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いま必要なのは、身の回りの「変えない力」に働きかける政策起業家

7月15日、船橋洋一氏率いる一般社団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの主催による「政策起業家シンポジウム」が開催され、「有事に発揮されるPublic Private Partnership」をテーマにしたパネルに登壇する機会をいただきました。平日昼間に、しかもマニアックなテーマでありながら(失礼・・)、全国から約800人もの方が視聴されたとのこと。反響の大きさに驚いています。
たった3時間のシンポジウムではありましたが、ここ数日間の私のモヤモヤを晴らす様々な示唆を与えていただきました。時間の制約上語りつくせなかったことも含めて、書き留めておきたいと思います。

官民連携における相互理解の重要性

我々のセッションのテーマは、「有事に発揮される官民連携」。印象的だったのは、多くの方の口から、コミュニケーションの重要性に言及があったことです。
私も以前、福島原子力発電所事故の対応を分析した際、有事における指揮命令系統(意思決定プロセス)の明確化と関係者のコミュニケーションの重要性を痛感しました。過去の経験に学んでおくことは、次の有事への最大の備えですので、昨日の気づきも含めて書いておきたいと思います。

まず指揮命令系統の(意思決定プロセス)の明確化について。
日本人は「みんなで協力して」「力を出し合って」ことに当たろうとしますが、有事においてはリーダーの指示のもとに、それぞれの役割分担を明確にする必要があります。
誰が、どういう情報に基づいて、どういったタイミングで判断するのか。
こうしたプロセス論を気にしている余裕は、有事にはない、とにかく迅速に・・という声も聞きます。しかしながら、有事こそこうしたプロセス論を軽視してはいけないのです。

足元の政策判断に対する国民の納得を得るためにも、事後検証を行い今後の厄災に備えるためにも、プロセス論を軽んじるべきではないことについて、コロナ対策の専門家会議や原子力安全規制の規制委員会が引用する有識者会合を例に、「有識者会議」はなぜうまく機能しないのかという記事にまとめましたので、ご参照いただければ嬉しいです。今朝の日経にコロナの第二波に備えて指揮命令系統を整理するという動きが報じられていましたが、指揮命令系統の明確化や法的根拠を整備する動きが加速することを期待しています。

もう一つは関係者のコミュニケーションについて。
有事においては時間的・物理的制約もあってコミュニケーションが雑になりがちです。
例えばリーダーが、「これ、誰かやっといてくれよ」と指示を出したとします。誰に頼んでいるのか、いつまでなのか、終わった場合のレポートバックは必要なのか、そうした具体的な指示は何もありません。指揮を執る方も複数の対処を同時に考えねばならない状況に追い込まれていることは痛いほどわかりますが、指示としてはあまりに雑です。
こうした雑な指示でも、平時であれば誰かが察して対応してくれるでしょう。日本の現場力はこうした察する力の高さに支えられているともいえますが、有事にその察する力に期待することはできません。
指揮を執る方は5W1Hを明確に指示し、場合によっては復唱させ、指示が通っていることを確認しなければなりません。有事と平時はコミュニケーションの方法を切り替える必要があります。
同じ組織に属する立場であってもコミュニケーションの仕方を切り替えなければならないのに、官と民という、普段使っている言葉やバックグラウンド、行動のスピード感が大きく異なる存在が協調しようと思えば、コミュニケーションに相当気を使わねばなりません。繰り返しになりますが、有事においてはお互いに「ちゃんと伝わっているか」を確認する意識を持たねばなりませんし、望ましいのは平常時から関係者がコミュニケーションを維持しておくことでしょう。

政策起業家のコミュニティとして立ち上げられた、PEPのような場はそうした点でもとても大きな意味を持つと感じました。このプラットフォームが拡大していくことで、わが国の有事におけるコミュニケーションが少しでも円滑にいくことを期待しています。

コミュニケーションという観点から言えば、リーダーの説明能力ということも話題になりました。政策効果を高めるためには国民理解の醸成が欠かせません。これはコロナ対策でも多くの方が実感したことでしょう。政治的リーダーの負うべき責務の半分は、政策の意義を国民に分かりやすく伝える、ということであり、残念ながら日本はこの点はまだまだ改善の余地があるのだと思っています。
台湾のIT担当大臣オードリー・タンさんのすごいところは、という質問に対して、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関さんが即座に「わかりやすく政策を説明できるところ」と回答しておられたのがとても印象的でした。
わが国の政治リーダーも行政の方も伝える努力をしていない訳では無いのに、うまくメディアに取り上げてもらえないというジレンマも伺いました。「政策の未来とメディアの役割」のセッションを昨日伺うことはできなかったので、配信で議論を伺いたいと思います。

自分で変えよう 自分が変わろう

政策起業家というと自分とは縁のないこと、余裕のある意識高い人たちがやること、と思った方も多いかもしれません。ただ、私は全くそんなことはなく、皆さんも生活の中でいろいろなことを変えられると思っています。
確かに、政策や規制を変えるというのはある意味最終形かもしれません。ただ、政策や規制が変われば皆さんの生活が変わるか、と言えば実はそうとも言い切れません。政策や規制改革は社会に実装して初めて意味を持つのであり、その実装に私たちが果たす役割も大きいと思っています。
具体的に申し上げましょう。例えば私が委員として参加させていただいている規制改革推進会議では、様々な規制緩和や提言を行っています。このコロナを受けて急きょ、オンライン診療や投薬、押印や原本の廃止についても提言しました。でも、生活の中でそれほど変化を感じていないという方も多いのではないでしょうか。
政策や規制は既に変わっているのに、その変化を実感できないのはなぜかといえば、皆さんの身の回り、例えば直属の上司や取引先の中に、従前のやり方を変えないことに固執する方がいるからです。
身の回りのそうした「変えない力」に対して、なぜ変えないのか、何を守ろうとしているのかを一つ一つ質していくことが必要です。それは誰でもできる、「政策起業家」としての活動だと私は思っています。
皆さんが社会変革を自分ごとと捉えて、いまの当たり前を見直すと、相当の社会変革が進むと思っています。逆にそれをしないことは、無意識に、無邪気に現状維持に加担してしまうことでもあると思っています。
Small changes make a big difference.
政策起業家を遠い存在だと思わず、ご自身の問題意識を周りに伝え、実現するために具体的な行動を起こしていただければと願います。

ただ、最後に念のため申し上げたいのは、SNS等で政策や関係者の批判をしたり、持論を展開することは「具体的な行動」では全く無いということ。そういう「言うだけ番長」は往々にして考え方も偏っているように感じています。

有能な政策起業家を1人産むことも大事ですが、800人の「ちょっと行動できる人」を産むことの方が、社会を変えていく原動力としては強力だと思います。今回のこのシンポジウムがそのきっかけになることを確信しつつ。

この機会をいただいたことに感謝を込めて。



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