ジョブ型雇用で企業は広い人事権を手放すことができるか
こんにちは。弁護士の堀田陽平です。
以前よりは少し地に足のついた議論がなされ始めた印象ですが、引き続き盛り上がりを見せる「ジョブ型雇用」。
以前にも少し書かせていただいたジョブ型雇用について、今回は「企業の人事権」、「個人のキャリア自律」という観点から書いていきたいと思います。
https://comemo.nikkei.com/n/n0810fb60f555
なぜ日本企業は広い人事権をもっているのか
日本企業は、基本的に、社員に対して広い人事権を有しており「どこでも、どのような仕事でも」命じることができることとなっています(もちろん、法律上の制限はありますが)。
なぜこのような広い人事権を有しているのかというと、「働くというのはそういうものだろう」ということではなく、法的には、「労働契約、就業規則等がそうした内容であるからだ」ということになります。
つまり、労働契約上の職務の内容に限定がなく、広い人事権を定める就業規則の定めがそのまま適用されることから、企業は広い人事権を持つことになるわけです。
ジョブ型になると人事権は狭まる
他方で、ジョブ型のように職務が労働契約において特定され、限定されている場合、広い人事権を定める就業規則よりも労働契約が優先するので、企業の人事権は労働契約の内容に狭まることになります。
人事権の範囲から導かれること
人事権が広い場合、企業は、企業の経営上の意思決定に従って、柔軟に人員体制を再編することが可能ということになります。そして、だからこそ仕事と給与との関連性が希薄である賃金制度が適しているということになります。
また、このことから、広い人事権を有している場合には、あるポストでの能力が不足しているからとって、解雇ができるわけではなく、基本的には他の職務に就かせてみる必要があるというのが裁判例の基本的な考え方です。
他方で、職務が限定されている場合には、裁判例では、少なくとも配置転換等を「提案」せよとするものもありますが、広い人事権を有しているわけではないので、配置転換等の義務は、職務に限定がない場合よりも緩和されているとみられています。もっとも、その職務を遂行する能力の有無は、契約内容に従って厳密にみられることとなります。
企業は広い人事権を捨てることができるか
上記のとおり、ジョブ型によって労働契約において職務の内容が限定されると、企業はこれまで有してきた広い人事権を失うことになります。
したがって、この意味でのジョブ型雇用は必ずしも企業に有利なことなばかりではないといえます(他方で、働く個人にとっても同じことが言えます。この点は別途書きたいと思います。)。
昨今、「ジョブ型=成果主義」というように理解されていたり、そのように発信している企業もありますが、こうした広い人事権という企業にとっての大きなメリットを捨てることができない企業が、広い人事権をもちつつ成果による評価を徹底するということを「ジョブ型」という衣を着せているのではないかと想像しています。
ある種のトレンドのようにジョブ型雇用の導入の流れが見られますが、こうした広い人事権を失うことは、企業にとって大きな影響を与えるものであることにも留意しておく必要があるでしょう。