米ディズニー戦略変更、『君たちはどう生きるか』Gグローブ賞、韓国K-POP事務所再編から見える【2024年のエンタメビジネス】
アニメ・漫画などのエンタメビジネスをアップデートするスタートアップ、株式会社MintoのCEOの水野です。
昨年末は、日本のエンタメビジネスの新たな流れやスタートアップの記事を書きました。2024年1発目のコラムでは、視野を日本の外に広げて、米国・韓国の視点からエンタメビジネスを切り取りつつ、日本のエンタメビジネスへの影響や連携方法なども考察してみたいと思います。
① ディズニーの戦略変更と『君たちはどう生きるか』のゴールデングローブ受賞は表裏一体
2020〜2022年迄のコロナ禍の状況下、映像コンテンツの流通は大きく変化しました。映画館へお客さんが足を運ばない中で、米国のネットフリックスやAmazon Prime Video等の動画配信サービスが世界的に急成長し、ディズニーも映画配給ではなく、自社のプラットフォーム「Disney+」へ経営資源やコンテンツを集中させました。その結果として2019年11月にスタートした「Disney+」は、ディスニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ作品などを独占配信し、2022年9月末で1億6240万人のユーザー数に急激に成長。経営戦略としてはプラットフォームビジネスに完全に舵を切り、万全のように見えましたが….
コロナ禍が落ち着き始めた2022年になると、米国を中心とした景気後退の煽りも受け、会員数の伸びよりも4半期で15億ドル(約2,100億円)の部門赤字と、先行投資(コンテンツ制作や広告費等)に対しての回収プランへの懸念が強くなります。そして、CEOのボブ・チャペックはその責任を取り退任し、2023年にボブ・アイガーがCEOに復帰。就任以来、早速経営のバランスを取る施策を打ち始めています。
・Disney+の黒字化の施策(制作費の制限や月額プランの値上げ)
・Disney+以外の動画配信サービスへのコンテンツライセンス(マーベルやピクサー、スター・ウォーズのようなメジャー作品を除く)
・Disney+のみで配信していたコンテンツの映画公開(ピクサーの「ソウルフル・ワールド」「私ときどきレッサーパンダ」「あの夏のルカ」)
とはいえ、2023年の戦略変更は、結果が出るのは2024年以降。それを示すかのように2023年の映画市場からはディズニーの存在感は薄れていました。
象徴的なのがスタジオ別の北米の興行収入ランキング。ディズニーは、2015年以来の続いていた首位の座を『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』などがヒットしたユニバーサル・ピクチャーズに明け渡し2位に。ハリウッドでの全米脚本家組合と全米映画俳優組合のWストライキなどの影響もあるようですが、やはりディズニーとして「Disney+」に経営資源を投下したという背景も大きかったのではないでしょうか?
このマーケットの変化によって(映画館のスクリーンが空き)、直近では、『ゴジラ -1.0』『君たちはどう生きるか』などの日本の映画が興行されやすい状況を作り出したともいえます。
そして、2024年1月7日に発表されたゴールデン・グローブ賞では『君たちはどう生きるか』がアニメ映画賞を受賞!作品のクオリティや元々のジブリ作品へのリスペクトに加えて、日本アニメへの注目度の増加も背景にあったのではないでしょうか?日本アニメのゴールデングローブ受賞は初めてで、3月のアカデミー賞の受賞への期待も高まります(ジブリ作品が米アカデミー賞を取れば『千と千尋の神隠し』以来!)
北米に限らず、世界の映画興行でも、2022年〜2023年は日本のアニメ映画の当たり年で、22年6月公開の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は国内の興行収入が25億円、全世界では国内を大幅に上回る138億円を突破。
同年8月公開の『ONE PIECE FILM RED』は国内で197億円の興行収入、全世界では319億円に達しました。その後も『すずめの戸締り』(国内147億円、全世界475億円)、『THE FIRST SLAM DUNK』(国内155億円、全世界300億円超)など、日本発のアニメ作品が世界を席巻しています。
また、前述したゴールデングローブ賞の受賞作品を見ると、アニメ作品に限らず、Netflix、AmazonPrime Video、Disney+の作品のゴールデングローブ作品賞の受賞はありませんでした。結果的に映画館で上映された作品が評価されたことになり、これも米国の2023年の映像コンテンツ市場を象徴していると思います。
2024年も米国では、引き続き、映画か、動画配信サービス向けの映像コンテンツがエンタメの中心にあると思います。そしてこれらの流れは、日本のアニメブームが継続するか=日本のIPが広がるか?という部分でも重要な要素になってくると思います。
つまり、この2年は、自力だけでなく、北米の映像コンテンツ市場の流れが追い風に働いた可能性があります。一方で、ここからは、状況を予測しながら、戦略的に仕込んでいく必要があると思います。
アニメ「推しの子」が、動画配信サービスで世界へ広がり、主題歌のYOASOBI 「アイドル」も国境を超えたヒットになったように、映像だけでなく、音楽、グッズ、イベント、ファンコミュニティなどのIP経済圏に対して、どう戦略をたて、マーケティングし、プロデュースするかが、日本のアニメ&IPビジネスが、世界的なトレンドになっていくかどうかの分岐点だと思います。
