【池澤あやかさんに聞きました!】これからの時代のパワフル複業者とは?〜「日経COMEMO」×「日本経済新聞」連動企画〜
この記事は11月10日(火)に開催した、オンラインイベント「働き方innovation #05 パワフル複業者が補うデジタル人材」の内容をもとに作成しています。
働き方改革を進めるため、そして自社にスキルやノウハウを還元してもらうために、「複業」を認める企業が増えています。コロナ禍でその動きは加速。「複業人材」としてどう働くか、もしくは「複業人材」をどう活用するか、ソフトウェアエンジニアでありながらタレントとしても活躍中の池澤あやかさんにお話を伺いました。聞き手は、働き方について30年以上取材を続ける日経の石塚編集委員です。
■ハイライト動画(当日の模様)
■はじめに
ー石塚編集委員
本日は「パワフル複業者が補うデジタル人材」というテーマで、池澤あやかさんとお話をしていきたいと思います。同じ話題を、日本経済新聞朝刊に隔週火曜日で掲載している「働き方innovation」面でも取り上げています。
池澤さんは「複業」の実践をされている方で、ITエンジニアでもありタレントとしても活躍中ですが、具体的にどのような働き方をしているかから、お聞かせいただけますか?
ー池澤さん
私は普段、週3〜4日、フリーランスでソフトウエアエンジニアをしています。エンジニアとしてはAPIやWebアプリケーションの開発に携わっています。残りの時間、週2〜3日くらいは、メディアへの出演、イベント登壇、連載の執筆などをしています。
ー石塚編集委員
今日は複業について、池澤さんにいろいろとお話を伺っていきたいのですが、まずは複業に関する一般アンケートの結果を見てみたいと思います。この結果について、池澤さんはどう思われますか?
ー池澤さん
正社員もいて複業社員もいてという環境では、お互いが理解していないと仕事はとてもしづらいということは、私も強く感じています。
複業をしている人は、他の職業をもっているということなので、他の仕事をしていて対応できない時間帯というものが必ずあり、コミュニケーションラグが発生しやすいところがあります。それによって、慣れていないと(複業人材に対して)一緒に仕事がしづらいと感じてしまう正社員の方は多いと思います。
そこを、どのようにコミュニケーションをとって、仕事を軌道に乗せていくかが課題だと思います。
■複業人材として活躍するためには?
ー石塚編集委員
池澤さんは、複業人材として組織の中に外部から入って働いている立場ですが、複業人材として心がけていることはありますか?
ー池澤さん
日常的な情報共有を一番心がけています。雑談などのコミュニケーションは、積極的にとりにいっています。
自分自身の一番の課題だと感じていることは、やはりタイムマネジメンントですね。どの時間を何に使うかということについては、いつも悩みながらやっています。ただ、企業側がタイムマネジメントをしっかりできるようなところでは、比較的仕事はうまく回ります。
ー石塚編集委員
タレントとITエンジニアというまったく違う専門性を発揮する複業をされていますが、それぞれの現場で求められる役割が違うと思います。それはご自身にとって、切り替えが難しいと感じているのか、リフレッシュになって活性化されると感じているのか、どちらの気持ちのほうが強いでしょうか?
ー池澤さん
私自身はITエンジニアとタレントの仕事はとても相性がいいと感じています。ITエンジニアは時間的な拘束もありますが成果が出ればいいという職種なので、アウトプットに依存しているところがあります。一方でタレントは、拘束時間内に自分の力を出し切ればいい仕事です。
ですから、タレントとしては決められた時間内を頑張って、空いた時間でITエンジニアの仕事を頑張る、という感じです。
さらにITエンジニアは家にこもりがちになりますが、タレントの仕事は外に出なければならないので、メンタルバランスを保つという意味でもいい組み合わせだと思っています。
イベント参加者からの質問:複数の仕事を同時にする上で、時間管理をするための便利なツールなどはありますか
ー池澤さん
実は、私はタイムマネジメントがあまり得意ではありません。今はGoogleカレンダーを使って管理しています。
ただ、タレントの仕事が忙しくなって毎日仕事が入ったりすると、とても効率が悪いんです。毎日少しだけ外に出なければならなくなり、前後に移動時間もとられます。するとITエンジニアとして開発に割ける時間が減ってしまう。それで私は、働く日を決めるようにしました。
1週間のうち、ITエンジニアとして働く曜日を決めて、他の日にはタレント仕事を入れてもいい、ということにしました。それでずいぶん改善されたと思います。
■複業をすることのメリット・デメリットとは?
ー石塚編集委員
パラレルで働いていて、それぞれの仕事の相乗効果を感じることはありますか?
ー池澤さん
それはとてもあります。例えば、ITエンジニアとして働いている企業Aと企業Bで取り組んでいる内容がまったく違ったとしても、Aで導入してよかったアプリやサービス、ライブラリなどは、Bにも提案したりすることがあります。
タレントとしての活動は、いいインプット機会に恵まれるということがあります。様々な会社の人とコミュニケーションをとることができたり、最先端の技術を見ることができたりします。それは長い目で見て自分の仕事に還元されていくと思います。
ー石塚編集委員
自分自身の先を見据えて池澤さんはずっとフリーで働いてこられたと思いますが、「成長機会」というものはしっかりと与えられていると感じますか? 会社に雇用されている人は、会社がその人の育成の責任を負うので、ある程度は委ねてしまっても成長機会が与えられると思いますが、フリーランスでは育ててくれる人が誰もいないので、自分で自立的に考えていくしかないように思うのですが。
ー池澤さん
私の場合、最初のキャリアが大学時代のWeb制作のアルバイトだったので、基礎的なことはそのときに学びました。自分が「育成されなかった」という感覚はあまりありませんが、確かにフリーランスでやっていると、成長機会が少なくなるという危険性はあると思っています。
請け負う仕事に対して責任をもたなければならないので、自分の手に余る仕事は受けられませんし、あまりリスクもとれません。自分の実力の枠にとどまった仕事をどうしても選んでしまい、結果的にあまり成長できないということはあると思います。
私がおすすめするのは、完全にフリーランスとして1人で働くのではなく、チームに属して働くことです。チームで仕事をすると「助け合い」のようなものが生まれますから、自分のスキルの足りない部分をメンバーとフォローし合うことで、成長機会が増えていくと思います。
イベント参加者からの質問::同じような業種で複業しようとする場合、守秘義務の問題などが壁になったりすることはありますか?
