働きたくない新卒と、インターンに臨む企業の変化
サマーインターンの季節が近づいてきました。私もインターン界隈の片隅で動いていますが、今年は各社の抱くインターンへの期待が大きく変わってきているように感じます。今回はこうした各社の思惑について整理をしていきます。インターン実施に向けての意味付けに悩んでいる企業の方や、より納得のいく就活をしたい就活生の皆さんにも参考になればと思います。
従来のITエンジニアインターンについての企業の目的意識
従来から企業がインターンを実施する理由はというと「自社の認知を拡大し、採用目標人数を達成するため」という母集団形成(量)の側面と、「優秀な人材に早期にアプローチし、自社に興味を持ってもらう」という質の側面があります。
特に意欲的に採用活動を行っていた従来のメガベンチャーにおいては、スキルレベルが優先して見られる傾向にありました。スキルレベルは高いほうが優先され、学生のうちにインターンとして実務に関わっていたりすると実務経験ありとして即戦力に近いカウントがなされるため、非常に優遇されていました。サマーインターン期に初めてプログラミングに取り組んだ非情報系学部卒、エンジニア未経験であっても「ITエンジニアになる覚悟が見られる」として優位に立つことができました。
2024年現在の企業が求める人物像と、インターンの実施目的
現在の若手には下記のような2極化が見られます。
能動的に働き、自己成長をしたい人
成長したくない人・極力働きたくない人・言われたこと以外にやりたくない人
企業としては折角正社員採用するからには前者の人を採用したいのが当然です。後者については詳細を後述します。26新卒採用において企業が新卒に求める人物像の傾向をまとめると下記となります。
(上記の)能動的に働き、自己成長をしたい人
事業共感
利他性
チームプレイに価値を感じて行動できる
こうした条件を確かめる手段として複数日のインターンを開催し、厳し目の課題を与え、どのような人物かをチェックするような動きをします。長めに行動を共にできることにより、企業・就活生双方でカルチャーマッチ、スキルマッチが図れることから、本選考よりも互いに利点があります。
成長したくない人・極力働きたくない人・言われたこと以外にやりたくない人はどこから来るのか
各社人事や経営層から寄せられる課題が「成長意欲のない若手」の取り扱いです。下記のnoteは3年前のものですが、ここのところ反響をいただくことが増えており、企業課題になっているように感じられます。ここでは2024年版としてその背景を見ていきたいと思います。
個性尊重教育による出世・リーダーシップ・マネジメントへの興味の欠如
小学校教育の変化、家族の形の変化、バブル崩壊により出世に対する興味がはっきりとなくなっています。それ以前の世代と比べるとチームでの行動機会が減少しているため、リーダーシップやマネジメントに触れる機会も減少しており、それ故に意義を感じる機会も少なかったという背景があると考えています。
コロナ禍によるチームワーク経験機会の損失
2020年3月から始まったコロナ禍では、急速にオフラインからオンラインへの活動へとシフトしていきました。2023年5月のコロナ五類移行まで続いた厳戒態勢ですが、特に4年生大学卒業者では23新卒(2019年4月入学)や24新卒(2020年4月入学)などは大学生活の大半が制限を受けていたと言えます。
コロナ禍では大学教育はeラーニングが進みました。各大学の先生によると座学の効率や出席率は良かったと言われます。しかし先生のITリテラシーや授業内容によってはグループワークがやりにくい環境でした。本noteでも度々ご紹介する下記の本にありますが、授業でのリーダーシップ発揮経験と新規事業を成功させた方の関係性は非常に高いものです。私も経験がありますが、グループワークは「単位が取れれば良い」というマインドの低い人が交じるため、リーダーシップ発揮の観点からも高難易度な部類に分けられるからではないかと捉えています。グループワーク機会が奪われたことは経験の機会としても手痛いものでした。
また、アルバイト、サークル、留学といった王道のガクチカに取り組むことが難しかったことも社会や集団での活動機会を奪っていきました。こうした背景に対し、2023年3月の日立製作所ではガクチカを就活の場で問わない姿勢を取ったほどです。
ある海外の大学教授が仰っていたのは「コロナ禍の3年間により、大学生活で先輩から後輩に伝承されていた文化が途絶えてしまった。先輩後輩の間柄で培われるはずだった社会性がない学生が多く、高校生の延長のようなマインドの学生が残念ながら多い」ということでした。
コロナ禍での新卒入社にも課題が多く残りました。リモートワークによりオンラインでの育成について多くの企業でうまく行かなかったことに加え、オフラインであれば新卒を率先して巻き込めたであろう会社行事などもなくなっていきました。いわゆる帰属意識などを培う前に、疎外感を感じて辞めてしまった方にもよくお会いします。
