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箱根駅伝2025「8万円使い捨てシューズ」、日本ビジネス界への衝撃

青山学院が優勝した箱根駅伝2025。その国民的な注目は、着用シューズまでにも及ぶ。とくにNIKEがカーボン板入りの厚底スーパーシューズを一般発売した2017夏から勢力図が激変中 ↓

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF030UI0T00C25A1000000/

この間、僕もnoteやSNS発信も幾つか注目いただいた(活かせた投資家さんパフォーマンス良好ですよね?エヌベディアほどではないが笑/泣)

このnoteでは、今回アディダスシューズ大逆転(or3強みつどもえ化)の背景を、一般ビジネス人の目線から説明する(ランニング界隈なら既知の情報多いと思います)。まずはシューズの前に、レース自体の話をしよう。シューズとはレースの道具にすぎないから。


青山学院の優勝=山区間の圧勝

青学勝利の最大要因は、「山チーム」の強さ。

スポーツのトレーニングに「特異性」という大原則がある。箱根駅伝というレースでは、1000m近い山という特殊環境に適応したトレーニングが必要になる。その適応に最も成功したのが青山学院だ。(特異性とは、ダーウィンの「適者生存」とも共通する考え方)

その環境での最適適応者、という点では、2024年の大学男子長距離では、「世界基準ランナー=東京国際大・エティーリ、日本人ではマラソン=國學院・平林、トラック=駒澤・佐藤とか、平地の駅伝=國學院、箱根駅伝=青学」みたいな勢力図だろう。箱根駅伝はあくまでも、関東ローカルの学生自主開催(という建前)の、特殊イベントであって、「大学王者決定戦」ではない点は注意。ただ注目度が超高い。

箱根2025では、1青学ー2駒澤の総合タイム差は2分48秒。うち山の5区+6区だけで2分35秒差がついた。平地8区間の差は13秒だけ青学が速いが、これだけならどっちにも転びうる微差だ。仮に駒澤の山が同タイムなら、2校のすごい激戦が大手町まで続いただろう(見たい!)

ちなみに3位國學院は、総合で青学と9分28秒差、うち6分41秒が山。國學院は2024年、平地の2大駅伝を2連勝した実力トップチームだが、山が弱ければ箱根は無理。仮に山が青学と同タイムなら、駒澤國學院の大八木ファミリー2校対決での2位争いが大手町まで続いただろうが(見たい!)、その展開なら、焦りとかペース配分とかのマイナス要因が消えて、優勝争いすらありえただろう(3校での大手町ゴール対決は超見たい!!!)

青学は最近、山区間で、圧倒的&安定的に強い。上り、下り、それぞれスペシャリストを(たぶん何人かのチーム的に)育成し、その層が厚いということだろう。

冒頭の「特異性の原則」により、上りに適応すれば、平地の伸びは限られる。今回新記録だした若林選手も、「山に向けたトレーニングはやっぱり特殊なので、山は走れるのですが全く平地が走れなくなります」と語る ↓

下りの新記録は、スーパーシューズ使いこなしの技術向上が効いている。昔よりクッション&反発がはるかに大きいので、ブレーキを減らして突っ込んでいけるいから。そのための技術とは、筋力アップなどの体力向上とセットだ。これは上りも同じく。これら特殊2区間に対応した筋トレなど、「箱根専用メソッド」の蓄積も青学は強いと思う。

手札が豊富なのはメンタル面も。3年前にもnoteで書いた:

シューズの話:アディダス逆転首位の背景2つ

以上の話は前提としての必須知識。シューズの進化と一体で、トレーニング改善が行われているから。

冒頭グラフ再掲 ↓ アディダスとアシックスが伸び、NIKEは大陥落したが、3ブランドの差は小さい。プーマも地味に伸びている。

グラフ出典は下記の日経記事 ↓

この差はなにか? 

①基本は営業力、②今回は「8万円シューズ」の戦略活用、だと思う。つまり性能差は(ほとんど)無い。そして②の点は、今後のシューズ市場、ひいてはスポーツ市場に、影響が続くのでは?と思う。

まずは①営業力。20大学(+選抜で16大学)の数百人にアプローチできる営業力は必要。このあたりの事情は藤原岳久さん昨年末のインタビューが詳しい ↓

性能は、履かれていない他社も含め、同等と思っていい。7区で大幅に区間記録を更新した(故障あがりなのに!!)駒澤大学・佐藤圭汰選手はOnで圧倒的結果を出し続けている ↓

NIKEがスーパーシューズを本当に独占していたのは、2017年夏から20年秋ごろまで、21年夏の東京五輪ではほぼ対等に並ばれた。つまり箱根なら、18〜20までの3大会は性能的に圧倒していた。2021年1月ではアシックスほか他社もほぼ同等のシューズを出してはいたが実績が少なく、箱根ランナーは失敗しないこと最優先、超保守的な選択をするので、NIKEは率が9割を超えた。その最後の21年1月のnote:

