人はニュースが好きだから、マーケティングを「New News作り」と考えてみる
日経COMEMOの今回のお題はこちら。
このお題を見て、いささか題意とはズレるかもしれないが、なぜ人はニュースに触れるのか、ということを考えた。
まず初めに思うことは、キャッチアップである。
世の中で何が起きているか知らずにいると、仕事のコミュニティの中での話仕事の機会を逃したりしかねない。
それほど深刻でなくても、友人間での話題に乗ることができず、アンテナ感度が低い人物、というレッテルを貼られるのもよろしくない。
かくして人は、世事の動きを逃さぬためにニュースを求める、という次第。
この動機は、ニュースそのものが欲しいというよりは、ニュースを知らない状態を作りたくない、というものであり、
・ニュースを知らない状態:ネガティブ
・ニュースを知った状態:ニュートラル
という考え方でニュートラルを保ちたい、というものである。
味的な魅力がないので食欲を感じない健康食品を、体づくりのために摂取するのに似ているかもしれない。
一方で、人には、新しさに興味を惹かれ、それを積極的に求めに行く性質があるのではないかとも思われる。
英語でよく使われるあいさつ的な言い回しに、"What's new?"がある。
ジャズの名曲にも取り上げられているこの言い回しは「最近どう?」という意味だが、直訳すれば「何か新しいことある?」
ということで、このような表現が存在すること自体が、人が新しいものを好きである証左なのではないかと思われるし、この視点からは人は知識欲を感じて「ニュースを知っている状態」のみならず「ニュースそのもの」をとりにも行く、と言えそうである。
小売の店頭ではよく「新製品!」と記したPOPと共に上梓直後の商品が陳列されるが、これもそういった人の心理に訴えかけようとするものである。
なぜ人は新しいことが好きなのか、という問いへの答えは厳密にはわからない。が、直感的には人は「へー、そう来たか」「そんなことがあるんだ!」などと軽い驚きを感じることを好むのではないか、と思う。
マーケティングコミュニケーションを作っていく中では、すべてのタッチポイントで「びっくり→納得」という心の作用を起こさないと、無数にある競合の中で想起に残ることはできない、という説明を筆者はよくするが、「軽いびっくり」を構造に含むことにより、そのコミュニケーションは潜在的に好感を持たれるポテンシャルを孕むのかもしれない。
最近読んだニュースの中で筆者が「へー、そうきたか」と感じた事例にこちらがある。
屋外広告としては有利とは言えない形状を逆手に取り「常識から言えばそこにありそうにないものを鎮座させる」という手法を通じて、驚きと興味喚起に成功している巧みな戦略。
以前マーケティング責任者として務めた企業で、マーケティングの仕事は「New News」作りである、という指針でチーム運営していたことがあった。
これはつまり言うまでもなく、どのような素材(例えば商品やサービスの紹介、キャンペーンの告知など)でも、何かしらのニュース性を持たせた構造にすることにより、注目を集め、お客様の行動変容を励起することが大切だ、と言うことである。
そのために当時のチームでは、キャンペーンに消費者を巻き込んだり、比較広告をやったり、その業態ではまず使わないようなキャッチフレーズを使ったり、非常にユーモラスな表現を使ったりと、いろいろな工夫を凝らしたものだった。
New Newsの考え方では、チームが考え、広告やオウンドメディアで発信したことのPR的な広がり(=SNSやメディアで盛り上がること)を重視していたし、なので広告を作る際も、それがメディアでどう取り上げられるか、といった視点で作っていたものだった。なぜならば、広告・PRには
・広告=自分自身のことを自画自賛することであり、批判的に見られがち
・PR=第三者が語ってくれるのでニュートラルに接してもらいやすい
と言う構造があり、PRを使ったコミュニケーションをマーケティングの戦略に盛り込まないのはあまりに勿体無いからである。
New Newsを考えるにあたっては「この発信をしたら、どのように記事化されるか?」と言う問いを立てて、実際に仮想のWeb記事や新聞記事を作っては、発信内容をブラッシュアップしたりしたものだった。
この「どのように記事化されるか?」と言う問いは、企画の磨き込みにとても有効なので、もしよかったら、読者の皆さんにも試してみていただけたらと思う。
先回したためたこの記事
の中で「話題化」といっていたことは、まさに上記「New News」づくりのことである。
ヒットを生み出すためには、良いプロダクトやサービスを開発するだけではなく、それが言の葉に乗ったり、人の想起に残ったりすることが重要なのだ。
以上、出題意図に対しては、かなり自由な内容となってしまったかもしれないが、筆者の「ニュースからの学び」は「人がなぜニュースに触れるかを考え、それをビジネスに援用する」と言うことにする。
読者の皆さんは、いかがお感じだろうか?