お金の3法則:物理学の視点から

これまで何回か成長と分配とそのためのお金の話をしました。

今回は、このお金の話を、正確さを失わない範囲で、できる限りシンプルにしたいと思います。そこに、物理学の視点が役に立つのではないかと考えました。

物理学を、「物に関する科学」と捉えている人が多いと思います。

しかし、本来の物理学は、ものごとの理(ことわり)を明らかにする学問です。明治時代に"Physics"が西洋から到来した時の最初の訳語は「究理学」でした。この究理学の方が、物理学の本質をよく捉えていたと思います。

物理学では、多様な現実に対し、それに通底する理(ことわり)を明らかにするために、例外なく成り立つ根本法則を見極めようとします。

この物理学の方法論は、社会や経済にも適用できるはずです(このような営みは、社会物理学や経済物理学と呼ばれます)。

このような視点から、お金(あるいは貨幣)に関する根本法則を明文化したいと思いました。これを3つの法則にまとめました。

 << 貨幣の3法則 >>

・第1法則(貨幣一定の法則)
 融資(借金)を新たに行わなければ、世の中のお金の総量は一定である。
 (融資を除いた経済活動や取引は、お金の総量を増減させない)
 
・第2法則(融資による貨幣増減の法則)
 新たに行った融資(借金)の分だけ、世の中のお金の総量は増える。
 (一方で、融資(借金)の返済の分だけ、お金の総量は減る)

・第3法則(利益と損失の作用反作用の法則)
 経済活動によって誰かが利益を得る時、その分の損失を誰かが負う。
 (利益と損失を合わせると、お金の総量は一定である)

物理学では、対象がいかに多様に見えても、この量に着目すると変化せず、一定であるというものを見つけようとします(この量を保存量、その法則を保存則と呼びます)。例えば、質量が保存することやエネルギーが保存することなどがこれにあたります。この貨幣の法則でも、これに対応するものを確立しようと思ったのです。

実は、この保存則を知っていても、現象が具体的に予測できることにはなりません。しかし、すくなくとも保存則を前提にすると、複雑な現象を理解する時の枠組みが堅牢になります。実は、考えられる多くの仮説や思い込みが、保存則に反するということで即座に否定されるのです。

例えば、先の選挙や選挙後も、「構造改革を通して経済(GDP)を成長できなければ、分配の原資はない」という主張をする政治家や政党やメディアがいます。

GDPは経済の取引が活発に行われたことを示す指標です。経済活動は、利益と損失を同時に生み、お金を再配分しますが、お金の総量を変えません。第2法則によれば、融資を増やさなければ、お金は増えません。従って、GDPが成長しても、融資が増えない限り、貨幣の分配の原資は増えないことになります。融資が止まっていては、分配の原資は増えないのです。

世の中で、もっともらしく話している人が、実は、このような基本すらわかっていないということが明らかになるのです。

さらに、財政健全化の名の下に、政府の赤字を減らすべき、という主張もあります。第3法則によれば、誰かの黒字は誰かの赤字です。従って、政府の黒字化は、国民の赤字化です。政府の赤字を減らすのは、国民のお金を減らす(赤字にする)ことなのです。それは分配を増やすのとは正反対の施策であることが明らかになります。

このように、間違った主張が、この単純な3法則だけで否定されるのです。これは、永久機関や錬金術が、具体的な計算や実験をしなくとも、エネルギー保存則や質量保存則によって否定されるのと同じです。

このように考えると、あらゆる経済や財政の議論において、難しい理屈を議論する前に、この単純で誰もが覚えられる3法則を前提にすべきだと思うのです。


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