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メタバースと「コミュニティ」 〜メタバースで押さえたいポイント②

お疲れ様です。メタバースクリエイターズ若宮です。

前回からメタバースについて連載で書いていますが、その2回目です。今日はメタバースと「コミュニティ」について書いてみます。


「ハコ」をつくるだけではだめ

前回、メタバースの重要なキーワードとして「UGC」を挙げました。

また、企業が一方的にコンテンツを提供するタイプのメタバースは、web1.0時代のコンテンツのようなもので、ユーザーがすぐに飽きてしまう、と述べました。それに対して、ユーザーが自分たちでメタバースを創造し、遊び方を発展させられる2.0型は長期間楽しむことができます。このようにユーザーが自発的に遊び方を生み出していくというところは、今日の「コミュニティ」の話ともつながってきます。


メタバースで最もよく言われる課題が、「過疎る」ケースでしょう。メタバースでは「ハコ」をつくるだけでは盛り上がりません。僕もかつてドコモ時代に新規事業をやっていて何度も経験したことがあるのですが、企業が新規事業をやる際、場をつくれば勝手に人が集まってなにかが起こる、という幻想がある(「プラットフォーム幻想」と呼んでいます)のですが、実際は場をつくるだけでは何も起こりません。

「場」というのは静的ではなく、動的なものとして考えなければいけないのですが、そこで重要になってくるのが「コミュニティ」です。


ここ数年、「コミュニティ」という言葉を耳にする機会は大きく増えました。企業が「コミュニティ・マーケティング」に取り組んだり、「コミュニティマネージャー」という職業もだいぶ市民権を得たように思います。

これには社会的な変化もあります。デジタルの力によって情報の流通性が高まり、他方で変化のスピードが増してVUCAの時代とも言われる中、組織もウォーターフォール的で中央集権的なものからアジャイルな分散型を志向し、いわばより「コミュニティ」的になっています。

これはメタバースに限らず、物理世界における「まちづくり」でもそうした傾向は顕著です。20世紀は「まちづくり」というと大規模なハコモノを建てる「ハード・ディベロップメント」でしたが、コトや人々のつながりをつくる「ソフト・ディベロップメント」がますます重要になってきています。


「コト」がトップダウンではなくボトムアップで起こる

そして、「コト」づくりもさらに変化しています。

以前は「コト」といえば集客イベントがメインでした。「呼びもの」キラーコンテンツや人気の「スター」を呼ぶことで人を集める。

これはいわば、「トップダウンのコトづくり」です。↓の一番左の図のように、

構造としては1vs多のブロードキャスト型です。ここに「スター」を連れてくればたしかにその時には多くの人が集まります。しかしこれはある意味ではつながりとしては一方向的で、「スター」がいなくなれば人も集まらなくなってしまいます。


ブロードキャスト型では本質的には参加者は「受け身」の「ゲスト=お客様」に留まるからです。「お客様」は与えられるのを当然と考えます。

これに対し、トップダウンで「用意されたものを消費する」だけではなく、ボトムアップで参加者自らが「コト」に関わったり、「コト」を生み出していくのが「コミュニティ」です。この時、参加者は「ゲスト」ではなく「メンバー=一員」です。

まちづくりについても、以前は「観光」で「集客」するのが主で、人が来てくれるような目玉となるイベントや施設を持つまちに人気が集まっていましたが、ここ最近はそれほど大きな目玉がないまちが盛り上がって来ています。用意されたものではなく、むしろ「まだない」ところにまちの内外から面白い大人たちが集まり、自らコトを、まちを作っていく


住民が自治体がサービサーで自らをお客様と捉えるのを超えて、作り手としてボトムアップにコトを起こすようになると「コミュニティ」は活発になります。

これはメタバースでも同じです。「ハコ」や場を用意するだけでなにかが起こるわけではありませんから、人が集うような「コト」を提供することは大事です。しかしその先があります。「コト」をトップダウンで提供者側が用意するだけではなく、参加者が自ら何かを起こし、ボトムアップで自発的に「コト」が生まれてくるようになると最高です。この段階になってはじめて、本当の意味で場があれば勝手に人が集まってなにかが起こる(起こりつ続ける)、という状態になるのです。


コミュニティ化を促進する3つの方法

「コミュニティ」は「つくる」のではなく「できる」もの、とよく言われますが、コミュニティ化を促進することはできます。メタバースでも、ユーザーが継続的に楽しみコミュニティ化している事例をみてみるとたとえば下記のようなコツがあります。

①少人数で一緒に遊ぶ

一つ目は、「少人数で一緒に遊ぶ」体験です。この「少人数で」というのがポイントで、一人でも大勢でもコミュニティ的にはなりません。

メタバースを始める時にも、一人で入って誰とも話さずに一人遊びだけして終わるとあまり定着しません。僕が始めた時もそうでしたが、初体験の時や開始後しばらくの間、メタバースを遊ぶ時やイベントに参加する時に数人の友達と行くとより楽しめ、居場所になりやすいはずです。

また一方で、人数が多ければいいかというと、そうでもありません。メタバースの多数の人が集まるイベントに参加した時、そこにたくさん人がいても誰とも話さずに帰ってしまうことがよくあります。