※追記:前日の実業団駅伝では、状況がかなり違う

「性能差はほぼ無いし、メーカー営業力で左右されてるよ」と示唆できそうじゃ話を、詳しい方々が:

ナイキが依然首位、「旧モデル着用者が結構いる」、とはおもしろい。既に性能進化は止まっている、くらいに思ってよさそうだ。

「アディオスPRO EVO1着用者は箱根駅伝より圧倒的に少ない」というのは、本来、学生のほうがお金がないはずなので、大学側へのマーケティングが優先された可能性を示唆しているのかもしれない。

「4区外国人選手のナイキ着用率が高い」とは、ブランド変更しなかったということで、逆に日本人は日本国内での営業努力が効いた、ということかもしれない。

「8万円シューズ」の戦略活用

首位アディダスの多くは、1足8万2500円のアディゼロ アディオス Pro EVO 1。基本的性能は他社スーパーシューズと同等のようだが、1つの圧倒的な違いは、耐久性を犠牲にした軽さ。

片足重量は脅威の138グラム(27 cm)、耐久距離は「フルマラソン1回分」だ。そこで本noteでは、「8万円使い捨てシューズ」という表現をした。
(実際の使い方としては、レースは普通新品を一回だけ使い、あとは練習に回すので、他社同様といえるが)

2023年9月に発表されており、藤原岳久インタビューの通り、夏合宿などで試せる日程でもあり(=そこに供給する営業力が前提)。

去年は青学の優勝に貢献した2人くらいが限定的に履いていた(アディダスのドイツ本社にとってもかなりな優先供給だったはず)。その供給先を拡大した。

「あのシューズが箱根で履ける!」となれば、使いたいランナーは多いはず。しかも多くのランナーにとって箱根は、ランナー人生最高の晴れ舞台だ。8万円定価で自費購入するとしても安い。箱根出場ランナーへの実際の供給価格はもっと安い事もありうるし。

プレミア感でいえば、ナイキやアシックスが、市販されてないプロトタイプを投入していたようだ。ただ仮にこれらの軽量性が同じでも、「アディダスEvo1なら幾つか世界記録が出ている」という実績の差がある。これは箱根ランナーにとって超重要。

アディダスは、2.8万円のアディゼロ アディオス PRO4の着用者もまあまあいる。200 g(27 cm片足重量)でも十分軽く。他社の市販シューズとスペック的にも同等、コスパでいえば最高といえる。下り区間などはこちらの方が合いそう。

このライバル、ナイキのアルファフライ 3は¥40,480(218g/28cm)ヴェイパーフライ 3は¥37,730(200g/28cm)、価格的に負けている感ある。というか、アディダスのPro4が戦略的に安い。

アシックスのメタスピードは¥ 27,500で185g/27cm(スカイもエッジも)

アディダスのEvo1が突出している。
同時に、PRO4のコスパの高さも際立って見える仕掛けだ。

(アディダス萩尾新代表の戦略?)

ちなみに、アディダス ジャパンは24年9月、新代表に萩尾孝平氏が就任。21年からプーマ ジャパン社長だった方。萩尾代表は1973年生まれ、同志社大学商学部卒、96年さくら銀行(三井住友銀行)、2003年アディダス ジャパン入社、名作ランニングシューズ“アディゼロ”の開発も担当した。箱根のアディゼロへの熱量は超高いはず。本社への優先供給の交渉などもしやすかっただろう。

「8万円シューズ」の一般ビジネスへの影響とは?

かつて1足1.5万円が最高価格帯、耐用距離も長かったランニングシューズは。NIKEカーボン以来、3−4万円が普通になった。(円安によりさらに上がる可能性もある)

この中で、8万円、というさらに2倍価格が、日本中にこれだけ認知された、という事実が、今回発生した。

この影響は、今後のスポーツ、それ以外の消費市場に、今後でてくるかもしれない。今回はそれだけ予言しておこう。

24年秋のnoteで書いた「ランニングシューズはサブスクビジネスである」という話の延長線上、その最新形だ。

参考:山区間の計算

  • 青山学院2時間05分58秒=5区若林宏樹1時間09分11秒+6区野村昭夢56分47秒

  • 駒澤2時間08分33秒=5区山川拓馬1時間10分55秒+6区伊藤蒼唯57分38秒=2分35秒差

  • 國學院2時間12分39秒=5区高山豪起1時間12分58秒+6区嘉数純平59分41秒=6分41秒差

Perplexityが爆速計算、とおもいきや、タイム間違いなど混ざり、結局再計算した笑。AIは危険笑。

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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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