成果主義だけではない人事評価制度にバージョンアップした理由。
皆さん、こんにちは。
今回は「評価制度」について書かせていただきます。
日本経済新聞社がまとめた第16回「企業法務・弁護士調査」で、リモートワークの常態化を受けて「ジョブ型」の導入など成果評価制度の見直しを実施・検討している企業が4割に上ることがわかった。ITを使った勤務時間管理の導入や、社内規定の整備は7割超が終えているが、成果につなげる仕組みは道半ばだ。
調査では企業の96%がリモートワークを実施していた。このうち66%は今後の方針としても「現状の措置を継続」すると回答。17%は「さらに拡大する」と答えた。
リモートワークを実施している企業に労務管理対策の現状を選択肢から選んでもらったところ、「実施済み」で最も多かったのが「ITを活用した勤怠管理システムの導入」(77%)で、「オフィス以外の勤務を可能にする社内規定の整備」(75%)、「ハラスメントやビデオ会議の手法、情報管理などの研修や周知」(61%)の順だった。「社員のメンタル面のケアの強化」も45%が実施していた。
日清食品ホールディングスはテレワークうつ予防チームを8月に発足。ストレス計を使って問題を抱える従業員を自覚の有無にかかわらず確認し、改善策を講じる。「働く環境が短期間で大きく様変わりした。従業員の心身の健康管理は今度さらに重要になると考えた」と説明する。
一方、現在検討中の対策として多かったのが、「通勤など諸手当の見直し」(44%)と「『ジョブ型』の導入など成果評価制度の見直し」(32%)。手当の見直しは25%が済ませており、勤務実態に合わせた変更が広がっている。
大和ハウス工業は8月から1日200円の在宅勤務手当を自宅で勤務した日数に応じて支給している。光熱費や通信料に充ててもらう目的で、「新型コロナの影響から在宅勤務を推奨しているので、負担軽減のために導入した」という。一方で4月から、通勤定期代の支給を状況に応じて実費精算にしている。
一方、評価制度の見直しは調査時点で実施済みは9%にとどまる。来春に向けて検討が進んでいる様子がうかがえる。
特に注目を集めているのが「ジョブ型」の雇用制度だ。仕事に対して人を割り当て、職務内容や成果に応じて処遇する。部下の日ごろの行動把握が難しくても、マネジメントしやすい面もあるとされる。
三菱ケミカルホールディングスは10月、管理職を対象にジョブ型を導入。2021年4月から全社員に広げる予定で労働組合と調整している。「約2年かけて検討してきたが、新型コロナで理解を得やすくなった」という。
KDDIは8月に中途社員からジョブ型を開始。21年4月に新卒社員と管理職に導入し、一般社員にも広げる方針だ。転職しやすい欧米のジョブ型とは異なり、「関連会社への出向を含めて広い事業領域を活用し、社員がグループ内でキャリアを積み、成長できる制度」をめざす。旭化成は「ジョブ型、メンバーシップ型を組み合わせた当社になじむ仕組みを検討している」。
リモートワークの常態化を受けて、ジョブ型の導入をはじめとする、評価制度の見直しを「検討している」企業が約4割に対して、見直しを既に「実施済み」と回答している企業は約1割にとどまっています。
働き方の変化に合わせた、評価制度の見直しは必然的ですが、多くの企業が「検討中」、または「検討予定」という状況ではないでしょうか。
以前、「会社のカルチャーを犠牲にしない働き方制度設計のヒント。」というNOTEを投稿させていただきましたが、評価制度についても、会社のカルチャーに合わせた設計が必要ではないかと思います。
当社でもまだ答えは見つかっていませんが、昨年10月よりトライアルで、評価制度のバージョンアップを行いましたので、ご紹介させていただきます。
※現在トライアル期間中につき、また大きな方針転換がある前提でのご紹介となる点、ご了承ください。
新評価制度名は「成果ミッション5対5」というもので、「成果」と「ミッション」の2つの軸で評価することになりました。そしてその比率を5対5にするという点も打ち出しました。
これまでは、「成果」軸における評価を半期ごとに行ってきましたが、評価が難しかった“組織貢献”を明確に業務として評価するようにした、という点が大きなバージョンアップのポイントになります。
この制度の狙いは、改めて「チームで戦うことの重要性を明確に」することです。
「ジョブ型雇用」の導入とともに、成果主義が強調されやすい社会情勢の変化を受け、チームワーク・チームプレー重視というサイバーエージェントの社風に合わせた評価軸の明文化が必要であると判断しました。
