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インフルエンサーで売る時代は続くのか?「会社員インフルエンサー」の可能性とこれからの消費

「インフルエンサー」と呼ばれる多大な影響力をもつ著名人たちが、消費者の購買行動に大きく影響を与える状況がここ数年続いてきました。

SNSやYouTubeなどで多くのフォロワーをもつインフルエンサーの中には、「企業案件」として、報酬をもらって商品を紹介している人たちもいます。

そのような中、企業は社員に自社商品をSNSで発信させるようになり、それが思わぬ形で人気を呼んで、社内にインフルエンサーを抱えるケースも見られるようになりました。

これらの「会社員インフルエンサー」と呼ばれる人たちの中には、月商8000万円、1投稿600万円という売上実績をあげる人も出てきています。

消費者の購買意欲を掻き立て、経済を活性化させるきっかけとなる「インフルエンサー」は、今後どう変わっていくのか? そして、今注目される「会社員インフルエンサー」の可能性とこれからについて、お2人の専門家を交えて考えてみたいと思います。

中小規模のブランドや作家にプラットフォームを提供し販売支援をしているKATALOKooo(カタロクー)代表の翠川裕美さんと、世界中にファンをもつ原宿発のスニカーセレクトショップアトモスディレクターの小島奉文さんにお話をお伺いします。

聞き手は、日経新聞の大岩佐和子編集委員兼論説委員が務めます。

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◇        ◇        ◇

1.今、インフルエンサーに何が起こっているのか?

ー大岩編集委員
インフルエンサーという言葉が登場してからすでに10年以上が経っていますが、ここ最近では「会社員インフルエンサー」の登場など、ずいぶん状況が変わってきたように思います。

翠川さん
インフルエンサーについては、フォロワー数に注目が集まりがちですが、「どのような人に対して、どのような内容を発信しているか」を見なければ、最近の状況はわかりづらいと思います。

私がインフルエンサーを簡単に整理した図があります。

この図は、横軸が「発信しているアイテムが自分のものか他人のものか」、縦軸が「発信の対象が1人か大衆か」、を表しています。

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ー大岩編集委員
インフルエンサーと言えば、これまでは左上の「タレント」に当てはまるような、著名人が大衆に向けて発信するスタイルでしたが、個人がSNSで発信するようになったり、コロナの影響でオンライン接客・ライブコマースが広がったりしたこともあり、さまざまなタイプのインフルエンサーが登場してきましたね。

翠川さん
そうですね。変わってきたのは図の縦軸で、従来型のインフルエンサーの場合、大部分が「1対n」で、このnは「数十万人」以上という規模でした。

ところが最近では「1対100」「1対1000」という規模のインフルエンサーもたくさん出てきていますし、個人に特化したサービスを提供する「1対1」の接客を行う販売員などにもインフルエンサーが出てきています。

ー大岩編集委員
「企業が宣伝・広告するものを信用できない」という消費者は多いと思いますが、それと同じように、従来型のインフルエンサーがSNSで発信する情報に懐疑的な人も増えてきているのではないでしょうか。

翠川さん
そういう人が一定数いることは感じます。だから私はいつも、「インフルエンサーマーケティングは怪しいことをやっているのではない、いいものを適切に広めていくためにやること」と伝えていく必要があると思っています。

インフルエンサーが炎上するケースで一番多いのが、他社コンテンツを紹介するとき、報酬をもらっているのにもらっていないふりをしていた、というものです。

先ほどの図の横軸には1つ条件があって、自社であろうと他社であろうと「自分が本当にいいと思っているものを紹介していること」が重要です。それができていれば、報酬をもらって他社コンテンツを紹介するような従来型のインフルエンサーでも、成立していると思います。

ー大岩編集委員
小島さんはご自身も8万人以上のフォロワーをもつインフルエンサーですが、アトモスでは社員の方も自由にSNSを使って情報発信をしていますよね。

ー小島さん
基本的にみんな自由にやっていて、自社商品以外を投稿しても、まったく問題ありません。会社からコントロールされているわけではなく、自発的にやっています。

翠川さん
「会社員インフルエンサー」のいいところの1つに、自社コンテンツを発信しているので、消費者に不信感を与えずにすむということがあると思います。

ただ、みんなが小島さんのような発信ができるかと言うとそうではないので、そこには別の課題が出てくると思います。

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2.「会社員インフルエンサー」はなぜ注目されるのか?

