コロナ禍での逆張り戦略 なぜGoogleはニューヨークにオフィスを買ったのか
今日はコロナ禍における「逆張り」ということについて考えてみたいと思います。
先日、Googleがニューヨーク市内に2,300億円もの大金をかけて、オフィスビルを購入するというニュースがありました。これについてTwitterで以下のようにコメントしたところ、結構な反響を頂きました。
コロナ禍の状況になって、感染を避けるために「都市から地方へ」という流れが世界的に強くなっています。日本でも地方移住や2拠点居住のニュースでもちきりです。このトレンドに沿った決定をするのは「順張り」と言えるでしょう。
しかし、Googleが購入するビルは、マンハッタンのイーストヴィレッジにあります。ここは世界でも最も地価が高いといっても良いくらいの中心地で、ファッショナブルであり、トレンドの発信地と言っても良い地域です。都市から地方へという流れからすれば、正反対の方向性であり、「逆張り」と言ってももよいでしょう。
それでは、なぜGoogleはこんな都心にオフィスを購入したのでしょうか。そして、それは長期的に何を意味するのでしょうか。
なぜGoogleはNY市内にオフィスを購入したのか?
こうしたパンデミックの最中に、ニューヨーク市内にオフィスを開設したのはGoogleだけではありません。FacebookやAmazonも、同様にマンハッタン市内に新たにオフィスを設け、多くの従業員が働けるようにしています。
ただし、いずれの企業もすぐに全ての従業員が、週5日間オフィスに出勤することは想定していないでしょう。Googleも"Return to office"(オフィスに戻ろう)という方針は2022年まで延期するとしています。
それにもかかわらず、なぜこれらの企業は大都会にオフィスを設けたのでしょうか。ニューヨーク・タイムズが伝えたところによると、GoogleのCFOであるRuth Porat氏は「ニューヨークのエネルギー、創造性、ワールドクラスの才能ある人材」を理由に挙げています。
さらに、コロナ禍で都市から地方へという動きが活発になる中で、賃貸料が下がったり、空室率が上がってオフィスを探しやすくなったという事情もあるでしょう。現在はかなりオフィス需要が戻ってきているようですが、一時的に不動産市場が低迷したことで、交渉がしやすくなるといったことはあると思われます。
Googleは元々このオフィスをリースしていたようですが、購入に至ったのは交渉しやすいタイミングだったということもあるかもしれません。
都市の「意味づけ」が変わりつつある
その一方で、私はもう一つ別の側面を考えたいと思います。それは、都市の意味合いが変ってきている、あるいは、変わらざるを得なくなってきているということです。
これまで、オフィスに出勤するのは、同僚とコミュニケーションが取りやすく、円滑に働けるからだと思われていました。ところが、パンデミックによってテレワークで働いてみると、意外と問題なくできる、ということが明るみに出たわけです。
もちろん、つながりの弱い同僚とのコミュニケーションが薄まるといった課題も指摘されているのですが、対面におけるパワハラなどを考えれば、どちらが良いか分かりません。
ただし、時々は対面で顔を合わせたり、イベントに参加したり、食事を共にしたりといった活動をしなければ、新たな人脈を作ったり、会話から新しいアイデアを着想するといったことは難しくなる可能性もあります。
企業としては、競争力を維持し、高めていくためには、こうしたことも必要だと考えるのも自然なことです。ところが、上記のように日常業務ではテレワークでも困っていないため、よほどの理由がなければ社員はオフィスに来てくれないでしょう。
そこで、都市の出番です。
ニューヨーク、Lower Manhattanの煉瓦造りの家々。きらびやかな高層ビル。華麗なファッション。アン・ハザウェイのサクセスストーリー。ブロードウェイ。ヤンキースタジアム。夜景。ジャズ。
つまり、オフィスに来るには、ワクワク感、ときめき、夢、可能性、癒し、といった普段は感じられない、感性に訴える理由が必要なのです。先のCFOの言葉にも、「エネルギー」や「創造性」など感覚的な言葉が使われていますね。
もはや、仕事を「回していく」ためには誰もオフィスに来てくれません。そういう意味では、Googleのオフィスは、ニュージャージーでもなく、ブルックリンでもなく、マンハッタンである必要があるのです。
つまり、都市の役割は「人の感性を刺激する」ことに変わったのです。
効率性を上げるのがこれまでの都市の役割でした。しかし、仕事をするだけなら、郊外でもできる。地方でもできる。コロナ禍を契機として、都市はその存在意義を変えつつあるのです。
都市の「意味のイノベーション」
これは、都市の「意味のイノベーション」とも言えるでしょう。テクノロジー革命の真っ最中に、パンデミックという、人類史に残る大事件が起こったことで、都市の意味そのものが変わりつつある
意味のイノベーションは、これまでの機能の役割を見直すという点ではデフレーミングにも通じるものがあります。
今回のパンデミックは、あらゆる場面で深く、大きな影響を及ぼしています。場合によっては、「元に戻る」ことはなく、不可逆的な「意味のイノベーション」を生み出す可能性があり、それは「都市」や「地方」、「オフィス」といった、私たちの基本的な生活インフラにまで及んでいるのかもしれません。
つまり、これからの戦略を考えるためには、単に順張りか逆張りかだけでなく、我々を取り巻く環境の「意味」がどのように変わりつつあるかもあわせて考えていく必要があるのではないでしょうか。
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