このまま何もしない場合に想定されることは以下3点です。
① 成果主義が強くなり、組織貢献が弱くなる
② お互いへの関心が減り、個人主義が強くなる
③ 次世代のための行動が減り、会社が弱くなる
ミッション目標の中には、採用・広報・全社横断の取り組みなどの「全社貢献」に該当するものや、所属部署の育成・社内キャンペーン推進・活性化の取り組みなどの「自部署貢献」に該当するもの、部署を超えた業務協力・社内勉強会の登壇などの「他部署貢献」に該当するものがあります。
これらはすべて「ミッション」軸の評価に組み込まれ、これまでボランティア的に活動していた「組織貢献」の動きがしっかり評価されることになります。
何より、人の「育成」こそが大きなミッション目標の一例になりますが、成果主義、個人主義に振り切ってしまうとセルフマネジメントの色が強くなり、チーム主義や他者貢献が薄れてしまうことは明白なため、ここに早期に手を打った、という背景です。
これが、チーム主義を重んじる、私たちのカルチャーに合わせた新評価制度の中身です。(更にどんどんブラッシュアップしていく予定です。)
評価制度は本来、従業員の能力や会社への貢献度を評価するためのもので、目標の持たせ方から評価の仕方まで、工夫次第で戦略的に事業推進に活用できる制度の一つです。
そして、社員の才能を開花させ、長く活躍してもらうためにも、評価者と被評価者双方の「納得感」や「透明性」が極めて重要です。
多くの企業の人事が、「退職率」を一つのKPIにしていると思いますが、個人的には、全体の退職率を注視していくことも大事ですが、その中でも特に、優秀な人、辞めてほしくない人、辞めてしまうと業績的にも組織的にも影響が大きい人の退職率をKPI化し、最小限に抑えていく打ち手を考える必要があるのだと思っています。
その点において、優秀な社員が辞めていく理由を、ハード面、ソフト面双方から把握・検証する必要があると思いますが、一般的には「評価不満」「給与不満」を理由に挙げる人が多いです。もう少し前向きな理由を告げて辞めていく人も、深掘ってみると実は根底には評価や給与に対する不満が大きかったという事象を、人事担当の方はよく経験しているのではないでしょうか。
冒頭の記事にもあるように、リモートワークが定着しつつある今、従来は見えやすかったお互いの仕事状況が、一気に見えにくくなる「リモートによる不可視化」状態が起こっています。
これまで見えていたものが急に見えなくなるのは、人間の心理的にも“不安”が募りやすいのではないでしょうか。
これは、管理職側が部下の仕事ぶりを把握しにくくなった不安と同様、上司に自分の仕事ぶりが伝わっているかどうか、しっかり評価されるのかどうかという不安が、部下側にもつきまとうのではないかと思います。
このリモートワークによる「不可視化」状態により、オフィスという同じ職場で顔を合わせて仕事をすることで評価されてきた従来の評価制度の再考が求められていることは理解しているものの、何をどう変更すれば良いかわからないという声も多く聞かれます。
具体的には例えば、リモートワークが前提となると人事評価に必要な情報が従来に比べて断片的になるため、今の人事評価の項目の中で、何がリモートワークによって把握しづらくなるのかをまずは可視化し、評価項目から外していく、またはプライオリティを下げていく、などの動きが必要かもしれません。その上で、何を新しく評価項目に入れていくべきかを考えてみるのはいかがでしょうか。
成果主義に振り切って定量的な成果のみを評価する、業務プロセスを評価する、行動を評価する、目標管理制度(MBO)を徹底するなど、様々な評価の形がありますが、これらに正解はありません。
大事なことは、それぞれの会社に合った評価制度を新しく構築し直し、評価基準を明確化し、その基準を導入した背景が組織内でしっかり共通認識として浸透していく仕組みを作ることです。
そしてその評価制度が、従業員の能力を最大限発揮し、業績につながるものになっているかどうかのチェックを継続的に行っていくことではないでしょうか。
評価制度の再構築一つだけでは、大きな業績向上がすぐには見込めないかもしれませんが、「たかが評価制度、されど評価制度」です。
今のような、働き方だけでなく、個人のキャリア意識や、会社と個人の関係性など、大きな変化の波に飲まれている時こそ、会社の基盤やシステム、制度を大きく変えるチャンスでもありますので、試行錯誤してみる価値は十分あるのではないかと思います。