キャリア自律」を支援する企業は、束縛や囲い込み的な発想はやめ、応援しあい、高め合える関係性をつくっていくほうがよいでしょう。


このように「キャリア自律」を支援する上では、企業側のスキルやマインドチェンジも必要です。

囲い込んだり束縛したりするうち「社畜」として死んだ目で働く社員より、自律的な社員を増やしたい。そのためにはのびのびと働ける環境(ぬるま湯ということではなく、自ら高い目標を立て邁進できる環境)があればこそ、社員は力を発揮できます。そしてやがて自律社員は上司のコントロールの手を離れ、社内だけではなく活躍の場を広げていくかもしれません。「キャリア自律支援」においてはその効果を広く長い目でとらえる企業側の覚悟も問われてくるのではないでしょうか。



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