僕自身イベントをする時にも心がけていますが、イベント時には短い時間でも「少人数で話す」きっかけをつくることも大事です。もしくはまさに「コミュニティマネージャー」のようにスタッフが人と人をつなげる役割をするとよいですね。

②日常化・習慣化

二つ目のポイントは、「日常化・習慣化」です。VRChatの中でも、毎週や毎日定期化したイベントが多くあり、参加が習慣化していくと、顔見知りができて徐々にコミュニティ化していきます。たとえばこんな「Questラジオ体操部」みたいな感じですね

誰でも入れる「チュートリアルワールド」という空間で、ひとりでラジオ体操するようになった。それが口コミで広がり、徐々に参加者が増えていった。これが発展し「Questラジオ体操部」に。現在では複数のインスタンスをまたいで、日々50~60人のユーザーが参加している。4年ほど前に開始してから、今まで休止したことはない。

「日常化・習慣化」のポイントは、それが必ずしもつくりこまれたリッチなコンテンツでなくてもよいところです。例えば、VRChatのお友達で新arataさんという方が始めた、「深夜0時に落ちます終会」というのがあります。

記者:早速ですが、「深夜0時におちます終会」について教えてください。
新 arata:はい、この集会は「日付が変わる瞬間をみんなで一緒に迎えよう」という集会です。いわば、年越しのカウントダウンを毎日行っているような集会だと思ってもらえれば。

(中略)

新 arata:「0時になったらワールドが爆発する」です。

(中略)

記者:みんなに受け入れられたポイントはどこだと思いますか?
新 arata:毎晩23:45に「時報ジホジホ公民館」に行けば、フレンドに会える。これが長続きした一番の理由なんじゃないですかね。帰ってこれる実家のような集会です。

このイベント(?)は0時の少し前に集まって00:00をみんなで迎えて解散する、というコンテンツとしてはとてもシンプルなものです。しかし特別なことをしなくても、毎日集まると、その習慣自体がコミュニティを形成していきます。


③共通の関心軸で絞る

三つ目は、ファンや同じ趣味など、共通の関心軸で集まることです。

同じアイドルのファンや同じ県出身の人など、切り口はどんなものでも構いません。特定のテーマで集まることで、関心が近いために話が盛り上がりやすいですし、ニッチなトリビア含めて話題がどこまでも深まっていきます。そしてじゃあなにかやる?という話もでやすいのでコミュニティになりやすくなります。

大事なのは「絞る」ことです。みんなに来てほしいからと「誰でもOK」にしてしまうと薄まってしまい、集まる理由や話す必然性がなくなってしまうからです。絞られているからこそ、はじめての人でも話す必然性が生まれ、つながりが生まれます。


コミュニティとweb3

僕はメタバースがこれからさらに盛り上がるためには「日常化」が大事だと思っています。

メタバースが「何か目的がある時にだけ入る非日常」だとすると、それは結局ツールにすぎないからです。

インターネットやスマートフォンも、最初は目的がある時に使うものだったかもしれませんが、今では「日常」になっています。

よく「何のためにメタバースをするの?」という質問がありますが、メタバースに住んでいる人にとっては特別な目的というより、そこが「日常」になっているんですよね。

SNSとかも、最初は使ったことがない人は「わざわざインターネットでまで知らない人とつながるの?出会い系?」みたいな感じだったかもしれませんが、今では人とのつながりはリアルでよりもオンラインの方がはるかに割合として大きくなっていますよね。


今後メタバース人口が増えると加速度的に、物理世界だけでなくメタバース内での友達やコミュニティ、社会が形成され、ソーシャルの比重がメタバースにうつり、ますます日常的にメタバースにいる時間の割合が増えてくるでしょう。Vision PROはインターフェースとしてたしかに素晴らしいかもしれませんが、デバイスの普及以上にメタバースの中にコミュニティ的なつながりが増えることがメタバース普及のカギでしょう。

企業がメタバースを活用したい場合も、「コミュニティ」という観点をもっているかどうかが重要だと思います。


そしてコミュニティとして盛り上がると、その先にNFTやトークンのようなWeb3.0技術がメタバースとの融合で本来の能力を発揮すると考えています。

例えば、クリエイターのファンがトークンを購入して創作を支援し、新しいコンテンツを作れ、その人気があがればトークンの価値が上がり、コミュニティ全体にとってプラスになる。そして同じトークンを持つことで、ファン同士がさらに結びつくことができます。

NFTやweb3は、その技術的な指向性からもコミュニティ的なのです。そこではユーザーは「お客様」ではなく「メンバー」です。


やや一服してきた感もありますが、NFTやweb3に関心を持っている人は現状ではまだまだ「投機的」な関心である側面が強いかもしれません。「投機」というのは「安く買って高く売り抜ける」のが行動原理であり、最初から「売る」こと、つまり参加よりも出口のことを考えている。これはトークンによってコミュニティのメンバーになり、ファン同士つながるのとは真逆のマインドセットなのですよね。(なのでメタバースクリエイターズでもweb3やトークンエコノミーの可能性は感じていますが、一定投機的な人がいなくなってから取り組みたいと考えています)


メタバースにおいても、その先のWeb3.0においても「コミュニティ」は非常に重要なキーワードなのです。

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