ー大岩編集委員
小島さんが情報発信をする際に、具体的に気をつけていることや大切にしていることはありますか?

ー小島さん
自分の好きなものだけを投稿しています。ただ、いろいろなメーカーさんと話すので、入ってくる膨大な情報の中から、トレンドを予測して流行のものを投稿することもあります。

流行を追いかけつつ、自分の好きなクラッシックなものも投稿する、そのバランスが大切だと思っています。

ー大岩編集委員
SNSでの発信は、実際の売り上げにどれくらい直結するものなのですか?

ー小島さん
1日で億単位で売れることもあります。これはスニーカーの市場が大きいこともありますし、そこにしっかりと仕掛けて売った場合の話ですが。

僕のSNSは、スニーカー好きのマニアの方がたくさん見てくれていて、僕らとお客さんが近い関係にあると思います。「お客さんの顔が見えている」状態で、コミュニケーションを大事にしていますから、そこにマッチしたものを出せばそのくらいの規模では売れていきます。

ー大岩編集委員
量販店が大きく宣伝・広告を打つ一方、アトモスは広告費がゼロであることが最大の特徴で、これはとてもすごいことだと思います。

ー小島さん
自分たち自身がメディア化しているところがあって、ここは量販店さんと大きく違うところだと思います。自分たちの強みだと思っています。

うちにはうちの、量販店には量販店の、それぞれに良いところ悪いところがあると思いますが、ときどきインスタグラムを使えば勝手に売れていくと思っている企業さんがいて、それは違うかなと思うことはありますね。

ー大岩編集委員
小島さんのような「会社員インフルエンサー」を、企業は育てることができるのでしょうか?

翠川さん
SNSはどれだけ数を打てるかが勝負のところもあるので、「質のいい投稿を毎日しなさい!」と言われてできるものではないと思います。できない人に無理やりやらせるのではなく、できる人を見つけて伸ばすということだと思います。

ー小島さん
僕もそう思います。うちも、会社のアカウントを開設していますが、途中で担当者が辞退してしまうケースはあります。

会社や商品のことが好きすぎて、会社に言われなくても勝手に毎日発信しているような人を前に出さないといけないと思います。好きでやっているということが大事だと思います。

ー大岩編集委員
会社員インフルエンサーは今後、増えていくと思いますか?

翠川さん
増えていくと思います。会社員インフルエンサーを生み出すことは非常に難しい、と感じている人が多いような気がしますが、それはフォロワーの数で見ているからだと思います。

例えば、オンライン接客で1000人のお客さんを相手にしている販売員さんが、その1人1人から強い信頼を得ていて、告知した商品をその瞬間に全員が買ってくれれば1000点売れるわけですよね。10万人フォロワーがいても、買ってくれる人が1%もいないなら、この販売員さんより売り上げられません。

「この人が言うなら買う」という密な関係のお客さんが何人いるか、を見たほうがいいと思います。

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3.インフルエンサービジネスはどこに向かうのか?

ー大岩編集委員
報酬をもらって他社コンテンツを宣伝する従来型のインフルエンサーでも、「自分が本当にいいと思っているもの」を紹介しているならば成立していくというお話がありました。

一方で、小島さんのような「会社員インフルエンサー」も増えていく可能性が考えられるわけですが、今後のインフルエンサービジネスはどうなっていくと思われますか?