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用移行への歪み
IT業界などで元々リモートワークが実現しやすい業態であったことに加え、コロナ禍でのなしくずしでのリモートワークの広がりが起きたわけですが、ジョブ型とリモートワークの相性が良いという話もありました。
日本でも広がりつつあるジョブ型雇用ですが、まだまだ過渡期です。ここで結果的に割りを食うことになったのは新卒であったと考えています。
アメリカでのジョブ型の場合、大学が専門性を培う場であることから、大学卒業者は専門職として扱われ、ジョブに応じた正社員契約がなされます。日本であっても専門領域の卒業者であればジョブ型の適応は違和感はありません。しかし特に日本のITエンジニアでは、その新卒の大半が非情報系人材であり、入社後に研修を行い、その後はOJTが続きます。非情報系人材受け入れの裾野が広い、間口が広いという意味では良いことですが、社内駆け出しエンジニアの状態でジョブ型を適用するのは無理があります。
過渡期であってもジョブ型の考え方は広がっているため、ジョブディスクリプション外の仕事が振られたときに「それは私の仕事ではありません」と言う方が一定登場しています。
下記の話題は社内の掃除についてです。社内の掃除については人員の単価を考えると業者を入れる選択もあって良いかと思いますが、これが採用面談などの業務であっても「それって僕の仕事ですか?」と言われることがあります。情シスが居ない環境においての「パソコンの使い方」や「社内LAN」についての質問についても同様の話になります。
個人的には多くの新卒が専門性の確立を入社後暫くしてから実現する日本のIT開発組織の場合、一定のレベルに到達するまではメンバーシップ型雇用として扱うスタイルがバリューを発揮しやすく、本人の専門性の揺らぎやキャリアチェンジを許容できるので汎用性があるのではないかと考えています。
未経験者とエンジニアファースト
多くのエンジニアを未経験層も含めて採用するために「エンジニアファースト」を謳ったケースもまた、苦しい状況に繋がっています。
エンジニアファーストを掲げたSES企業でも、未経験者のアサイン拒否が起きていたり、SIerや自社サービスでもタスクの選り好みの話が聞こえてきており、経営層が往生している話を聞きます。クリティカルな業態のSaaSにおいて、品質担保施策を「自由がない」と拒否する事例なども耳にしました。
当然のことではありますが、顧客への貢献、企業の利益貢献を達成してからでなければ、エンジニアのやりたいことを聞く余裕というものは生まれにくいものです。
初任給の見直しに伴う既存社員からの見え方
採用目標人数を達成したい、優秀な人材を採用したい、物価高への対応など様々な理由を背景に初任給が見直されています。初任給の見直しは実にバブル崩壊以来、30年ぶりのことです。
コロナ禍が空けたこともあり、新卒をオモテナシするような派手な入社式もありました。
基本給が伸び悩んだ30年に対し、急に1年目からまとまった給与アップがなされるように見えるため、既存社員からやっかむ声はあります。既存社員の給与を見直したとしても、気持ちの整理はつきにくいポイントなのかなとは思います。
「役職定年の取りやめ」に見られる事業貢献できる人材についての見直し
先立って「役職定年」を取りやめる企業が増加中というニュースがありました。このnoteでも何度か話題にしましたが、50代などに存在する役職定年を前に転職をする40代なども居られ、(満足のいく転職ができるかどうかは別として)転職界隈がにぎわっておりました。
ここに来て役職定年取りやめとなるあたり、以前は「給与とバリューのバランスが悪い年功序列の社員を切れば良い」という姿勢だった企業が、「給与が高くなってしまっても当座を乗り切るためにスキルや人柄がわかる確からしい人材に残って欲しい」という背景が伺えます。
企業は人がほしいのではなく、できる人がほしいのであって、若手の採用と育成が間に合わないレベルで逼迫している状況が考えられます。
インターンを行うにあたって企業が決意するべきこと
インターンの実施は単に就活の早期化に対応したものだけではありません。また、これまでインターンを実施していた企業にとっても、従来通りのスタンスでは厳しいほどに他社が本気を出してきています。
インターンの実施は金額も工数もかかり、なかなかに面倒ではあります。そこで就活生と良好な関係を構築できたとしても、その繋ぎ止めには1年以上の時間があるため別途施策が必要です。
それ故に「なぜ新卒を採用するのか」「そのためにはどういった新卒を採用しなければならないのか」をしっかりと意識して予算組と人員アサインをしなければなりません。今一度、経営層、人事、現場責任者と合わせて議論し、合意することが重要でしょう。