後述していますが、K-POPや韓国エンタメが示しているように、世界向けのIPプロデュースは、作品の力だけでなく、デジタル・SNS活用を軸にした戦略・マーケティングが必須になります。そういう意味では、日本でもアニメ・IPホルダーとIT企業・エンタメスタートアップとの積極的な融合が求められると思っています。
② K-POP事務所再編は、芸能・IP・IT融合の最先端
2023年、K-POP界に衝撃が走ったSMエンタテインメントに対してのKakaoグループとHYBEによる買収合戦は、結果的にはKakaoグループがSMエンタテインメントの約40%の株式を取得して筆頭株主になり、HYBEも株主として残り、プラットフォームで連携・協力するという形で落ち着きました。
その後、SMエンタ所属の13組が、HYBEの運営するWeverseへコミュニティをオープンして連携が進んでいます。
その背景には、韓国エンタメ企業の危機感があると言われています。
Kakaoグループについては、チャットアプリのKakaoがスーパーアプリ化していく中で、スタンプから派生したキャラクタービジネス(KakaoFriends)や、韓流ドラマの原作でもあり、漫画の新しい潮流のWebtoon(Kakaopage、ピッコマ等)、芸能事務所(STARSHIPエンターテインメント、DAMエンターテインメント等)などを総じてIP(知財)強化の戦略として括っており、さらにグローバル化していくためには、SMエンタのブランドが必要だったと思われます。
SMエンタについては、BoA、東方神起、SUPER JUNIOR、少女時代などで、K-POPブームを作り上げた韓国屈指の芸能事務所ですが、直近では、BTSを輩出し、NewJeansやLE SSERAFIMなどのアーティストも急成長しているHYBEと比較して、売上面では半分程度になっていたようで、独自性は保っていきたいという意向はある一方で、危機感はあったと思います。
HYBEについては、SM、JYP、YGの3大芸能事務所に風穴を開けた新興勢力で、BTSの成功後、他の芸能事務所を傘下に収めることで勢力を拡大してきました。現在は、BTSが活動休止中とはいえ、BTSメンバーのソロ活動や新しいグループの売り出し、また、Weverseなど新しいテクノロジーを活用したビジネス戦略に長けており、拡大戦略の一貫でSMエンタも傘下にいれたいという思惑があったようです。
それぞれの危機感があったとしても、ここまで大きな買収や統合がものすごいスピードで実現してるのは、3社が上場企業として株式を公開しており、資本の論理で再編に動きやすい(逆に言えば強制力がある)という点があるからだと思います。
韓国のエンタメビジネスは、芸能・IT・IP企業の再編や合流が活発化していき、テクノロジー面で言えば、AI、Web3、メタバース等とWebtoonやキャラクター、芸能や音楽などを掛け合わせたビジネスを生み出していくでしょうし、それにより、世界で戦う上での競争力が生まれていくのかと思います。
翻って日本市場を見てみると、芸能事務所では、アミューズやエイベックスが上場していますが、その他の主要な芸能事務所は非上場企業です。そのため、同業の再編や、他業種との再編には積極的になり辛いという状況はあるのかと思います。IPという観点で見た場合も、多くのIPを管理する大手出版社の大半は非上場なので、資本の論理や外圧で再編する可能性は、ほとんどないと思います。
もちろん、非上場企業の利点としては、外圧がないことによる、長期視点の経営が担保され、IPが守られているという点があると思います。一方で、エンタメコンテンツのプロデュースが世界的に新しい時代に突入していると仮定すると、日本でも一定のエンタメ企業再編を行わないと、時代に取り残されてしまう可能性があると思っています。
0からスタートするという意味では、旧ジャニーズ事務所の問題を経て、新たに設立されるSTARTO ENTERTAINMENTが、新しい芸能事務所の形を作れるのかにも、注目が集まりますね。
③ まとめ:日本市場から米国・韓国エンタメとの連携は?
①でも触れた通り、日本のアニメは、動画配信サイトや映画館から、2024年以降もラブコールが増えていくと思います。大事なのは、アニメから派生するIP経済圏を自らどのようにプロデュースしていけるか。そこでは、ただ映像コンテンツを預けるだけでなく、IPホルダーがエンタメスタートアップ等と手を組み、自らマーケティングをすることなども求められると思います。
②の韓国エンタメについては、積極的に協業する事で共にグローバル展開することが求められると思います。サンリオは、11月に開かれた「コンテンツIPマーケット2023」で、辻朋邦社長が基調講演を行ない、K-POPのアイドルNCTとのコラボ事例の紹介や、今後のコラボの可能性の可能性を示唆しました。
かく言う弊社(Minto)も、韓国では2017年頃からKakaoでスタンプ配信を行なっており、人気になったキャラクターのポップアップストアなどを展開して来ました。また、2022年4月には、Kakaoグループのピッコマ社と資本業務提携をし、Webtoon事業やマーケティングで連携をしています。グローバルエンタメビジネスに於いて、米国・韓国エンタメビジネスと密接に連携できるかどうかは、日本のエンタメ企業(既存・スタートアップ共に)の生命線になっていくのではないでしょうか?
ということで、今回は、米国・韓国の視点からエンタメビジネスを切り取りつつ、日本のエンタメビジネスへの影響なども考察してみました。よろしければ、前回の日本から生まれる新たなエンタメビジネスの記事や過去記事もお読みください!ぜひいいね(ハート)もいただけると嬉しいです。