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SES転職が増加?フリーランス保護新法がITエンジニアに与える変化

11月よりフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス保護新法)が施行されました。景気の変化もあり、エンジニアのキャリアも大きく変化しています。今回はITエンジニアフリーランス界隈について、正社員化が進んでいる現状をお話しします。

SESから提案される人材のスキルシートを見ると、フリーランスから案件を探している方が散見されます。中にはSESで案件が決まればフリーランスを廃業し、SESへ転職する方も見られます。SES企業や人材紹介会社と話をしても、同様の話を複数耳にすることができました。

フリーランスの正社員化はこれまでに2021年10月と2024年1月にも取り上げましたが、そこからさらに状況が変化しています。

フリーランスエージェントの介在価値を整理する

まずフリーランスの話に入る前に、多くのフリーランスが利用しているフリーランスエージェントについて触れていきます。

エンジニアバブル後期には多くのフリーランスエージェントが誕生しました。真っ当に運営すると正社員採用が必要であり待機時も基本給が発生するSESに対し、フリーランスエージェントは契約が発生するまでコストがかかりません。また、免許も不要であるため、多くのエージェントが増加しました。

フリーランスに纏わる素朴な疑問として、特に疑問もなく開業後に速やかにフリーランスエージェントや媒体に登録する傾向があります。Xでも「マージンの安いフリーランスエージェントはないか」という話がありますが、マージンが気になるならば自己ブランディングをして直接営業し、受注すれば良いのにと思うばかりです。

それでもフリーランスエージェントを利用する理由として、以下のようなメリットが挙げられます。

  • 営業の代行

  • 契約を中心とした法務の代行

  • (一部エージェントによる)支払いサイトの短縮

  • (一般的なエージェントで)発注者の支払い遅延時の補填

介在価値を求めるほど還元率は少なくなり、フリーランスエージェントはSESに近くなります。営業やバックオフィス業務の代行があり、高還元SESのように相応の給与が見込めるのであれば、「SESで良いか」となるのも自然でしょう。

フリーランスからSESになる背景

北朝鮮問題に端を発したSES商流制限とフリーランス排除

以前から話題にしてきましたが、北朝鮮のエンジニアがフリーランスとして入ってくる問題があり、フリーランスの締め出しや再委託先にフリーランスがいる可能性を懸念した商流制限が見られます。

法的なリスクを背負いたくない大手企業はフリーランスとの契約を縮小し始めている一方、バックオフィスの人員が居らずに法解釈が後手に回っていたり、何も知らないスタートアップはこの潮流を知らない経営層も多いです。しかしスタートアップは投資の冷え込みでお金がないために単価はパッとしなくなっており、違う文脈でフリーランスとの契約が厳しくなっています。

ITエンジニアフリーランス相場の再形成と企業期待値の増大

エンジニアバブルにより、ITエンジニアフリーランスの単価も上昇しました。特に景気の良かった2021年頃には、相場がわからないスタートアップなどで「高いと思うけど言ってみたら通った」ケースも多く見られました。相場の3倍程度のフリーランスも何度か見たことがあります。

2024年現在では、単価もシビアになっており、単価が高くても求められるスキルや経験が上昇しています。2021年には高単価で契約していたメンバーが、現在では同額だとテックリードやCTO程度のスキルと経験が求められることも多いです。このため契約に難航するシーンが見られます。

フリーランス保護新法とITエンジニアのオーバーヘッド

11月より施行されたフリーランス保護新法は、フリーランスが契約面で不利にならないようにするためのものです。フリーランスといっても業界によって状況は様々です。ITエンジニアもいれば、Uberのようなギグワークもフリーランスです。

フリーランスの地位見直しに積極的な政党の一つに公明党があり、マニフェストには劇団員や美術家なども含まれていることが伺えます。

公明党マニュフェストより

https://www.komei.or.jp/special/shuin50/manifesto/manifesto2024.pdf

先のKADOKAWAではライターやカメラマンの買い叩きが問題になっていましたが、これもまたスコープに入っているでしょう。

下記の記事でもフリーランス受注時の買い叩きが問題になっています。学術研究領域などは個人的にも心当たりがあるところです。

フリーランスが受注した業務内容に対応する業種別で、「買いたたき行為」の回答が目立ったのは教育、学習支援業の85.9%、学術研究、専門・技術サービス業の75.6%、情報通信業の66.3%だった。単価交渉に応じない事例や値上げを受け入れない事例が確認された。

情報通信業が66.3%となっていますが、未経験・微経験フリーランス界隈では該当するであろう事象が確認されています。例えばWeb制作などは、地方などでも「初回0円、2回目以降は10万円」という謎契約が見られます。相手が駆け出しであることを良いことに、実績づくりという観点で買い叩きどころか無報酬労働が行われてきました。

また、動画編集者も該当するでしょう。先に話題にした公明党のブログでも「不安定なフリーランス」の例として挙げられていますし、弊社のような小規模なYouTubeチャンネルにも営業が定期的に来るほど厳しい業界です。

フリーランス保護法で想定されているのは、これまで述べたような発注者が強い形態(買い手市場)と考えられます。

経験豊富で案件を選べる立場にあるプログラマや、都内近郊の強気なエージェントが挟まる売り手市場のITエンジニアは想定されていないと思われます。経験者ITエンジニアフリーランスと契約してきた企業からすると、「高いけど正社員が採用できるまでの繋ぎ」であったものが、「高い上に更に契約にも配慮しなければならない」という発注者側に更に負担を強いる状況になることが想像されます。

フリーランス・事業者間取引適正化等法

https://www.mhlw.go.jp/content/001270862.pdf

北朝鮮の件と同じく、法的リスクに敏感な大手は対応し始めている一方で、優先度の低いスタートアップは後手に回っている印象があります。

転職先としてのSES

自社サービスへの転職希望者もいますが、採用ハードルが上がっているため、決まることは少ないようです。特に事業貢献性や業界への興味を重視する企業が増加しています。

SIerやSESではタスクが事業課題から細分化されて割り当てられることが一般的であり、ジョブ型雇用を外出しした形態と言えます。しかし事業を自分ごととして考える機会が少ないため、自社サービスの面接で業界への興味などを質問されても回答に詰まる傾向があります。

自社サービス企業では、スタートアップを中心に『プロダクトエンジニア』を募集している企業が増加傾向にあります。能動的に守備範囲を超えて動ける人材が求められており、この流れはジョブ型とは逆行しています。

この流れはSESと相性が悪く、収入アップを重視するならばSIerやSES業界内での転職のほうが良いでしょう。多くの方にとって、それが幸せだとも考えています。

私が抱いている2025年以降の予測としては、SIer/SES/フリーランスと自社サービスの間に壁ができ、この間の行き来は困難になっていくのではないかと考えています。

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