イノベーションや社員の成長目的の兼業・副業容認と根強い誤解(今朝の「副業2.0」の記事を読んで)
こんにちは。弁護士の堀田陽平です。
土曜日に小石川植物園に行ってきました。小さい頃からよく蚊に刺されるのですが、あっという間に5か所を刺されてしまいました。私が蚊を引き寄せるので家族は無事でした。
さて、今朝の日経新聞に「副業2.0」として以下のような記事がありました。
このような社員の成長やイノベーション創出目的での兼業・副業は今後も推進されるであろうと思われます。
政府としてもイノベーションの創出は目的
経済産業省で兼業・副業の推進政策を担当していた私としても、上記のような目的での兼業・副業の推進は否定するつもりはありません。
働き方改革実行計画では、兼業・副業の効果として、以下のように書かれています。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/01.pdf
また、令和元年度成長戦略実行計画でも、兼業・副業の効果として以下のように書かれていました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf
したがって、このような社員の成長やイノベーション目的は政府の推進政策の狙いにも沿う流れといえます。
よく聞かれる「非正規にも認めないといけないですか?」という声
ただ、上記のような社員の成長やイノベーション目的で兼業・副業を認める企業の方から聞かれる声として多いのは、「パートやアルバイト、契約社員にも認めないといけないでしょうか?」というものです。
その真意を深掘って聞いたことはないですが、おそらくは「企業の中核を担う正社員に上記のような目的で兼業・副業を認めることは、本業企業へのリターンが大きいが、非正規社員が兼業・副業をしても本業企業へのリターンが小さい(ない)」ということでしょう。
つまり、本業にメリットのない兼業・副業は認めたくないということだと思います。
兼業・副業は本業にメリットがなくとも禁止できないのが原則
では、そうした「本業にメリットのない兼業・副業」は禁止できるのでしょうか。
厚生労働省の副業・兼業ガイドラインでは、以下の事由がない限りは禁止または制限できないとしています。
個人的には副業・兼業ガイドラインにはいくつかの法的問題点もあると思いますが、上記の点は裁判例に照らした基準であるので、概ね妥当といえるでしょう(上記基準に照らせばQ&Aにある「管理モデルを条件とすること」はおかしいと思いますが)。
これをパート・アルバイトや契約社員について考えてみると、まずパート・アルバイトについては、そもそも労働時間が短いわけですので、労務提供上の支障が生じることは稀でしょう。
さらには、パート・アルバイト、契約社員は、基幹的な業務を行わないことが通常であり、企業秘密に接触するような業務に就くことは少ないといえるので、情報漏洩や競業により利益が害されることも少ないでしょう。
さらに現実的な問題として、パート・アルバイト、契約社員の方が、正社員よりも低額な賃金で働いていることが多く、過重労働の問題はあるものの、現実的には、複数の仕事をかけ持つニーズが高いといえます。
「正社員の兼業・副業認容」が「非正規社員の兼業・副業禁止」にならないように
上記のことから、法的観点からみると、「非正規社員にも兼業・副業を認めないといけないでしょうか?」という疑問は、むしろ逆で「非正規社員の方が認めないといけないことが多い。」というのが回答となります(最終的にはケースバイケースではありますが)。
上記副業2.0の記事にあるような兼業・副業は、「これまで一般的に否定されてきた正社員について兼業・副業を認めるようになった」という意味では、肯定的に捉えることができますし、私もこの動きは賛成です。
ですが、こうした動きが、反対に非正規社員の兼業・副業の間口を狭めるような動きにならないように留意する必要があります。
希望する人が希望のとおり兼業・副業できることが大切
忘れてならないのは、令和元年度成長戦略の以下の記載でしょう。
つまり、兼業・副業には様々なメリットがありますが、重要であるのは「希望する人が兼業・副業をすることができる」ということでしょう。
その意味では、「希望していないが収入の観点からやらざるを得ない人」との解消も長期的には課題です。
「非正規には禁止してよいか?」の疑問の根底にある誤解
そもそも、「非正規社員には禁止してよいか?」という問いがくることは、未だに「兼業・副業を認めるか否かは企業に裁量があって自由に決められる」という誤解が根強いことを示しているでしょう。
私がこれまで別の記事でも書いてきたように、兼業・副業はそもそも原則として自由であって、企業が自由にその許否を決めることができるものではなく、企業にメリットがあるものだけを認めることなどできません。
そもそも、「副業解禁」などというものの、これまで民間企業において兼業・副業が禁止されたことは法的にいえば一度もないのです。
「副業2.0」という形で兼業・副業が進んでいくことは歓迎すべきですが、こうした法的な考え方を十分に踏まえておく必要があると思います。
【参考】