ー石塚編集委員
日本の企業が複業をなかなか認めないのが、このあたりの理由ですよね。厳しいルールを設けている企業も多いようですが、池澤さんは同じIT業界の複数の企業で仕事をされていますが、守秘義務のようなものにはどのくらい縛られていますか?
ー池澤さん
私が働いているのはどちらもベンチャー企業なので大企業とは少し違う状況だと思いますが、雇用契約に書いてあるレベルのことくらいしかありません。もちろん、内部構造の話をしたり、コードの流用をしたりするようなことはありませんが、「今このサービスに関わっています」くらいのことは言っています。
■日経COMEMOで開催された同テーマの【投稿募集企画】に寄せられた意見
ー石塚編集委員
先日まで日経COMEMOで開催されていた投稿募集企画「複業人材を生かす組織とは?」に寄せられた投稿の中から、池澤さんには気になる投稿を3本選んでいただきました。それぞれどのあたりに注目されたのか、お話を伺えますか?
▼複業チーム・マネジメントの3つの視点
ー池澤さん
まず1本目は若宮和男さんの投稿です。この投稿は「複業人材しかいない会社」の話ですが、実は私も複業人材しかいない会社で仕事をしています。そのような会社のマネージメントの難しさがよくわかる話でした。
複業をしていて最も難しいことの1つに「タイムマネジメント」があります。
正社員の人にとっての一番のストレスが「複業人材が社外で何をやっているかわからないこと」だという会社は多いと思います。若宮さんがこの投稿で書いている「チーム内でちゃんと社外のことも共有する」というのは、とても現実的な解決策だと私も思いました。私の会社でも、その日に起こったこと些細なことなどもみんなと共有することを、心がけています。
▼複業人材を活かすには、自律分散的な人的ネットワークとパーパス重視の経営が不可欠だ
ー池澤さん
2本目は村上臣さんの投稿です。これは採用する側の話で、魅力的な複業人材を採用するためには、単純に報酬を高く設定すればいいわけではない、という話が書かれています。
もちろん報酬も大事ですが、「自分の成長にどうつながっていくか」「自分のやりたいことにどうつながっていくか」ということを、高度な技術をもっている複業人材は考えていると思います。スキルを資産だと考えているからです。
ー石塚編集委員
確かに、複業をしている人たちの実態に関する国の調査によると、現状は二極化していて、収入が少なく複業をしなければ生活できない層と、高収入で自分たちの能力を活かしたい・試したい・成長したいという意欲をもった層に分かれています。後者の層は、金銭報酬では惹きつけられないということですね。
▼地方の中小企業が、複業人材を活かすためのポートフォリオ
ー池澤さん
3本目は碇邦生さんの投稿です。この投稿で私が一番共感したのは、「複業人材」というひと言でまとめて語られることが多いのですが、実際には様々なカテゴライズができるような状況だ、という点です。それをひと括りで扱ってしまうのは、企業にとって決していいことではありません。
発揮できるバリューがまったく違う中で、専門性の高い人をルールで縛りすぎてしまったり、逆にルールを明確にしておかないことで仕事が乱雑になってしまったり、管理の方法を単一化することはできないと思います。
▼複業人材ばかりの開発チームを救った、問題を可視化し改善するためのフレームワーク「スクラム」
ー石塚編集委員
池澤さん自身も、こちらの投稿募集企画に参加してくださっていますが、解説をお願いできますか?
ー池澤さん私は複業人材だけの組織で働いているのですが、ソフトウエア開発で用いられる「スクラム」という問題を可視化して改善するためのフレームワークを導入した話を書きました。スクラムの導入によって、見えにくかった優先順位が明確になり、今やるべきことに集中して開発が行えるように改善されたと思います。
■まとめ
ー石塚編集委員
最後に、今後の池澤さんの働き方についてお伺いしたいのですが、これから先も「複業人材」として働くことを続けていきますか? もしどちらかの仕事がとても面白いと思ったら、どちらかを辞めて専業にする可能性もありますか?
ー池澤さん
これからの時代の働き方には、辞めるか辞めないかの「ゼロイチ」の考え方ではなく、もう少しグラデーションがあっていいと思っています。例えば、タレントの仕事が1割で、ITエンジニアとしての仕事が9割になってもいいと思いますし、タレントとしては働いていなくても、SNSでの情報発信はしているなど、今後は「辞める」以外の選択肢もいろいろと増えていくのではないかと、個人的には感じています。
■プロフィール
池澤あやかさん
タレント / ソフトウェアエンジニア
1991年7月28日 大分県に生まれ、東京都で育つ。慶應義塾大学SFC環境情報学部卒業。 2006年、第6回東宝シンデレラで審査員特別賞を受賞し、芸能活動を開始。現在は、情報番組やバラエティ番組への出演やさまざまなメディア媒体への寄稿を行うほか、フリーランスのソフトウェアエンジニアとしてアプリケーションの開発に携わっている。 著書に『小学生から楽しむ Rubyプログラミング』(日経BP社)、『アイデアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)がある。
石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。