ー翠川さん
私は1つの方向として、コミュニティ化が進むと思っています。従来型のタレントさんが広告しているような形では、SNSの発信に対して寄せられたコメントに返事を返すようなことはほとんどありませんでした。

今は、インフルエンサーは一方的に発信するだけの存在から、コミュニケーションがとれる相手になっています。関わり方が双方向になり、一方的な発信ではなくコミュニティの中にシェアする、という形になっていくと思います。

小島さん
僕らもお客さんとのコミュニケーションはとても大事にしています。メーカーさんが僕らに求めているのは、お客さんとコンシューマーをつなぐ役割です。お客さんに近い存在でいる必要があると思っています。

ー大岩編集委員
物を買うときに誰かの言葉に影響されるということは、どの時代でも変わらないと思いますが、その「誰か」というのは、これからどんな人になると思いますか?

ー小島さん
やっぱり「信用できる人」だと思います。僕はスニーカーのことしかわかりませんが、逆に、スニーカーのことならかなりのことを知っていると思います。

「スニーカーのことならあいつに聞けばいい」と思ってくれている人から、「スニーカーをプレゼントしたいのだけれどどれがいいと思うか?」という質問がたくさんきます。

僕は友達でもお客さんでも、自分の知っている膨大な情報の中からキュレーションして、宣伝とか広告とか関係なしに、自分が本当にいいと思うものを勧めます。

「スニーカーのことならあいつに聞けばいい」という口コミがどんどん積み重なって、それが信頼になっていったと思います。口コミは広がるときは一気にいきます。僕にも、あるところを超えたところで、爆発的に増えるタイミングがありました。

翠川さん
インフルエンサーマーケティングにいいイメージをもっていない人もいるかもしれませんが、本質的にはこれを手段として「本当にいいものを広げていくこと」だと思います。

その目的を達成するためにインフルエンサーの力を借りる、ということなので、今後いろいろなタイプのインフルエンサーが出てくることで、いいものをより多くの人に伝えることができるようになると思います。私はポジティブに捉えています。

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このテーマについて、日経COMEMOのキーオピニオンリーダーの方たちはどのような意見なのか、最後にご紹介したいと思います。


▼『最後は商品力、だが伝える人(インフルエンサー)の必要性は変わらない』(川端康夫さん:アクティブビジョン株式会社代表取締役)

インフルエンサーによって届けていくことは続くものの、とにかく「商品力が大事」と言う川端さんの投稿。たくさんの人に伝える力をもつインフルエンサーの協力を得ても、そもそもその商品やサービスがよくなければ意味がありません。

▼『「誰もが誰かのインフルエンサー」な時代だからこそ #勝手にアンバサダー のススメ。』(西村創一朗さん:複業研究家)

お金をもらわずに自分の好きなものを「勝手に広めよう」と発信し続けていたら、アンバサダーの依頼がきたという西村さんの経験談。インフルエンサーの力を借りたいと考えている企業が多い中で、これから増えていく形の1つになるかもしれません。

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この記事は2月9日(火)に開催した、オンラインイベント「インフルエンサーで売る時代は続くのか」の内容をもとに作成しました。


翠川裕美さん
KATALOKooo 代表

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【翠川さんのプロフィール】
2004年8月慶応義塾大学環境情報学部卒。在籍中は環境デザイン・メディアデザインを専攻し、デザインプロセスを研究。卒業後、スマイルズ(東京・目黒)に入社。08年イデー(現良品計画、東京・豊島)へ入社し、宣伝販促室でブランド全体の販促企画を担当。16年7月にモンキーブレッドを設立し、新しい時代のカタログを目指す「KATALOKooo」を新規事業として立ち上げる。
・note:https://note.com/midorikawasemi


小島奉文さん
アトモス ディレクター

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【小島さんのプロフィール】
埼玉県出身。文化服装学院を卒業後、スニーカー業界へ。atmosディレクター(現職)を担当し、 数々の別注企画を手掛ける。2016年に開催された歴代ナイキ エアマックスの人気投票で、 自身がデザインを手がけた〈エアマックス1 アトモス エレファント〉が世界一の票数を獲得。 スニーカーのモノ・コト・ヒトに精通する自他ともに認めるキックスフリーク。
・Instagram:https://www.instagram.com/koji198139/


大岩佐和子
日本経済新聞 編集委員兼論説委員

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【大岩編集委員のプロフィール】
1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。MJデスクを経て、2018年4月より編集委員兼論説委員。


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